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どうしてもしゃべりたい人たち
世におしゃべり好きの人は多い。
かつてクライアントだった広告代理店のA氏は、パソコン相手の仕事などは大嫌い。しゃべるのが仕事である営業係を得意としていた。何時間でもしゃべっていられるよ、などと自慢していた。
私の事務所を訪れたときも、話にチカラが入ってなかなか帰らなかった。私がカップ麺に湯を注いだ直後に訪れたこともあった。
B女は友人とガストへ行き、たいしたものをオーダーするわけでもないのに3時間以上も雑談をしている。先日も3人で行って話に花を咲かせてきたと豪語していた。
小額のオーダーで長居しては店に申しわけないなどとはチリほどにも思わない。そんなことはとうてい無理という私にしてみれば、ある意味うらやましいともいえる神経だ。
話好きなのに、日ごろは訪れる人もなくてしゃべる機会がないC老は、たまに訪問客があるとしめたとばかり機関銃のようにしゃべりだす。
ほとんど一方的にしゃべるから、正確には〝会話〟とは言えないような状態になる。しかも話の内容はまったくおもしろくない。聞いているほうは苦痛になって、考えようによっては拷問のようになる。
拷問される側は、なんとか話を切れさせようとタイミングをさぐるが、なかなか切るところがない。C老はC老で、それを計算のうえでしゃべっているのだ。
さて、そんななかにあって、さらに際立つおしゃべり好きがいる。私と同年代のD女は話好きを自認している。
あるとき、二人で立ち話をしていた。会話の10語のうち9語はD女発。そして、私は9語のうち2語程度は空耳になっている。
そのとき私とD女は向き合っていた。私はわずかに体を左へ向けた。するとD女はすかさず移動し、ふたたび私の正面に立った。何事もなかったかのように話を続けながらだ。まるで追尾型レーダーだ。
私はD女の話よりもそのレーダー機能に興味がわき、もう一度向きを変えてみた。やはり、瞬時に移動した。なんという高性能。
あるとき、私は所用で家にいなかった。立て込んでいて、昼食時にかろうじて30分だけ家に戻れることになっていた。
D女から、ちょっと話したいことがあるとスマホに連絡があった。どうということはない内容だったので、私はわけを話し、家に来るなら夕方にしてもらいたいと言った。D女は了解した。
私が昼食時に家に戻ると、なんと、D女が玄関先に立っていた。
「手短に話せばすぐにすむと思ったから、凡筆堂さんの時間をむだにしないように、先に来て待っていたの」
D女は満面に笑みを浮かべてそう言った。そして、どうでもいいことを、貴重な30分のうち数分間しゃべっていった。
D女のエピソードをもう一つだけ。
昨日、ある集まりがあってD女といっしょになった。D女が私に話しかけてきた。D女は少し猫背なので、顔がちょっと前にせり出しているように感じる。いや、実際にいつもせり出し気味なのだ。
私は少し後ずさりした。ほんのわずかだ。するとD女は、私が後ろへ移動した分、正確に私の方へ移動してきた。もう一度やってみた。するとやはりせまってきた。
D女は無意識に動いているのだ。きっと、完全な〝自動追尾〟型なのだ。
私が話にあまり感心がなさそうだとうすうす感づいていると思うが、それでもしゃべり続けている。
恐るべしおしゃべり。