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夏だよ
ジーーーーーー
ジーーーー
「ちょっと」
「ん?」
「マツリ公園もだったよ」
「ほんと?」
「うん、ほんと」
ジーーーーーー
ジーーーー
「どうしちゃったんだろうね」
「ねぇ」
「教わったのと違うじゃんね」
「ねぇ」
ジーーーーーー
ジーーーー
「あのさ、あれじゃない?」
「ん?」
「古すぎるんじゃない、やっぱり。脱け殻を集めに来るなんて、最近の子はやんないんだよ、きっと」
「でもさ」
ジーーーーーー
ジーーーー
「ここから見える限りだと、集団で動いてすらないよ。うつむいてさ、何かで顔の下を覆ってさ。俺、思ったんだけど」
そう言ってケダは鳴くのを止めた。セケも止めた。
「出口、間違えたんじゃない?俺ら」
「んなわけないよ」
セケは笑って再び鳴こうとしたが、ケダの表情を見て固まった。
「戻ろう」
「え、正気かよ」
ケダは答える前に、どんどん木を降りていった。ケダは幼虫学校を1番で卒業したほど、何でも器用にこなす。セケもケダのように降りようとしたが、ふと、じめじめと湿った暗い土の中を思いだした。セケは風が吹く明るい場所が好きだ。
「じゃあ、もし違う世界があったら、迎えに来てくれよ」
ジーーー
ジーー
それからセケがしわくちゃに老いても、ケダが迎えに来ることは無かった。
(了)