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困った〝久しぶり〟

 昔の話。当時で10年以上もご無沙汰していた、会社員時代の知人が突然私の事務所を訪れたことが3度(別の3人が別の機会に)あった。
 偶然にも、いずれも退職して損害保険の代理店を始めたから一口どうだという話をもってきた。
 3人ともたいしたつきあいをしていたわけでもなかったし、特別に世話になったこともなかった。私が会社を辞めてからはハガキ一枚、電話一本のやりとりもなかった。

 なのに彼らは、自分の都合となるといそいそと出かけてきておべんちゃらを垂れる。そんなときだけ先輩面をされたり仲間意識をひけらかされたりしてはたまらない。
 で、私を保険に入れてしまえば、更新やら何やらの用件でも生じない限り再び音信不通になるにきまっているのだ。

 私が独立開業するとき、「近いうちにお祝いを持って遊びに行くよ」などと言っていた元上司がいた。しかし彼は一度も来なかった。
 あれから何十年もたった現在、私は現役をほぼ引退してしまった。元上司のほうは、もう寿命が尽きているかもしれない。

 だいたいにおいて、久しぶりの訪問や電話というのはたいていの場合ろくなことがない。
 私の友人Aは、数年ぶりに訪ねてきたAの友人であるBに、会社の運転資金を貸してくれと頼まれて貸してやったところ、間もなくBの会社が倒産し、大金が返ってこなくなってしまったことがあったそうだ。

 つきあいの遠ざかっていた親戚から電話がくるときなどは葬式の話と相場がきまっている。災難と変な友人知人は忘れた頃にやってくるのだ。

 ところで、私は前述の3人のどの保険にもはいらなかった。そしてその3人は、あいつは保険にはいりそうもないな、と思ったようで、それ以後また音信不通である。


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