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SHIP主催のイベントで落合陽一と下河原忠道の対談を聞いて思った介護とテクノロジーと自立支援との関係について.

東新宿SHIP主催のイベント「シンギュラリティ時代の介護と多様性Vol2」に行ってきた.落合陽一と下河原忠道の対談を聞いて思ったのが,介護とテクノロジーの関係は今後ますます自立支援の方向にすすむということ.

介護×テクノロジーと言うと,これまでは介護する側(多くは介助者)をサポートするという発想が主だったように思う.
 たとえば,介助者の腰の負担を軽減する「HAL」,夜間時の見守りの負担を軽減する「眠りSCAN」,ケアプラン作成の事務作業の負担を軽減する「CPA」などなど.

ちなみに,上記の例は無作為に選んでいるだけなので,べつに批判の意図はない.個人的には介護のテクノロジー開発はどんどん進んでほしい.

さて,それに対して,今回発表された自動運転車いす「xMove」("クロスムーブ" と読むらしい)は,"介護される側", というか,もはや "ユーザー" 側の自己決定と自己選択をサポートすることを目指している点がことなる.

この車いすでとりわけ焦点が当てられたのは "場所の移動" の問題だ.
 これまでは車いすでの移動というと,介助者がうしろから押すか,じぶんの手で車輪をまわすか,電動車いすのように手元のレバーを操作するか,の3パターンぐらいだったように思う.

でもこの「xMove」は "自動運転".つまり車椅子の側が自動で動いてくれるので,ユーザーは自力で操作することなく,ボタンをひとつ押すだけで,たとえば食堂だったり,風呂だったり,居室だったり,(在宅で言えば)買い物先だったりに自由に行くことができる(可能性がすくなくともある).

しかもこの車いすはなんと "ソフトウェア" 開発(!)ということだから,さまざまな "ハード" である一般の車いすに後付けで装着することができる.
 スマートフォンのアプリケーションのように,介護の分野にだって「カスタマイズ」があったってたしかにいい.

高齢者がじぶんの意志で場所の移動ができるようになれば,これまでそこに費やされてきた介護職員の業務負担はもちろん減る.とはいえ,これはあくまでも副次的な産物だろう.

肝心なのはこの車いすが "ダイバーシティ・フレンドリー" なところにある.

つまり,どのようなからだになっても,どこそこの場所にじぶんの意志で自由に行きたいという高齢者や障害者の "想い" を叶える仕組みになっている.
 電動車いすと異なるのは,"からだ" ではなく,この "想い""こころ" をよりいっそう支援するところにある.
 じぶんの手で車椅子の車輪を自由に動かせたり,レバーを自由に操作できるならそれでいい.でもその自由さはからだの "健常" さの度合いに依存している.ではなんらかの理由でからだの自由を失ったら?
 自動運転車イスでは,からだを自動で動かすのは車いすだが,その行き先のボタンを押すのは本人のこころ.意志だ
 からだのサポートをするテクノロジーではなく(それでは電動車いすと同じだ),こころの(いわばからだからの) "自立" を "支援" するテクノロジーであるとはこの意味においてだ.もちろん "自律" と言い換えたっていい.

仮に「"自立" とは "依存先" を増やすこと」なのだしたら,こころの依存先が じぶんの "からだ" や「社会」であるだけでなく,"テクノロジー" であったっていいはず.

すくなくとも,高齢者や障害者なのだから車椅子をうしろから人の手で押してもらってお礼に笑顔を返そうね,というパターナリズムの発想ではもはやない.
 からだが不自由になってもこころは自由だ

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なんてことを書くと,おいおい転倒したら? 滑落したら?認知症のひとはどうすんだ!という声があがってきそうだ.
 その気持ちはわかる.
 個人的には,ボタンひとつで自由に場所の移動ができるとしても,認知症のひとはそれこそボタンがあれば押してしまう傾向にあるから,AIを使って生活パターンを解析して,ボタンを押し間違えても,そのひとがほんとうに行きたかったところに自動で連れて行ってくれるようになれば,まさにじぶんの "思い" をテクノロジーがサポートするかたちになっていいなあ,と思うのだが,とはいえリスクのことがどうしても気になるなら,「普通の車椅子を使えばいい」,という落合のアンサーが真っ当な落とし所だろう.

飛行機事故にあいたくなければ,飛行機に乗らなければいい."新たなテクノロジーの発明は新たな事故の「発明」である" ことはまちがいない.

だからべつに自動運転いすに問題がないわけではないし,とはいえ問題だらけなわけでもない.ましてやすべての問題を解決してくれるわけでもない.このへんに関しては,いまは「ホームランを打つのではなく,ヒットでもバントでもいいから塁にでることが大事」という下河原の指摘が頷けた.


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