前年の巣に飛来するツバメは同じツバメか
そろそろツバメが飛来する時期になる。必ず来るというわけではないが、拙宅では、住居のすぐそばにある車庫の軒下に巣を作る。
ツバメにとって、車庫の軒下は決して一等地とは言えない。強い風が吹けば影響を受けるし、住居のすぐそばだから真っ暗になるのは夜遅くになってからだ。
条件はけっして良くないのになぜ営巣するのか。たぶん、ツバメの世界でも住宅難が深刻化し、多少の欠点は我慢しなければならない状況になっているからだ。
時代の流れとともに、巣を作りやすい昔の日本家屋のようなタイプの家は減少傾向にある。
餌も取りにくくなっているだろう。田や畑は減り、反対に舗装が増えているから、虫も減りつつあるに違いない。ツバメは飛行中の虫を捕食するというが、飛ぶ虫であろうと、生まれ育つのは地中や地上だ。なかには水中や水上という虫もいるけれど。
とにかく、ツバメの棲息環境は悪化するばかりだ。ツバメにとっては生きにくい世の中であり、気の毒な気がする。
ツバメは昔、自然界に巣を作っていたという。私は見たことがないが、いまでもイワツバメなどは山地の岩壁や海岸の崖洞に巣を作るという。
それがいつの頃からか、外敵から身を守るため、人間を用心棒代わりにして、人家に巣を作るようになった、ということのようだ。
その説が正しいとするならツバメはなかなか頭がいいと思うが、用心棒とつきあってきたために、住環境という別の面でおびやかされることになったのは皮肉な話だ。
ところで、前年の巣へ飛来するのはその巣を作った親ツバメか、それともその巣で生まれた子ツバメか、あるいはまったく別のツバメか、ということを以前から知りたいと思っていた。
しかし、私はツバメの顔を見分けられるほど器用ではないし、当のツバメに訊いてみることもできず、わからないままでいた。
しかし謎は解けた。巣に戻ってくるのは、基本的には前年の親ツバメだそうだ。ただし、ときにはちゃっかり他人が住みつくこともあるらしい。
では、前年に生まれた子ツバメはどうしているのか。子ツバメは親から独立し、別の場所を探すのだという。言葉通り、巣立った後は社会で一人前に羽ばたくのだ。
考えてみれば納得できる。一組のツバメ夫婦が5個の卵を産んだとすれば、巣立った5羽すべてが実家に戻って同居するなどということは、自然の摂理から考えても現実的ではない。人間社会のように、跡継ぎなどという慣習があるはずもないし。
そして、独立していった子ツバメたちは、それぞれが新居を求めて建設用地をさがすことになる。しかし、なかなか優良物件が見つからず、苦労するというパターンになるのだ。
人間の社会では、近年空き家が増えつつあって問題になっているが、その空き家を、ツバメの団地としてでも利用できればいいのだが。