ドラマ「マイダイアリー」第1話レビュー
民放ドラマ主演3作目
映画「青春18×2~君へと続く道~」を見てからというもの、すっかり清原果耶の芝居にはまってしまい、映画についてはほぼ全て、ドラマについては配信、レンタルで見られるものについては全部見てしまった。
そんなときに民放ドラマ主演の情報が来た。
民放ドラマの主演としては3作目になる。
1作目は、NHKの「おかえりモネ」の放送が終わってすぐに放送されたTBSドラマ「ファイトソング」。
2作目は、日テレの「霊媒探偵城塚翡翠/invert城塚翡翠・倒叙集」。
どちらも配信で見たが、片やラブコメディー、片やミステリーとジャンルは異なるが、内容的にはなかなか面白かった。
ただ、視聴率的には今ひとつだったようで、それからドラマへの出演はなく、2年ぶりのドラマ主演ということになる。
自分としては、清原果耶が出演するドラマを初めてリアルタイムで視聴することになる。
放送されるドラマ枠は、テレビ朝日系日曜夜の「日ドラ」枠。
これまでベテラン脚本家を起用した良作が放送されてきた枠らしい。
今回のドラマは、若手の脚本家兵藤ゆりのオリジナル脚本。
この脚本家は、NHK夜ドラで蒔田彩珠が主演した「私のいちばん最悪なともだち」の脚本で注目された人らしい。
「おかえりモネ」で清原果耶演じるモネの妹未知を演じた蒔田彩珠が主演ということもありかなり興味を引かれたが、まだ見ていない。
今回のドラマは、社会人になった主人公恩村優希が大学時代に友人たちと過ごした時間を回想する物語らしい。
主な登場人物は、主人公を含めて5人の大学生。
女性3人、男性2人の構成だ。
メインはアメリカの大学から編入してきた理学部数学科の徳永広海。
演じるのは映画「ちはやふる~結び~」で清原果耶との共演経験もある佐野勇斗。
ああ、そういえば広瀬すず演じる主人公の競技かるた部に入部してきた生意気な後輩だったなあ。
あれから7年ぐらい経っているのでだいぶ雰囲気も変わっているが、イケメンには違いない。
5人とも演技には定評のある若手の役者を集めているので、脚本も合わせて期待している向きは多い。
ただ、予告編を見た限りでは、テーマがかなりぼんやりした感じで、ドラマを見ようと思わせるフックが弱いような気がしている。
若手の新進脚本家として注目されている兵藤るりは、このドラマの広海と同様、大学で数学を専攻している。
「私のいちばん最悪なともだち」も主人公は就活中の大学生で主人公とその親友との関係が中心だったらしいが、それを5人の群像劇にした感じという企画なのか。
清原果耶が出演した作品について共通していえるのは、その作品を実際に見た人の満足度は高い傾向にあるのだが、作品自体は地味なものが多く、あまり多くの人に知られる前に終わってしまうようなことが多い気がする。
このドラマは、テレビ朝日系列ではあるが、制作は大阪のABCテレビ。
地上波を使った番宣もそれほど多くはなく、TVerなどネットを使った宣伝に力を入れている。
今やテレビ番組はテレビで見るのではなく、TVerなどネット配信で見るがかなり多くなっているようだ。
録画する機器を持っていなくとも、好きな時間に見られる配信の方が便利なのは間違いないが、自分はしっかりと録画をしておく。
第1回目の感想
放送開始直前の週に集中した番宣出演の清原果耶をチェックしつつ、いよいよ第1回目の放送となった。
率直な感想としては、微妙のひとこと。
個人的には今まで見たことのない雰囲気のドラマで、特にセリフ回しが独特だ。
日常生活ではまず使わないであろう言い回しが多用されているのは間違いないが、ドラマのセリフらしいセリフかといわれると、ちょっとそれとも違うような気がする。
言葉遣いとセリフの間合いが、他のドラマとちょっと違っているようだ。
エピソード自体は意外と多く詰め込まれているのに、テンポ感はかなりゆったりした印象を受ける。
ドラマ開始1分でのキスシーンは別として、フックらしいフックもなく、ドラマチックなことはいまのところ何も起こっていない。
大学生の日常を描くヒーリングドラマということらしいので、そんなにドラマチックなことが起こるとは思えないが、これがずっと続くのだろうか。
脚本家本人が「例のシーンはさておき笑、劇的なことは特に起きません。でも、日常の中にこそドラマがあると信じて。」といっているので、描かれるのは基本的に日常系ということになる。
それゆえ、演者にはかなり繊細な演技を求められるので、若手でも演技に定評のある5人を集めたと考えるのが自然かもしれない。
その中でも清原果耶演じる恩村優希については、演じるのが難しそう。
感情の起伏が少ないというか、感情があまり表情に出ない役柄なので、その中で繊細な感情、心の揺れを表現するのはそう簡単ではないと思う。
ドラマ放送前の公開された番組のスチール写真の清原果耶にちょっと違和感があったのだが、ドラマを見て分かった。
もうすでに恩村優希になりきった表情だったのだ。
割と天然で内向的、表情に乏しい、ちょっと「重たい女」という恩村優希の見た目にすでになっている。
メイクや髪型もそうだが、表情を役柄に合わせて「ちょっと重め」に作っているようだ。
オフショットの画像もSNSに上がっているが、劇中の印象とは異なるいつもの清原果耶の表情だ。
清原果耶が演じた役で、この恩村優希に一番近いと思う役は、映画「一秒先の彼」の長宗我部麗香だろうか。
おっとり暗めでちょっと不器用な大学生役というところは共通しているが、見た目の印象は麗香の方がもう少し表情があり、優希ほど「重い」印象はない。
主人公の女性が初回で恋人に早々にふられるというドラマも珍しいが、その理由が「やさしさが苦しい」というのも初めて見るパターンだ。
要するに優希は「重い女」ということになるのだろう。
付き合い始めてそれなりの時間は経っていると思われるのに、デートの後にLINEで「今日は楽しかった。来週はいつ会える?」というメッセージを送ってくる彼女は、やはり「重い女」と言わざるをえない。
「やさしさが苦しい」という言葉を「(優希の)やさしさが(息)苦しい」と解すると腑に落ちる。
別れを切り出されたのは映画館でのポップコーンの食べ方だけが理由ではなく、それは恋人が優希に対して「(息)苦しさ」を感じる一例で、そういう細かいことが積み重なって、別れを切り出されたということになるのだろう。
「清原果耶(が演じている恩村優希)をふるなんてありえない」という意見もあったが、恩村優希があの容姿でありながら、「(優希の)やさしさが(息)苦しい」という理由でふられるというのは、恋人と余程相性が悪いと思わざるをえない。
そんなことを気にしない人は気にしないし(男性ならば特に)、別れの理由を優希に話すにも言葉をかなり選んでいるので、優希の恋人も「やさしい人」なのだろう。
「やさしい人」だからこそ優希が惹かれ、優希の「やさしさ」を敏感に感じすぎて、自分から別れを切り出すほどの息苦しくなってしまったということになるのかな。
ストーリーについては、伏線になりそうなところがかなり出てきたが、それが効いてくるかは今後の展開次第。
気になる点はいくつかあるが、その中で冒頭のシーンで優希が広海と別れたあとに泣いているシーンが特に気になる。
なぜ優希が泣いていたのかという理由は、このドラマ全体のキーになってきそうな気がする。
だから、ドラマの冒頭にこのシーンを入れてきたと思うのだが、果たしてどうなるか。
これだけドラマチックなことが起こらない日常系ドラマなのに、次の展開が気になるという珍しい脚本だ。
次の展開が気になる理由は、優希や広海の過去に何があったのか、この5人が出会って彼らがどう変化していくのか(あるいは変化しないのか)という点に尽きると思うが、5人のそれぞれに抱えた不安や悩みついては、まだ明らかになっていない。
それを示すまでは視聴者の興味を引くことはできると思うが、それを示した後にドラマをどう展開させていくかが気になる。
予告冒頭で取り上げられている優希のモノローグ
「わたしはふと、人生の日記を読み返したくなった」とあるが、この「人生の日記」という言葉に引っかかっていた。
大学を卒業したばかりの社会人一年生が使う言葉としてはあまり似つかわしくない。
と思っていたら、それは脚本家の狙いであって、あえて「人生の日記」という言葉を使っていて、この言葉が今後の物語の展開に関係してくることを脚本の兵藤るり自身がつぶやいていた。
ちょっといやな予感がしないでもないが、自分の思い過ごしであることを祈りたい。
映画ならともかく、民放のテレビドラマとしては、次回に興味を持たせる要素が少なすぎるという点で攻めた脚本だと思うが、現時点では、期待より不安の方が大きい。
初回を見る限りでは、独特な雰囲気のドラマで、合う人と合わない人がはっきり分かれそうなテーマと見せ方だ。
全体的に輪郭がぼやけている印象で、何が言いたいのかはっきりしないという感想も分からないわけではない。
ネットを見ると、初回で早々に脱落した人もちらほら見かける。
脚本家としては、「普通」とは何かということがこのドラマのテーマらしいが、初回ではそのテーマはほとんど見えてきていない。
いや、すでにそれは恩村優希の行動として提示されているのか。
○置き忘れられたリュックの扱い
優希は広海が置き忘れたリュックを拾ってきてしまい、自分で持ち主を探そうとする。
この行動に違和感を持った視聴者がかなりいるようだ。
それはドラマの中でも友人や恋人にまで指摘されているが、優希は「なんとなく」という感じの反応だ。
別れ話をされそうな恋人の元へ、置き忘れられた誰かのリュックを持って行くのはさすがにないと思うが、恋人にまで「そうそう、そういうとこだぞ、優希」という趣旨の指摘を受けている(言葉は相当慎重に選んでいるが)。
そのリュックを置き忘れた人に会って言葉を交わしているからこそ、そのままにしてリュックがなくなってしまったらその人が困るだろうという発想なのだろうが、実際にはリュックを置き忘れたことに気づいた広海が戻ってきたときには、リュックを優希が持って行ってしまった後なので、リュックはその場にはなく、結局持ち主を困らせてしまっている。
仮に持ち主を見かけることなく置き忘れたリュックだけを見つけたとき優希はどんな行動を取っただろうか。
まあ、「普通」は、友人たちが言うように学生課にでも届けておけばいいだけだ。
○寝過ごした小学生の見守り方
寝過ごした小学生を見かけたときも同様だ。
一緒に終点まで行く必要はなくて、優希自身もいっていたように本人を直接起こすか、運転手に一言話しておけばいいだけ。
あとはドラマにあったように運転手がなんとかしてくれるし、バス通学をしている小学生なら、連絡用の携帯ぐらい持っていて自分で親に連絡できるかもしれない。
でも、優希はそうはしない。
終点まで行って、運転手が小学生と話しているのに、お節介にも戻りのバスに一緒に乗っていくという。
リュックの件といい共通しているのは、自分が見つけた、気がついたから自分で何とかしなくちゃいけないという発想というか思い込みだ。
その根底には、母から言われた「やさしいひとになりなさい」という言葉に囚われているということがあるだろう。
○既に亡くなっていると思われる母の形見?
優希が「お母さん」といって拝んだり、話しかけたりしている謎の小瓶の中身については放送の中では明らかにはされていない。
おそらく優希の母は亡くなっているという雰囲気はあるが、小瓶の中身は何だろう。
白い粉末状のものが入っているので、遺骨ではないか。
亡くなった人の形見を身近において置くなら、「普通」は故人の愛用品のような物であることが多い。
何らかの形見だとしても、「普通」は遺影を置き、遺影に語りかけるのではないか。
優希の部屋には遺影のようなものは見当たらない。
他のドラマ度同様にこの「マイダイアリー」も放送から1週間TVerで無料見逃し配信を行っている。
ちょっとおもしろいのは、通常版のほかに解説放送版というのも併せて配信されている。
こちらがなかなか面白いという話があったので見てみると、優希が広海からもらった桜を描いたという数式のレポート用紙について母に語り掛けるシーンで、「小さな瓶には母の遺灰が入っている」という解説ナレーションがあった。
位牌の間違いではなく、小瓶に入っているのは白い粉だから、やはり遺灰だった。
調べてみると、手元供養という比較的新しい供養の方法があり、故人の遺骨を中心に祀る方法があるようだ。
遺骨といっても、骨の状態で手元に置いておけない(法律に抵触する可能性がある)ので、ごく少量の遺灰という形で手元に置いておくのが一般的らしい。
疑問なのは、優希がなぜ手元供養をしているかという点だ。
初回を見た限りでは、優希の母についてはかなり語られているが、父については全く触れられていない。
優希は母子家庭なのか、ひとり親だったから母の影響が強かったのか。
母の位牌は、母の実家にあり、母の実家の墓に納骨もされているが、一人暮らしをする優希が希望して手元供養をしているのか。
母の写真の一枚も残らなかったというのも考えにくいし、「遺影」を置かず、遺灰の手元供養をして、それに語りかけている優希はちょっと「普通」ではないように思われる。
優希の「普通」ではないと思われる行動を3つ挙げてみたが、どれも悪いというわけではない。
「普通」ではないというだけだ。
本人に悪意はないのに、「普通」でないというというだけで周囲から浮いてしまう。
学生のときなら、周囲に理解のある人がいれば、それほど問題にはならないかもしれないが、社会人になったら、自分が「普通」でないことによる軋轢が顕在化してくる。
自分が「普通」でないことを思い知らされ、そのことによって疎外感、生きづらさを感じることもある。
「普通」って何?というテーマは、清原果耶が主演をした映画「まともじゃないのは君も一緒」がまさに主題としている。
この映画の方は、コメディーであり会話劇であるので、映画を見ている間はあまり意識しないで楽しく見ることができるが、「マイダイアリー」のようなヒューマンタッチのドラマで扱うのはなかなか難しいというか、そのことがテーマになっていることに気づかないまま、途中で視聴者が離れて行ってしまいそうな気がする。
このドラマは、テーマが見えづらい、分かりにくいという意味で、実はなかなか難解なのかもしれない。
自分として兵藤るりの脚本に、はまるかはまらないか全く予想がつかない。
次回予告を見ると、次回は虎之介が中心の話のようだ。
初回は優希と広海が中心だったが、次回以降まひると愛莉の話も出てくるのだろう。
期待のわくわく感ではなく、どっちに転んでいくのか分からない不安を感じながら見るドラマは初めてかもしれない。