「マイダイアリー」と「おかえりモネ」とフィルムカメラ
■「マイダイアリー」のあとに「おかえりモネ」を見る
今年の正月はカレンダーの関係で長かったので、気になっていた映画でも見ようと思っていたのだが、そんなドラマ「マイダイアリー」の脚本を書いた兵藤るりさんがNHKの朝ドラ「おかえりモネ」のDVDを購入したという投稿をしていた。
お若いはずなのに配信じゃなくて円盤、しかもDVDとは意外だったが、これは本当に「おかえりモネ」を見ていないんだと思った。
その数日後、兵藤さんから「おかえりモネ」の第1週の感想の投稿があった。
そうでしょう?いいドラマなんですよ。
そう思ったら、「おかえりモネ」の第1週が気になって見始めたら止まらくなった。
結局、正月休みの間に24週、120話、時間にして15分×5日×24週=1800分=30時間あるドラマを全部見てしまった。
ついでに円盤特典映像も見てしまった。
通して見るのは、これが3回目だが、やはりいいドラマだった。
これまではパソコンで見ていたのだが、初めて4Kテレビで見たら、55インチの大画面でみる「おかえモネ」はまた感じ方が違った。
印象的だったのは、風景の美しさ。
北上川の雄大さ、気仙沼港の気あらしの美しさ。
ドローン撮影が有効に使われていて、風景がとてもよかった。
そして、初見で感じた、絡まった糸が10年という時間をかけてゆっくりと解けてゆく感じ、最終週の見たときのあの解放感、救済感はこのドラマでしか味わえないものだと改めて確信した。
年が明けて、兵藤さんから「おかえりモネ」の第2週の感想が投稿されていた。
その冒頭に「あなたがトムさんなのね、の驚きと。」という感想があった。
自分が「マイダイアリー」の感想に書いていとおりの展開となってきた。
そもそも、「トムさん」というあだ名の登場人物が出てくるドラマなんて、まずありえないのに、どちらも主人公の親の知り合いで、しかも親の知り合いであることを主人公に隠して接触してくるという設定。
ああ、すいません、「マイダイアリー」と「おかえりモネ」の話です。
男女こそ逆になっているものの、これで「マイダイアリー」が「おかえりモネ」のオマージュじゃありませんというのは無理がありすぎるのです。
「おかえりモネ」の方は、名前が「田中知久」なのでトムさん、「マイダイアリー」の方は名前が「富田緑」なのでトムさん。
中学校か大学かの違いはあるが、同級生男女5人が出てきて、女性主人公は高校卒業後に実家を飛び出したが、その女きょうだいは地元に残って働きながら実家の手伝いをしているとか。
以前から仲の良かった主人公と女きょうだいが、とあるきっかけで関係がギクシャクするとか。
手を当てられる対象が逆になっているものの、主人公が(の)背中に手を当てるというシーンがあり、どちらも重要なシーンになっているとか。
男性が主人公に告白する場面で、主人公が男性の手を握るとか。
最終話に水にまつわる「循環」が描かれているとか。
他にもかなりあったのだが、数が多すぎて忘れてしまった。
この時代のドラマなのに、銭湯が出てくる時点で完全にオマージュ確定だと思ったが、兵藤さんは完全否定。
改めて「おかえりモネ」を見てていて気づいたのだが、各話の最後に「あなたの身近な観天望気」というコーナーがあり、視聴者から投稿された天気に関する写真が放送されていた。
これって企画自体はまんま「マイダイアリー」の各話の最後にあった「マイフォトダイアリー」だよね。
「マイフォトダイアリー」の方には、視聴者からの投稿写真に混じって出演者の写真があった(虎之介、まひる、愛莉、まいこ・緑♡心友)。
実は、「おかえりモネ」の「あなたの身近な観天望気」の方も2回だけそういう回があった。
第115話の「あなたの身近な観天望気」には東京都の上白石萌音さんが登場。
「雨が降っても大丈夫」というコメントが添えられて、おかえりモネの小さな傘を差している上白石萌音さんの姿が映されていた。
「おかえりモネ」の次のNHK朝の連続テレビ小説が「カムカムエブリバディ」。
その主人公雉真安子を演じたのが上白石萌音さんで、朝ドラ主人公が「モネ」から「萌音」のバトンタッチということで話題になったっけ。
それで、最終話第120話の「あなたの身近な観天望気」にはこのドラマの主人公、気仙沼市の永浦百音さんが光り輝く気仙沼の海をバックに微笑んている写真があった。
このことに気がついて思ったのだが、「マイフォトダイアリー」の企画は脚本家が考えたものではなく、「マイダイアリー」のドラマの制作側が考えたものだろう。
このことからも「マイダイアリー」のドラマの制作側、企画側が「おかえりモネ」を相当意識しているのはおそらく間違いない。
脚本に出てくる数々の「おかえりモネ」のオマージュ要素は、ドラマの制作側からの提案だったのではないか。
脚本の兵藤さんは本当に「おかえりモネ」をちゃんと見たことがないようなので、正真正銘の偶然の一致だとすると、「トムさん」と銭湯がどうにも説明がつかないから、制作側からの提案だとすると納得がいくが真相は分からない。
兵藤さんはまだ「おかえりモネ」を第2週までしかみていないようなので、今後の感想を楽しみにしたい。
■フィルムカメラの縁
兵藤さんの投稿を見ていたら、最近(?)フィルムカメラを買ったらしく、試し撮りの写真が投稿されていた。
カメラはキャノネットQL19とのこと。
「マイダイアリー」に出てきたフィルムカメラは、リコーオートハーフSE。
1967年発売のカメラだが、四角くてコンパクト、このドラマの雰囲気とこのカメラのデザインが合っていてとてもよいチョイスだと思った。
このカメラを見て、思いだしたのが自分が初めて買ったカメラであるフジフイルムCARDIA mini TIARA。
四角い金属筐体に小さなレンズ、かなり雰囲気が似ていると思った。
コンパクトで質感がよく、写りもかなり良かった。
ただ、スロー側のシャッタースピードが1/2秒までというのが致命的で、RICOHのGR1に買い換えたときに売ってしまった。
とても気に入っていたカメラなので、手放してしまったのがちょっと悔やまれる。
そういえば「マイダイアリー」の第7話で、卒業式後5人がこのフィルムカメラで写真を撮り合い、その日のうちにプリントして写真を配るシーンがあった。
はて、デジカメになる前はスピード現像、スピードプリントができたが、今でもできるんだろうかということが気になり調べてみると、大手のカメラチェーン店には今でのスピードプリントの機械があるらしく、最短1時間でプリントが仕上がるらしい。
おお、それなら昔のように、撮ったばかりのフィルムを現像して、プリントが配れるよね。
と思ったのだが、使われているカメラは、リコーオートハーフSEである。
フィルムがまだ貴重だった頃、フィルムを節約するために、35mmフィルムの1コマに2枚の写真が写せるカメラがあって、それがハーフカメラと呼ばれていた。
このカメラがまさにそれなのだが、令和のスピードプリントマシンでハーフカメラで写した写真を1枚ずつプリントできるのかな?
ドラマ上は、25枚撮った写真をひとり5枚ずつ配っており、第9話で「開封の儀」をしたときの反応はどう見ても1枚ずつプリントされている写真を見ている感じだった。
さすがにハーフカメラを使ったことはないので、スピードプリントマシンでハーフカメラで撮ったフィルムのプリントがどうなるかは知らかったが、やはりスピードプリントマシンでは写真2枚で1プリントになってしまうらしい。
令和の世でも、ハーフカメラで撮った写真を1枚で1プリントにするのはスピードプリントマシンでは無理で、通常のフィルム2本分の現像料と1週間ほどの時間をかければ、1枚ずつプリントできるらしい。
それと、ハーフカメラで撮った写真は、普通にカメラを構えて撮ると、スマホで撮った画像のように縦長になる。
ドラマで使うフィルムカメラがリコーオートハーフSEになったのは、そのデザインで選ばれたんだろうな。
コンパクトかつレトロでかわいらしく、女性(もともとトムさんが使っていたカメラ)が使うのにぴったりだ。
「マイダイアリー」の制作スタッフが、このカメラの機能を知った上で、ドラマ上の演出(ハーフカメラではない普通のフィルムカメラで撮った写真を見ているような演出)をしたのかどうか定かでないが、集合写真を撮るのに演者がこのカメラを縦位置で構えていたら絵面としては不自然かな。
縦位置で写真が撮れるのはファインダーを覗けば分かるので、当然そんなことは分かった上で絵面優先の演出したんだろうから、素人がとやかく言うのはそれこそ野暮なんだろう。
ハーフカメラで撮った写真のスピードプリントについても然りである。
後日郵送ではドラマの画にならないのだ。
「マイダイアリー」の主演を務めた清原果耶が出演した映画に「一秒先の彼」という映画がある。
その映画で清原果耶は、二留中の貧乏大学生で一人写真部の長宗我部麗華を演じた。
写真部なので当然カメラを持っているのだが、貧乏大学生設定なので持っているカメラが父親の形見のニコンFM2。
定番中の定番ですね。
「一秒先の彼」という映画は、台湾映画「一秒先の彼女」という映画のリメイク版。
主人公の男女が入れ替わっている。
オリジナルの「一秒先の彼女」にずっと思いを寄せる「彼」が持っているカメラが、キャノネットのQL17なのだ。
QL17とQL19とは姉妹機の関係にあり、違いはレンズ。
QL19の方は初代キヤノネットと同じレンズを採用しており、QL17より3000円安かったとキャノンのホームページにあった。
令和の世に、フィルムカメラはフィルムカメラでも、平成のズームレンズ付きオートフォーカスカメラではなく、昭和のマニュアルカメラを使うなら、キャノネットQL17またはQL19というのはよい選択だと思う(程度のよいものが入手できれば)。
QLというのはQuick Loadingの略らしく、フィルムカメラを使う上での代表的なミスであるフィルムの装填ミスを防ぐための機能らしい。
あとは写真を撮り終えた後、フィルムを巻き取ってパトローネに収めるのを忘れなければOKだ。
QL19の場合、露出をAutoにすると、シャッタースピード優先EEになるので、少なくとも露出で失敗する可能性はかなり低くなる。
電池なしでも、フルマニュアルカメラとして使えるらしい。
あとはマニュアルでちゃんとピントを合わせて、手ぶれ補正機能などついているはずもないので、しっかり両手で持って脇を締めて撮ればいいのかな。
令和のフィルムカメラは、完全に趣味の世界だ。
ただ、趣味の世界でも写真が撮れていなければ元も子もないので、QL19を使う場合でも当然フィルムカメラの基本的な使い方は知っておく必要はあるが、NikonのFM2を使うよりは格段にハードルが低い。
フィルムの現像は必ず必要になるものの、プリントはお店に頼まず、デジタル化してもらった写真のデータをクラウドからダウンロードしてSNSにアップするのが、令和的なフィルムカメラの使い方なんだろうね。
清原果耶が主演を務めた「マイダイアリー」の脚本家が、数あるフィルムカメラの中でキャノネットQL19を手にしたのは、それこそ偶然だろうが、「マイダイアリー」でトムさんの持っていたリコーオートハーフSEが優希の手に渡ったように、不思議な縁というのはあるのだろう。
そんなことを感じたフィルムカメラとドラマと映画の縁。
■新春ぼっちカラオケ
仲間5人でフィルムカメラを使って写真を撮り合い、その写真をプリントして、中身を見ずに5枚ずつ仲間でシェアする。
その写真がまたみんなで会うための「約束」になるというのは、ドラマの中のファンタジーでしかないが、その写真を持ち寄ってみんなで見ているその楽しげな姿は、フィルムカメラ世代には眩しすぎた。
そのドラマの脚本を書いた20代の脚本家が正月にぼっちカラオケで山口百恵を歌っているのをわざわざSNSに投稿しているってのはどうなんだろう。
その姿にちょっとトムさんの姿が重なって見えてしまった。
自分で自分を好きになれなくても、自分で自分に納得できなくても、自分で自分を嫌いにならなくなれば、まあそれでいいんじゃないかと思った2025年の仕事始め。