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何に熱中するのだ「熱中症」

 こう毎日暑いとうんざりする。いや、うんざりどころか、熱中症にならないか心配になったりもする。実際、熱中症になって病院の世話になる人が毎年出ているのだ。
 私は夏になると、素っ裸でラジオ体操に挑んだことを思い出すが、こう暑いとラジオ体操どころではなくなる。

 熱中症は、かつては日射病と呼ばれていた。それが、いつのころからか熱中症に名前を変えてしまった。私はしばしば、「熱中症なんていう名前では何かに熱中してしまう病気みたいじゃないか。よくこんなおかしな名前にしたものだ」などと愚痴っていた。
 どういうわけで、いつから変わってしまったのだろう。このところ暑さにめげているが、飽きもせずそんなことを考えながら悶々としていた。

 そして、少しでも悶々を減らそうと調べてみた。
 まず、なぜ熱中症などというおかしな名前に変える必要があったのか。そのひとつは、症状の多様性という問題だ。
 日射病という呼び方は、直射日光を浴びることによって生じる症状に由来している。しかし、現実には屋内や日陰でも発症することがある。つまり、直射日光に限定することを避けたかったのだ。

 次に予防対策との関係。日射病という呼称では、日差しを避けることだけが予防対策のように誤解される恐れがある。しかし、実際には日差しを避けるだけでなく、水分補給や適度な休憩をとることなども必要だ。
 そういった事情を考慮すると、熱中症という呼び方のほうが何かと都合がいいのだ。
 そのほか、国際的な共通化という事情がある。世界保健機関(WHO)では、直射日光を浴びることによって生じる症状を英語で「heatstroke」と呼んでいる。それを日本用として「熱中症」と訳したのだ。

 このように、正確な病態を反映し、効果的な予防対策を推進するために熱中症へ改称したのだ。
 ところで、私はこれまで知らなかったが、熱中症は症状の重さでいくつかに分けられていて、最も重症な状態を熱射病(これ自体、曖昧な部分があるようだ)と呼んでいるのだそうだ。

 名称変更はいつ行なわれたのか。じつは一度に変わったのではなく、何年もかかっていた。
 まず、1995年に厚生労働省が「熱中症に関する指針」のなかで熱中症という用語を使いはじめた。
 2000年には環境省が「熱中症警戒アラート」の運用を開始した。これにより、熱中症という呼称の認知度が一気に上がったようだ。
 2010年にはふたたび厚生労働省が前に出て「熱中症予防指針」を改訂し、日射病を熱中症に一本化した。

 こういった段階を経てようやく日射病は正式に廃止され、熱中症が晴れて一人前の存在感を示すことになったのだ。時間的には15年もかかっていたという、知られざるドラマがあったのだった。
 法改正か何かで一度に変わったと思っていた私には意外だったが、それにしても熱中症という呼称、私はいまだに違和感を持ったままだ。
 私は、重箱の隅をほじくることに熱中している「熱中症」患者と言えるかもしれない。






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