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さて、ヒトデでも食うか

 この記事は本エッセイの「ゲテモノ、下手物。ああ下手物食い」の続編として書こうとしたものだが、どういうわけかしまいっぱなしになっていた。それが、これまたどういうわけかいまになって日の目を見ることになった。

 日本の食糧自給率は先進7か国のなかではもっとも低く、もう何年も40パーセント(カロリーベース)に満たない状態が続いている。
 食えなくなったらおしまい。自国の食いぶちも賄えないようでは国も国民も命運は尽きる。兵糧攻めに遭えば戦わずして負けるのだ。

 世界の人口は2023年7月1日時点でだいたい80億人。日本は約1億2,500万人だ。日本ではすでにピークを過ぎて減少傾向にあるというが、農業や水産業などの第一次産業も、そして就労者も耕地も資源も減って衰退していく。
 これは困った現象だ。なんとか食糧の確保に乗り出さなければならない。なるべくなら生産に手がかからず、簡単に供給できるものがいい。

 この原稿を書いている時点では、私はヒトデが食用にならないと認識していた。日本大百科全書に事前に目を通していたが、それにはヒトデは食用にはならないと出ていた。
 ところが、脱稿後にいろいろ調べてみたらそんなことはなく、アジア圏を中心に食用として活躍しているらしいことがわかった。
 なんてこった。

 そこで、せっかく遅筆にムチ打って書いたのだからボツにするのももったいない、執筆当時は知らなかったという断りを入れて投稿しようという気になった。まあ、これはこれでひとつの読み物として受け止めていただければと、都合よく解釈して話を進めよう。
 というわけで、以下は〝本来は食えないもの〟という前提で書いたもの。


 ヒトデはタコやナマコに負けず劣らず不気味だが、もはや下手物だのなんだのと言っている場合ではない。これを、味や栄養価も含めて食用として改良し、養殖する。輸出すれば外貨も稼げる。
 ヒトデは足(学問上では『腕』だそうな)を切断されても再生するばかりか、足から本体が再生するという化け物じみた生命力をもつ。
 もし実用化されれば、一般家庭でも鮮魚店などで生きのいいのを買ってきて飼い、足を切っては食い、生えてきたらまた食うというようにすれば、けっこう長く食えて経済的だ。
 種類が多く、色や模様、姿形もいろいろだから観賞にも向いている。なにしろ、世界中では1,500種類とか2,000種類とかと言われているのだ。

 “改良前”のヒトデ、つまり野生のものの食感を想像すると、肉は鶏の砂肝のような筋っぽい歯ごたえで、味は意外にさっぱりしている。臭いに少しくせがあるが、よく煮て軟らかくし、葱を刻んで入れたポン酢でもつけて食えば、酒の肴なんかにはけっこういけるかも。

 改良に成功すればあとは簡単。ほかの食材同様、ヒトデ料理としてバリエーションを広げればいい。鍋物もいいし、塩や味噌で焼いてもうまそうだ。干物、蒲焼き、燻製なんかもいい。筋金入りの下手物食いには、活け作りや踊り食いがおすすめだ。
 というぐあいに、新食材をどんどん開発する。


 と、以上が〝ヒトデは本来は食えないもの〟という前提で書いたもの(当然、この後の結末にいたる部分は新事実追加によってカット)。

 そして、脱稿後に知った新事実は以下の通り。
 ヒトデを食べる国はわが国を含め、中国や韓国、フィリピン、ベトナム、インドネシアほか、おもに東南アジアの国で10か国余にものぼった。これは驚きだった。しかも、食用として利用できるものはだいたい100種ほどもあるそうで、これまたびっくりだ。
 ちなみに日本では、オニヒトデやツノヒトデ、ウミユリヒトデ、オキヒトデなど数種類が食用として〝貢献〟しているという。

 調理方法としては、生食のほか、煮たり焼いたり、揚げたり炒めたりとバラエティ豊かなようだ。天草地方ではヒトデの卵巣を「天草の宝」と呼び、珍味として食しているらしい。
 栄養的にはタンパク質やミネラル、ビタミンなどが豊富で、特にカルシウム、鉄、亜鉛、ビタミンB12、ビタミンDが多く含まれているという。
 しかも抗酸化作用があって美容や健康にいいということだから、これではいいことずくめではないか。

 私はヒトデ料理というものをこれまで見聞きしたことがなかった。世間知らずで不勉強なのだろうけど、それにしてもなあ、と唖然とするばかりだ。
 と思っていたら、やはりいまのところ〝日本ではあまり一般的ではない〞そうだ。それなら記事にした価値も少しはありそうだ。めでたしめでたし。


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