#533 ベン・ホロウィッツ『HARD THINGS』読書アウトプット(第6章)
ベン・ホロウィッツさんの『HARD THINGS』を読んだアウトプット。
第6章です。
この章は、NBAの名将の話、ジェフ・ベゾスの興味深い話があり、一番印象に残った章です。
第6章 事業継続に必要な要素
どの職級でも、社員は自分の能力を測る物差しを直近上位の職階の社員の中で最低の能力の社員に求める。仮にジャスパーという男が副社長の中で一番能力が低いとしよう。すると部長職の社員は、全員がジャスパーと自分を比べて自分には昇進の資格があると考える。すると副社長はすべてジャスパーと同程度の能力の社員で占められるようになる。
以下同様にして、すべての職階が無能レベルに達する。
ピーターの法則もダメ社員の法則も完全に避けることは不可能だが、緩和することはできる。
そしてどのよう程度緩和できるかが、会社の健全性のために決定的に重要になってくる。
偉大なフットボール・コーチのジョン・マッデンは、「テレル・オーウェンス(のような問題児)を自分のチームで許容するか」と尋ねられたことがある。オーウェンスは最高に才能ある選手のひとりだったが、同時に性格は最悪だった。マッデンはこう答えた。
「ひとりがバスに乗り遅れれば、チーム全員が待っていなければならない。うんと遅れれば、チームは試合に間に合わなくなってしまう。だからそんなヤツは許しておくわけにはいかない。バスには出発しなければならない時刻がある。そうは言っても、時にはあまり役に立つので、バスを遅らせるのもやむを得ないような選手もいる。しかしそれはよほどの選手に限る」
NBAのタイトルを何度も獲得した名コーチ、フィル・ジャクソンも変わり者のスーパー・スター、デニス・ロッドマンについて同じようなことを言っている。ロッドマンはが練習に出て来なかったことについて「それならマイケル・ジョーダンやスコッティー・ピッペン(のようなスター選手)も練習に出て来なくていいのか」と質問されたとき、ジャクソンはこう答えた。「もちろんダメだ。このチームにデニス・ロッドマンはひとりだ。社会全体を見回しても、デニス・ロッドマンみたいなことをしていい人間はめったにいない。そうでなければ、われわれは無政府状態に陥ってしまう」
時として会社には、デニス・ロッドマンのようにあまりに貢献が巨大なので、何をしても許容せざるを得ないような社員が存在することがある。だがその場合、CEOはその社員の悪影響が会社の他の社員に広がらないように自ら措置を講じなければならない。「社会全体でもデニス・ロッドマンはめったにいない」ことを肝に銘じておくべきだ。
個人面談で役に立つ質問の例をいくつか挙げてみよう。
・われわれがやり方を改善するとしたらどんな点をどうすればよいと思う?
・われわれの組織で最大の問題は何だと思う? またその理由は?
・この職場で働く上で一番不愉快な点は?
・この会社で一番頑張って貢献しているのは誰だと思う? 誰を一番尊敬する?
・きみが私だとしたら、どんな改革をしたい?
・われわれの製品で一番気に入らない点は?
・われわれがチャンスを逃しているとしたら、それはどんな点だろう?
・われわれが本来やっていなければならないのに、やっていないのはどんなことだろう?
・この会社で働くのは楽しい?
こうした質問を重ねていけば、非常に良いアイデア、会社の問題、社員の私生活の深刻な問題などが必ず引き出されてくるという点が重要だ。
アマゾンの創業者兼CEOのジェフ・ベゾスは、アマゾン・ドット・コムをスタートさせた直後から、この会社は「顧客に価値を届けることで収益を上げるべきであり、顧客から金を搾り取ることによって収益を上げるべきではない」というビジョンを抱いていた。この目標を実現するには、価格面でもカスタマーサービスでも長期的にトップに立たねばならないと考えた。金を無駄遣いしていたは、その実現は不可能だ。
長年にわたって口やかましく支出を検査し、浪費した者を見つけるたびに雷を落とす代わりに、ベゾスは驚くほどシンプルな手法で「質素」という企業文化を一気に打ち立てた。ベゾスはホームセンターからドアを買ってこさせ、足を釘付けにしてデスクをつくらせた。ドアでつくったデスクは人間工学的に優れているとは言えないし、1000億ドルを超えるアマゾンの時価総額ともマッチしない。しかし、新入社員はドアでつくったデスクで仕事をしなければならないことにショックを受ける。「なぜこんなことをするんですか」と驚いて尋ねると、「われわれは最低のコストで最高のサービスを提供するためにあらゆる機会をとらえて1セントでも節約しなければならないのだ」という答えが必ず返ってくる。ドアでできたデスクで仕事をすることが耐えられない社員は、遠からず辞めていくことになる。
組織のデザインで第一に覚えておくべきルールは、すべての組織デザインは悪いということだ。あらゆる組織デザインは、会社のある部分のコミュニケーションを犠牲にすることによって、他部分のコミュニケーションを改善する。
1 どの部分にもっとも強いコミュニケーションが必要か
2 どんな意思決定が必要なのかを検討する
3 もっとも重要度の高い意志決定とコミュニケーションの経路を優先する
4 それぞれの部門を誰が管理するかを決める
5 優先しなかったコミュニケーション経路を認識する
6 あるコミュニケーション経路を優先しなかったことから生じる問題を最小限とするような手を打つ
『バスを待たせて構わないのは誰だ』に書かれているような、秀でた成果を出す人には特例を認めることが、日本ではなかなか難しいように思います。
特例を認めざる得なくなったときには、特例であることをチーム全体に認知させ、「悪影響が会社の他の社員に広がらないように自ら措置を講じた」ことで、フィル・ジャクソンは、NBAで72勝10敗という当時の最高勝率を記録したチームを作り上げたのでしょう。
かなりバスケ寄りの話をすると、オフェンスに秀でたジョーダン(ディフェンスも凄かった)、ディフェンスに秀でたピッペン(オフェンスも凄かった)、リバウンドに秀でたロッドマン(問題児と言われるくらい色々あった)のビッグスリーの秀でた能力をフル活用できたからこそ、最高の成果を出すチームができたのだと思います。
ジェフ・ベゾスの「われわれは最低のコストで最高のサービスを提供する」という収益に奢らず、最高のサービスを提供することを徹底する話は、初見だったので新鮮でした。
過去に、私の会社でも強く「コストカット」を求められた時期がありましたが、会社の収益のためとわかりつつも、明確な目的は伝えられないままでした。
『個人面談』の話は、課題の掘り起こし、『組織のデザイン』の話は、コミュニケーションをルールに取り込むことに役立つと思いました。