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憎まれっ子世に憚るな

〔解説〕

 少しばかり入り組んだ解説なので、お茶でも飲みながら腰を据え、じっくりとお読みいただきたい。

 あまり知られていないが、単に「世に憚る」ということわざがある。主語がないので何が憚るのか不明だが、たいしたものでないのは確かだろう。
 とにかく、まずはこの「世に憚る」を解説しよう。
 意味はふたつある。
 ひとつは「他人などに気を遣って言動を控えたり遠慮したりする」という意味。たとえば、時代小説などでは「殿、憚りながら申しあげますが」などと使われたりする。
 もうひとつは、それとは反対に、「世間に対して幅をきかせたり威張ったりする」という意味だ。これは本来の「憚る」とは別の語であり、「はびこる」や「はだかる」が誤用され、揚げ句の果てに転化したものだ。

 さて、賢明な読者諸氏は「世に憚る」を目にしたとたん、ほとんど反射的に「憎まれっ子」という言葉を連想したであろう。そのくらい「憎まれっ子世に憚る」はよく知られた存在であり、それこそ世に憚っている。
 なお、このことわざの「憎まれっ子」は、本来は「憎まれ子(ご)」だった。ところが、いつしか「憎まれっ子」のほうが慣れ親しまれ、存在感を増してしまった。

 その「憎まれっ子世に憚る」は、よく知られているから何をいまさらという感じだが、一応律義に解説しよう。
 世間から憎まれたり疎(うと)まれたりするような人物、つまり憎まれっ子は、生き抜く力が強く、そういう者にかぎって世間で威勢をふるい、出世したりする、という意味だ。正直者が馬鹿を見るなどと言うが、浮世には理不尽なことや不条理なことも少なくない。

 類語が多く、「憎まれ子、国にはびこる」「憎まれ者、世に憚る」「渋柿の長持ち」「雑草は早く伸びる」「呪うに死なず」などがある。

(注/ここまではパロディーではない)


〔さらに解説〕

 本題である「憎まれっ子世に憚るな」の言わんとするところは単純明快。説明するまでもないが、「世間から非難されたり迷惑がられたりしている分際で、一丁前にでかい態度で幅をきかすんじゃないよ。憚るなっ」という意味だ。
 「憎まれっ子世に憚る」などと言うと、存在意義が肯定的ともとれて、憎まれっ子がのぼせあがって増長する恐れもある。それを危惧した「珍語漫語の会」から申し入れがあり、日本格言制定委員会がしかたなく制定した。

 なお、同委員会の尾琴場会長は、「珍語漫語の会」の間谷羽目子会長のハニートラップにかかったという噂が流れている。それに加え、以前から憎まれっ子などと言われていたことから、進退問題に発展する可能性も考えられる。今後も憚ることができるか否かの瀬戸際に立たされたかっこうだ。

 ところで、「憎まれっ子世に憚るな」は〝語尾を伸ばさない〟ことが重要だ。語尾を伸ばすと「憎まれっ子世に憚るなあ」などとなってしまい、存在をいましめるどころか、感心や感嘆ともとれるように曲解される恐れがあるためだ。



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