3~5章【誰かが見つめる世界】☕🍃【AI短編小説】哲学的○○○○ファンタジー(約4000文字)『ーーーー』
第3章:追われる影
視点: 賞金稼ぎバラン・クロウ
バラン・クロウは、久しく追っていた「標的」の情報を耳にした。
彼の行きつけの酒場、煤けた木のカウンターに肘をつきながら、ぼんやりと飲んでいると、噂話が入ってきた。
「おい聞いたか? 森の旅人だ。黒い霧みたいな奴で、怪物を退けるほどの力を持ってるらしい。」
「そんなの作り話だろう? 旅人がそんな怪力を振るうなんて……。」
バランは軽く耳を傾けた。これまで彼が追ってきた標的の中には、常識外れの力を持つ者も少なくない。今回の話もその類に違いない、と彼は思った。
しかし―― 「高額な賞金首だ」と聞いた瞬間、彼の目が変わった。
「どれくらいの額だ?」バランは低い声で問いかけた。
酒場の男が小声で言う。「100金だとさ。これだけ出すってことは、相当厄介な奴なんだろうな。」
バランは口の端を持ち上げ、笑みを浮かべた。100金。それは彼が過去に手にしたどの報酬よりも高額だった。
「標的は村にいる。」
それが酒場を出た後に仕入れた情報だった。バランは荷物をまとめ、村へ向かう準備を始めた。頭の中では、標的をどう捕らえるか、次々と策を巡らせていた。
「黒い霧の旅人だって? 化け物だろうが人間だろうが、俺の刃にかかれば同じことだ。」
彼はそう呟きながら、腰に装着した二本の短剣を軽く叩いた。
バランが村の外れに着いたのは、日が暮れる直前だった。
薄暗い空の下、村の家々からはかすかな明かりが漏れている。彼は静かに村を観察し、標的を見つけるタイミングを見計らった。
村の中央に集まる人々の間に、黒い霧を纏った存在が立っているのを見つけた。酒場で聞いた通りの姿――それが「影の旅人」だった。
「あれか……。」バランは小さく息を吐いた。
翌朝、彼は行動を開始した。
影の旅人が村を歩いているところを遠巻きに追いながら、動きの隙を探る。だが、何かがおかしい。標的が普通の人間ではないことは明らかだった。彼の姿は時折ぼやけ、まるで霧のように消え入りそうに見える。
「面倒だな……。」
バランは短剣の柄を握りしめた。隙を突いて一撃で仕留める必要がある。だが、その瞬間、影の旅人が振り返った。彼の目がどこを見ているのか分からないが、確かにこちらを見据えた気がした。
「気づかれている……か?」バランの背中に冷たい汗が流れる。
夜、村の外れの廃墟で、バランはついに影の旅人に対峙した。
短剣を構えた彼の前で、影の旅人は一言も発しない。ただ静かに立っている。
「おい、黙ってないで何か言えよ。」バランは挑発するように声を上げた。
だが、影の旅人は反応しなかった。その沈黙が逆に不気味だった。
バランは突き出した短剣を止めた。
何かが頭の中で変わった。記憶が――ぼんやりと歪む感覚が広がる。影の旅人の周囲に漂う霧が、彼の思考に侵入してくるようだった。
「俺は……何をしている?」
バランの握った短剣が震え、次第に力が抜けていく。彼の脳裏に、長い間押し殺してきた過去の記憶が浮かび上がる。
家族を守れなかった日のこと――その罪悪感。
バランは膝をつき、短剣を地面に落とした。「何なんだ……お前は……。」
影の旅人は何も言わない。ただその場を静かに離れていく。バランの視界には、薄れゆく霧の影が最後に映った。
「俺は、何を間違えてきた……?」
彼はその夜、一人廃墟に座り込んだまま、自分の過去に向き合っていた。
第4章:貴族の謀略
語り: セラフィム・ローズヴェイン
宮廷での栄華を失い、辺境の領地に追いやられたことを嘆く日はとっくに終わっていた。いま私が考えるべきは、再び中央の舞台に戻るための計画――そのために使える駒を探すこと。
そんな折、影の旅人の噂が耳に入った。
黒い霧を纏い、怪物を退ける力を持つ存在。人でも怪物でもない、曖昧な何か。最初にその話を聞いたとき、私は冷静さを保ちつつも、内心では興奮を隠せなかった。
「もしその力が本物なら……。」
その力を利用すれば、私の計画を成し遂げるための重要な一手となるかもしれない。
影の旅人と出会ったのは、宴席でのことだった。
村から連れて来させた彼を、城の広間の中央に立たせる。周囲には、私が信頼を寄せる家臣たちが控えている。だが、誰も彼に近づこうとはしなかった。影の旅人が放つ得体の知れない雰囲気が、彼らの本能的な恐怖を掻き立てたのだ。
私は椅子から立ち上がり、彼の前に歩み寄った。
「あなたが『影の旅人』ね。」
その言葉に彼は反応しなかった。ただ静かに立っている。
「私はセラフィム・ローズヴェイン。この地方を治める者よ。」
私の声に何の変化も見せないその姿を前に、私は不快感と興味を同時に覚えた。
彼の力を確かめるため、試練を用意した。
私の領地では近頃、山賊の被害が相次いでいる。彼らを退治するための戦力として、この影の旅人を送り込むつもりだった。
「山賊を討ち、あなたがただの噂話ではないことを証明してちょうだい。」
私がそう命じると、彼は微かに首を傾けた。それが了承の意味なのか、否定の意味なのか、私には分からなかった。
数日後、報告が届いた。
影の旅人が単身で山賊の根城に乗り込み、彼らを全滅させたという。それも剣や弓などの武器を使わず、ただその存在の力だけで。
「まさか……本当にやったというの?」
私はその報告書を手に取り、驚愕と興奮で息を呑んだ。
だが、同時に奇妙な噂も耳にした。
山賊たちが消える直前、彼らは「過去の罪が目の前に現れる幻影」を見たと口走っていたという。影の旅人の力は、ただ破壊するだけではない。何か深い心理的な影響を与えるものだ。
「面白い……。」
私は微笑みを浮かべた。この力を完全に手中に収めることができれば、失ったすべてを取り戻すだけでなく、それ以上の権力を得られるかもしれない。
だが、彼を完全に制御するには時間が必要だと感じた。
影の旅人は、私が命じたことを従順にこなすが、そこには意思が見えない。ただ流れる霧のように、私の意図をただ受け止めているだけだ。
「あなたの心に触れることができれば……。」
私は彼の存在の核心を知りたいと思った。それが私の野望を叶える鍵になると確信したからだ。
影の旅人との接触を深める中で、私は奇妙な夢を見るようになった。
夢の中で、彼と同じ黒い霧に包まれた影が現れ、私の過去を責め立てる。そして、その声が語る。
「お前は、自らの野望のために何を犠牲にしてきた?」
目が覚めるたび、胸の中にわずかな不安が残る。しかし、私はその不安を振り払った。今は目標を達成することだけに集中するべきだからだ。
影の旅人との共闘を進める中で、彼の力の代償が徐々に明らかになる。
彼の存在が影響を与える範囲が広がるにつれ、私の領地の人々の記憶が曖昧になり始めた。何かが変わりつつある。だが、それが何を意味するのかはまだ分からない。
「その代償がどれほど大きくても、私の野望を止める理由にはならない。」
私はそう自分に言い聞かせた。影の旅人は、私の計画に欠かせない駒だ。そして、いずれ私の手で完全に操れる存在になるだろう。
第5章:恐怖の影
語り: モンスター・アルゴス
私の名はアルゴス。
深い森の奥、岩陰に潜む獣であり、世界の秩序からはみ出した存在。私がこの場所に追いやられたのは、人間どもが私を「災い」と呼び、恐れたからだ。
だが、私は彼らを憎んではいない。憎しみという感情は、私たちのような生き物にとっては不要だ。ただ生き延びるために、弱者を喰らい、強者を避けてきた。それがこの森での掟。
ある日、森に異変が起きた。
空気が震え、霧が濃く立ち込めた。その霧の中に、私は見たことのない存在を感じ取った。黒い霧を纏い、どこか不明瞭な形をした何か――いや、誰か。
その存在が森の奥に近づいてきた瞬間、私は背筋に寒気を覚えた。
それは怪物でも人間でもない。どのような姿なのか、目に映るはずなのに正確に形を捉えることができない。そして、その「視線」を感じるたび、自分の過去がよみがえる。
「やめろ……。」私は思わず呟いた。
私が人間に敗北したあの日の記憶――それを無理やり思い出させられる感覚に襲われる。
霧の中から、影の旅人が現れた。
彼は何も言わず、何も語らない。ただ、私の目の前に立ち、その曖昧な姿を晒している。私は動けなかった。普段なら、このような侵入者に容赦なく牙を剥く。だが、この存在にだけは本能的な恐怖を覚えた。
「お前は何者だ……?」私は低い声で問うた。
だが、その問いには答えが返ってこなかった。ただ、霧が私の周りを包み込み、意識がぼやけていく。
私は気づけば、その者に跪いていた。
私の中に何かが変わったのだ。かつて私は自由な獣だった。しかし、今ではこの存在の従者となっていた。
それがどうして起きたのか、自分でも分からない。だが、彼の力が私の記憶を抉り出し、私の「意思」を塗り替えたことだけは確かだ。
影の旅人は、私を連れて森を出た。
彼が向かう先に何があるのか、私は知りたくもない。ただ、彼の後を追わずにはいられなかった。その存在に抗うことなど、最初から不可能だったのだ。
森を抜けた先には、人間たちの村があった。
私は一瞬、本能的に身を引いた。人間たちは私を「災い」として追い払い、この森に閉じ込めた憎むべき存在だ。だが、影の旅人がいる限り、彼らに手を出すことはできない。いや、したいとも思わなかった。
奇妙なことに、私の中の「憎しみ」が薄れていたのだ。
影の旅人が私に何をしたのか、その正体は今も分からない。ただ、彼と共にいる限り、私の中の「何か」が静かに抑え込まれている。
村に着いたとき、人間たちは私を見て悲鳴を上げた。
「怪物だ!」
「何でここに……!」
彼らの声が響く中、影の旅人は一言も発さずにその場に立ち尽くしていた。そして、人間たちが怯えながらも武器を持ち出そうとした瞬間、彼は静かに手を挙げた。
その動きだけで、村人たちはぴたりと動きを止めた。
私には分かる。影の旅人の力が、彼らの記憶や思考に影響を与えているのだ。彼の存在そのものが、彼らの恐怖を凌駕している。
私たちは、村の中に入った。
人間たちは遠巻きに私と影の旅人を見つめるばかりで、誰一人として近づいてこようとはしなかった。私は人間たちの視線を感じつつも、なぜか平静を保っていた。それも彼の力なのかもしれない。
私は、初めて考えた。
「自分は、何のためにここにいるのか?」
この影の旅人と共にいる理由を、私はまだ見出せていない。ただ、彼が持つその曖昧でありながらも絶対的な存在感が、私を引き留めていることだけは確かだった。
ーーつづくーー