世界遺産の古墳群 食べて眺めて
大陸への航海の安全を願った沖ノ島祭祀を担い、それを宗像三女神信仰へ発展させた古代豪族・宗像氏の墳墓である新原・奴山古墳群。「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」の一つとして2017年にユネスコ世界文化遺産に登録された。地元の福岡県福津市はまちの活性化につなげようと、あの手この手で盛り上げている。登録から5周年を迎えた7月に訪れてみた。
■楽しい古墳スイーツ&グルメ
「古墳パフェ」「古墳風カレー」。図書館や歴史資料館などが入る福津市複合文化センター「カメリアステージ」。お気に入りの本を抱えた人が一休みしているカフェには、一風変わったメニューが並ぶ。
イベントから生まれた二つの期間限定グルメ。古墳パフェは抹茶アイスをベースに白玉、小豆、きな粉ゼリーなどを入れた和風スイーツ。かわいい人物か馬形埴輪のクッキーが付き、中に勾玉型の何かが隠されている。
古墳風カレーは、前方後円墳の形に盛られた雑穀米と周濠に見立てたスパイシーなルーをシャベル型のスプーンで「発掘」して味わう。いずれもアイデア満載で、交流サイト(SNS)でも人気のようだ。
8月29日まで開かれている世界遺産登録5周年記念イベントでは、3月の「ふくつの古墳まつり」同様、手作りの古墳グッズなどが用意され、手が動いてユーモラスな仕草・表情が楽しめる木製のハニワ君兄弟や、古代をモチーフにしたかわいいストラップやブローチなどがカフェの一角で販売されている。
■現地にはボランティアガイド
福津市からの宗像市方面へしばらくクルマを走らせると、田園風景の中にポコッポコッと隆起した緑の丘が現れる。5世紀から6世紀にかけて築かれ41基が現存する新原・奴山古墳群。歴史ファンには知られた遺跡だが、興味のない人にとってはごく普通の田園風景で「どうしてここが世界遺産なの?」と思わなくもない。
そもそも沖ノ島以外の構成資産はユネスコ諮問機関から信仰の継続性に疑義が示され、登録からの除外を求める厳しい勧告を受けていたほどだ。
そんな経緯もあってか、福津市では沖ノ島、宗像大社との一体性や意義などを解説するさまざまなパンフレットを用意するなど、古墳群のアピールに懸命だ。現地には展望所と駐車場を設け、ウオーキングコースを整備。熱心なボランティアガイドを配置するなど、地道な努力を続けている。
また、古墳群近くの「セブンーイレブン」福津勝浦店は看板類を目立ちにくい黒い色調に変えるなど、景観に配慮している。
京都などの有名な世界遺産と比べると知名度不足は否めないが、地域の宝をまち全体で盛り上げようとするその熱量はどこにも劣らない。
「10月には古墳群の周りがコスモスで彩られますよ」
ボランティアガイドからそう聞くと、眼下の田園風景が「おいでおいで」と誘っているように感じる。爽やかな秋空の下、歴史散策を楽しむ人々の姿を思い浮かべた。