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クローバー
四ツ葉のクローバーを見つけることが得意な智秋(ちあき)は、今日も小学校の校庭にある花壇の隅で、四ツ葉のクローバーを探しています。
「そんなに集めてどうするの?」
花壇の後ろからみんなを見守るゴーヤが聞きました。花壇に咲くパンジーたちも気になっています。
「あのね」
智秋はショルダーカバンから手のひらサイズのノートを取り出してゴーヤたちに見せました。
「押し花にしてね、ノートをいっぱいにするの。そしたらね、みんなに会えるんだって。ほら、あとひとつなんだよ」
そしてニコニコしながら再び四ツ葉のクローバーを探し始めました。
するとランドセルを背負った実環(みわ)が智秋の隣にしゃがみました。
暑さに合わない、そよそよとした風は、ふたりの時間を穏やかなものにします。空には雲がかかって校庭は薄暗くなり、夏とは思えないほど涼しい空気になりました。
「また探してるの?四ツ葉のクローバー」
「うん」
実環は、紫色のパンジーにとまるミツバチを、じっと見ています。
「見つかるといいね」
「うん」
それから数分後、四時間目の終わりと給食の時間を知らせるチャイムが鳴りました。ガヤガヤとした喋り声や、机と椅子を移動させたり給食台を出したりする音が、校庭まで聞こえてきます。
「今日はないんじゃない?」
実環が立ち上がって伸びをしました。ポキッとした音が響きました。智秋は黙々と探しています。
「ちーあき」
「あった!」
あまりに大きい声だったので、うとうとしていたパンジーたちは飛び起きました。
「あったよ!これでみんなに会える」
智秋は、その場で四ツ葉のクローバーを押し花にしました。ノートをぎゅっと抱きしめたと同時に、智秋は、キラキラと輝いて透明になり、消えてしまいました。
「また行っちゃったね」
ゴーヤが実環の後ろ姿に向かって呟きました。
「もう少し話したかったけどね、よかったよ。無事に旅立てて」
「そうだね」
ゴーヤが微笑むと、雲から太陽が顔を出し、校庭には夏らしい暑さが戻りました。
(了)