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これってセクハラ?

 新シリーズ「日日是れ凡日」をなんと読もうか。
 有名な「日日是れ好日」でさえ、よく耳にする〝ひびこれこうじつ〟なのか、それとも〝にちにちこれこうにち〟なのかはっきりしない。
 そこで調べてみた。すると、本来は〝にちにちこれこうにち〟が正しいとわかった。しかし、〝ひびこれこうじつ〟も間違いではないらしい。
 私は「日日是れ凡日」は、一応正当とされる読みかたの〝にちにち〟のほうを採り、〝にちにちこれぼんにち〟とすることにした。

 さて、私がセクハラ(厳密には〝セクハラのようなこと〟と言ったほうがいいかもしれない)をされた話である。おおかたの予想を裏切ることになったと思うが、私は〝された〟ほうだ。
 ただし、セクハラと言ってもニュースで報道されるような深刻なものではないので、その点はあまり期待しないでお読みいただきたい。

 セクハラは、された側が不快感を覚えなければセクハラ自体が成立しないのではないだろうか。この記事でもそのへんがビミョーで、実際、そのとき私は、ドキっとはしたけれど不快ではなかった。
 それと、当時はまだセクハラという概念そのものがなかった。セクハラが存在感を示すのは、この件より後のことだ。ただし、ここではとりあえずセクハラとしておくことにする。

 セクハラをされたのは私の会社員時代だからずいぶん前だ。私は合わせて3回セクハラをされた。その3回の時期はすべて異なるが、仕掛けてきた人物は3回とも同じ女性で、職務上の関係からいえば私の部下にあたる。
 この女性を、記事のなかでは暫定で淫子と呼ぼう。おお、なんてピッタリな名前だろう。
 淫子は20代前半で独身。顔もスタイルも普通だが、むりやり分ければ美人というよりかわいいタイプだ。私は当時30歳前後だったと思う。

 今回は、3回のなかでは程度が〝中〟のレベルの話を取りあげよう。
 あるとき淫子が「あたし、あそこの毛がすごく薄いんです。だから、お風呂からあがって鏡の前に立ったりするとワレメが見えるんです」という意味のことを言った。
 言われた私は、びっくりと唖然を足して2で割ったような気分だった。

 その発言にいたった経緯は覚えていないが、なんの脈略もなく唐突だったと思う。そして、不意討ちを食らった自分がどういう反応をしたかも覚えていない。「鳩が豆鉄砲を喰らったよう」という言葉があるが、きっとそんな顔をしていたと思う。
 2秒だか3秒だか、私は唖然とした表情を淫子に向けていたと思う。淫子にしてみればおそらく〝してやったり〟という気分であり、内心ほくそ笑んでいたに違いない。セクハラの目的は、性的な言動によって相手を困らせたり恥ずかしがらせたりして不快感を与えるものだからだ。

 たぶん私は数秒後に、「ほう、それはぜひ一度拝んでみたいものだ」というくらいの言葉は返していたはずだ。間違っても〝ええっ!?〟などと驚いたまま絶句していたなどということはあり得ない。もしそんなことになっていたら淫子の思うつぼだったろう。
 その後はどんな会話をしたのか覚えていないが、よくある下ネタの雑談になっていったのだと思う。

 ところで、これは果たしてセクハラなのだろうか。私は淫子の発言に驚きはしたが不快な感情は抱かなかった。それどころか、嫌いな話ではないから結果的にはおもしろかった。だから、前述のセクハラの要件は満たしていないことになる。

 そして、この怪しい(妖しい?)発言の真意はなんだったのだろうか。セクハラなのか、何かほかの意図があったのか。ほかに意図があったとしたらどんな意図だったのか。
 参考までに申しあげておくと、私は淫子と数年間にわたって同じ部署で仕事をしたが、その間ずっと、手を握るどころか触れたことさえなかった。

 後に私は独立してデザイン事務所を構えた。
 仲間同士で飲む機会があり、ほかの2件の話も含めて話題にしたことがあった。その頃にはセクハラの概念が確立していた。仲間の一人は「それ、逆セクハラですよ」と、いい酒の肴ができたとばかりに笑いながら言った。

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