
ハエの驚異的な〝身体能力〟
先日、居間に5匹のハエが出現した。これまでどこに潜んでいたのか知らないが、秋晴れで気温が上昇したので、つい浮かれて出てきたのだろう。
居間は陽光がたっぷりで申し分なしの居心地だ。ハエがそんな居間を好むのは当然だが、ハエだけでなく私だって好むのだ。
というわけで、ハエと私の縄張り争いが勃発した。私は、ハエにとっては脅威であろうハエたたきを持ってきて闘いを始めた。
こたつ板にまず1匹。ハエにとっては不幸、私にとっては幸いなことにちょうどいい近さだ。私は座ったままハエたたきを振りおろした。私の初陣は晴れやかな勝利となった。
私はそのまましばし待った。これまた私に好都合なことに、2匹がほぼ並んだ状態で止まった。2匹の間隔はわずか数センチ。まるで作り話のようだがほんとうだ。そして2匹は私に破れた。ハエたたきの一撃で2匹同時。
問題は残る2匹だった。その日は私から首尾よく逃げおおせた。幸運の女神は2匹のハエに味方した。
翌日、律義にその2匹(だろうと思う)が昼ごろになって現れ、再戦となった。けっこう手こずったが、1匹にはどうにか勝利した。
しかし、最後の1匹には振りまわされた。用心深いのか身体能力が優れているのか、歯が立たなかった。私が近づくのをいち早く察知して逃げる。どうにか攻撃可能な距離に近づいても、ハエたたきを振りおろす直前に恐るべき速さで飛び去っている。
振りおろして「仕留めたっ!」と思ったが実際には逃げられていたというのが2回あった。飛び去ったのが見えていないくらい速い動きなのだ。
一度逃げるとしばらく姿を現さなかったりするために、決着にはけっこう時間がかかった。それでもようやく仕留めた。敵ながらあっぱれであった。
ハエはなぜあんなに素早く〝離陸〟できるのだろうかと以前から不思議に思っていたが、今回の闘いで改めてその思いを強くした。
そこで調べてみた。羽ばたきの速度が恐ろしく速いというのは能天気な私でもわかるが、調べた結果には仰天した。ハエの種類によって異なるが、だいたい1秒間に200回くらい(人間のまばたきの50倍ほどの速さ)羽ばたくらしい。ちなみに、カ(蚊)は1秒間に500回から600回ほどだという。
羽ばたくスタイルも独特で、羽根の先端が前後に振動する「前後振動型」と呼ばれる方式なのだという。しかも、100分の1秒で方向転換できるのだという。もはやこの世のものとは思えない俊敏さだ。
そのうえ、敵の動きを素早く広範囲に察知できる複眼を持っている。これでは人間が〝素手〟で勝てるわけがない。ハエから見れば人間の動きなどは超スローモーションだ。
誰がハエたたきを発明したか知らないが、発明者に謝意を表したい。