乃木坂46「ガールズルール」MVと映画『台風クラブ』
2013年7月3日にリリースされた乃木坂46の6枚目シングル「ガールズルール」のミュージックビデオ(以下、MV)は、新市長の意向で取り壊しが決まった学校のプールで女子生徒たちが市長や関係者と乱闘を繰り広げる、というドラマ仕立ての内容だ。
冒頭と終盤のプールのシーンの間には、田園風景を登下校する姿や部活動、憩いの場となっている駄菓子屋、プール撤去の署名運動といった場面が差し込まれ、恋愛模様や友情の悩み、大人たちへの反抗といったそれぞれに抱えている悩みが浮かび上がってくる。
集めた署名をプールに投げ捨てられた彼女たちはデッキブラシを手に市長ら大人たちに襲いかかり、乱闘となる。プールの中で制服のまま大人たちにしがみつき、放水を当てる彼女たちの姿は、それまでの思春期の悩みや鬱屈した思いから解放され、浄化されたかのようなカタルシスを感じさせる。
このMVを監督した映像ディレクターの柳沢翔氏は、作品の意図について次のコメントしている。
そして、相米慎二監督作の映画『台風クラブ』(1985年)も夜中のプールに忍び込んだ生徒たちのシーンで幕が開ける。
高校受験を半年後に控えた地方の中学3年の生徒たちが、台風の襲来と共にそれまで溜め込んだコンプレックスや性衝動、生と死の疑問を一気に放出させ、狂っていく。
オープニングの、BARBEE BOYSの「暗闇でDANCE」をBGMに水着姿ではしゃぎ踊る名も知らぬ女子生徒たちが夜中のプールサイドで狂乱する場面は、否応無しに高揚する青春を捉えた1コマだ。
映画の中では、女子生徒たちの水着姿や下着姿、あまつさえすっ裸になるシーンもあるのだが、まだ成熟しきっていない体ゆえそこに色気は感じない。大人になりきれていない彼女たちだからこそのもどかしさ、潔癖さ、残酷さを現しているようだ。
生徒たちの中でも、日頃からスプーン曲げをしたり、顔に赤い絵の具で十字の模様を塗って眠ったりと、非日常を願っている理恵(工藤夕貴)は教室の窓を開け、つぶやく。
「あーあ台風来ないかなぁ」
その願いを叶えるかのように日増しに、時を経るごとに風が強くなっていく。
台風襲来に感応するようにヴィヴィッドさ、ナイーブさを剥き出しにしていく生徒たち。教師の異性問題をきっかけに教室は学級崩壊一歩寸前までいく。
やっとのことで生徒たちをおとなしくさせた三浦友和扮する教師はつぶやく。
「お前ら、何か変だよな」
そして、台風が学校の上空で猛威を振るう中、学校に閉じこめられた6人の生徒たちは体育館で饗宴に興じる。
「ガールズルール」MV監督の柳沢翔氏は、雑誌「MdN 04 乃木坂46 歌と魂を刺客化する物語」のインタビューでの、
という問いに、
と答えている。
しかし、「ガールズルール」MVと映画『台風クラブ』は、夜中に学校のプールに忍び込む、という表面的な共通点以上に、思春期の少女たちが抱えている悩みと浄化を描いた同一線上にある作品といえる。
また、「ガールズルール」は乃木坂46にとって、デビューシングル「ぐるぐるカーテン」から5th「君の名は希望」まで5作連続でセンターを務めていた生駒里奈から白石麻衣へとセンター交代がなされた大きな転換点となった楽曲だ。
柳沢翔氏もMVを作るにあたって前出の雑誌インタビューで、「生駒さんと白石(麻衣)さんのセンター交代のグラデーションにはこだわ」ったという。
「ガールズルール」の歌詞は、少女たちの孤独や成長を描いた「君の名は希望」から一転、女子たちの友情とまぶしいばかりの青春感を強く打ち出したアイドルポップソングとなっている。
同シングルカップリング曲の「世界で一番 孤独なLover」MVの、渋谷の街を失踪する自転車、制服だけでなく各々Tシャツや普段着に近い衣装を着てダンスするメンバーたち、といったシーンからはそれまでの学園からの卒業後を描いたものにも見える。
白石麻衣センターによる「ガールズルール」は、乃木坂46を“少女から女子へ”、そして“学校から街へ”と解き放った作品だったのではないだろうか。
最後に。『台風クラブ』で主演の理恵役を演じた工藤夕貴は映画公開時14歳。前年に出演した石井聰亙監督作『逆噴射家族』でもそうだったが、この頃の工藤夕貴からは少女の放つ未熟さやエキセントリックさ、もどかしさが演技の一挙手一投足に現れていた。これほど大人に媚びない少女を素のように演じられる女優は後にも先にも知らない。
台風の夜、男子生徒に襲われ性の自我に目覚めた美智子(大西結花)。家出してひとり東京で一夜を過ごした理恵(工藤夕貴)。台風一過の朝から彼女たちはどんな日々を過ごしただろうか。
(了)