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先立つものがない

〔解説〕

 元になったことわざはよく知られた「先立つものは金」である。何をするにも金が必要であるという意味で、金がなければ何もできないということに皮肉を込め、端的に表している。

 金がものを言うという意味のことわざには、ほかにも「地獄の沙汰も金次第」がある。悪事を働いた者が地獄へ行くときの沙汰、つまり、地獄の裁きでも、金をつかませれば有利な判決が出るといわれるくらいだから、まして俗世では、すべてのことに金の力がものを言うというわけである。

(ここまではパロディーではなく事実)


〔さらに解説〕

 「先立つものは金」は、これまでに十分浸透したうえ、あまりにも陳腐でおもしろみがないという声が各界で高まっていた。
 これを憂慮した「珍語漫語の会」が見直しの運動を活発化させ、日本格言審査委員会に改訂を申し立てていた。

 改訂のポイントは「金の価値や、金がないことに対する実感や危機感が込められたものにすること」だった。そこで、具体的に「金がないことを前面に出す」ということになり、結局「先立つものがない」が採用された。
 金がないとどうしても心がすさむため、日常では「カラオケ行こうだと?先立つもんがねーや」などと、ふてくされた感じで使われることが多い。

 なお、これが制定されるまでの過程では、裏で金が動いたのではないかとの噂がある。審査委員会開催前の休憩コーナーで、珍語漫語の会の須湖すこ副会長が日本格言審査委員会の尾琴場委員長に、
「制定までにはいろいろ費用がかかるでしょうから、特別措置として当会でも別会計から少し捻出しましょうか」
 と水を向けたところ、尾琴場委員長が、
「やはり先立つものは金ですかな。とは言っても、金が動くのはうまくないでしょう。私としては、かわりに須湖副会長とグラスでも傾けながら、おとなの一夜を……ひっひっ」
「その話、まったく乗る気はないですけど、もし乗ったとしたら高くつきますよ。そうなると、先立つものがないでしょ」
 と冷たくあしらわれ、結局金も体も動くことなく、無事制定となった。


街頭インタビュー

47歳(女)主婦
「ああ、新しいことわざができたんですか。へえ、いいんじゃないですか、それ。ていうか、それ、ことわざじゃないでしょ。あたしなんか、若いころからずっと言ってますよ。今朝だって、リフォームしたいっていう夫に言ったばかりよ」

53歳(男)自営業
「先に立つものがない? 立つものはあるよ。おねえさん、すごいナイスバディだけど、独身? 女房が相手ならだめだけど、おねえさんが相手なら、もうバッチリ、ギンギン」





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