手動の好晴/自の悪晴

ずいぶん古流なやりかただ

高石さんはそう呟くと無言で私の工作物に手を伸ばし、細々と観察しはじめた。
私はその様子を、半身だけ引いて眺めていた。

高石さんに万物を見られている時は、なんだろう、
悪い気持ちはしないのに、
急に午後の天気のぐずつきが気になったり、途方もない秩序の事に気を止めたり、
ともかく、いまこの瞬間の気持ちから離れたくなるのだ。

「うん、いいね。古さも生きてる」
「ありがとうございます」

ハッと意識を戻して間髪入れずに返事をした。

「今日は、空は開くのかな、午後は」

高石さんは毎回わざわざ局に問い合わせているようで、
私の話しやすい話題を良い間で提供してくれる。

「えっと、今朝は冷えましたので、一応傘を持ってきました。でも見たところ開きそうですね」

「傘、傘ね」
のんびりとした話し口の高石さんは、頃の良い言葉だけを抜き出して反復する。
「きみは本当に古流なものを好みますね」
そう話す高石さんの目尻のシワ。

「傘は古い分類には入りませんよ」
反論してみせた。
だって今日はもう乗り合わせの時間が迫っているのだ。

「高石さん、そろそろ」
「はい、どうぞ気にせず行きなさい」

また次点に、とお互い声をかけて私は去った。

「あっ」
もうずっとずっと遠くまで来てから、
工作物も傘も、会話の記憶まで、何から何まで高石さんのところに忘れて置いてきてしまった事に気がついた。

空が開く。
閉じる頃には、また新しい工作物を持って行きます。

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