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鍵を忘れる対策をこれまた失念する、涙ぐましい努力あれこれ。
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PASSは忘れてナンボだからこそ自動生成されるのだろうし、鍵もまた忘れたときの処置方法は必ずある。ヒトは忘れ、なくし、失敗する生き物だけど失敗したときにどうするか、考えられる生き物でもある。
私の住まいはマンションで、エントランスとエレベータには電子キーで入る。自宅には鍵を差し込まなければならない。たまに鍵を持たずに出てしまって、なんとかヒトの波に乗ってコンシェルジュさんに挨拶して入り、ロビーのソファでつれあいの帰りを待つ、ということもある。
ひとり暮らしだとそうはいかない、警備に連絡するとなんらかの対応もしてくれるようだ。管理会社は住民事情をよくわかっている。
先日、マンション住まいの友人に聞いたのだが、友人はとにかく鍵を忘れがちでしかも深夜に犬の散歩に行く。散歩から戻って鍵がないと、明け方まで出勤かなにかで誰かが出てくるまで犬とともにじっと待つと言っていた。友人の家族はそれぞれ独立して、ひとりで住んでいることが多いのだそうだ。連絡はつくけれど、家族の助けは優先順位の後の方になる。
いちど休前日にそれをやってしまって、明け方近くになっても出勤するヒトがいないので全然扉が開かない。犬も弱ってきて、しょうがなくマンション内の友人にSNSをして開けてもらったそうだ。想像するに厳しい状況だ。
しかも、マンション内に入れても、当然家には入れない。どうするか。
「玄関脇のルーフバルコニーの壁を乗り越えるの」
2メートルを超えそうな高さを示してそう言う。
「ちょうど真ん中あたりに隙間があって、足をかけられるから」
いや、そういう。
「段ボールとかにのっかってとにかく火事場のばか力で」
ちょ、ま。暗くない? 落ちたら、壊れたら…。
あんまり体力がなさそうに見える友人だが、何度も(!)その方法でやりすごしてきたらしい。なにか別の方法はないのか、そこにいた者たちはざわめいた。
「首から鍵を下げろ」
「それを忘れる」
「犬の首輪に仕込め」
「管理的に危ない」
「マンション住人に金を払って鍵を預けろ」
「引き受けるヒトなんている?」
友人が鍵を忘れて外出することは、管理会社にも既に有名になっているらしい。なにか方法はないものか。
別の友人が、一戸建てに住んでいる子ども夫婦の鍵騒動を教えてくれた。電子キーを3つ用意していたのに、なぜかすべて家の中に入ったまま、外に出てしまった。
「あーバッグ忘れた、鍵持ってる?」
「…持ってないよ」
「え?!」
幼い子どもをふたりかかえ、夫婦で実家に転がり込んできたそうだ。幸い実家は歩いてすぐ、しかも部屋はたくさんある。実家に1泊し鍵の会社に連絡し、電子キーの取り換えで20万円かかったという。その後、もちろん鍵は実家にも会社にも置くようになったので鍵の閉じ込め対策はしているが、防犯的には微妙だ。
PASSといえば、先日ボケが爆発して、スマホのパターンを失念した。そんなことってある?! いつも無意識にパターンを入力するのに、そのときに限って「パターンが違います」エラーが出る。はあ? なんどもやり直すと30秒待て指令が出る。超絶焦る。生体認証もエラーになる。即PCで検索して、パターンが合致しないときの対策原因対処法を調べる。ないこともないが、面倒な手間はかかる。SIMの出し入れから立ち上げしてもダメだからあれしてこれして…とするうちに、パターンがサクッとつながった。結論として、なぜか一手多く入れていたのだった。緊張のあまり妙に意識してパターンをなぞっていて、ふとカラダが覚えている動きで助けられたという。よ、よかった。というか、自分が怖い。信用できない。バカバカしいが、とにかくパターンの図をメモボードに張り付けた。そして生体認証をもういちど設定しなおした。どうした私の指紋。
家に入れないのも致命的だが、スマホが開かないのもかなり致命的だ。外付け知能としてどれだけスマホに頼っているか、いや、自分の脳を甘やかしているか。
いざというときの対応ができるのが人間なはず。年を重ねるにしたがって、さらに保険対策は重く厚くなっていく…とまた、それも忘れるんだよなあ。