『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』 に思考回路が囚われた
ご覧いただきありがとうございます。とんです。
先週、1日なので映画を観ようと夕方日比谷に行って、見られるものの中で直感で映画を選んだところ、ものすごくよかったので感想を書きます。ちなみに字幕で観ています。上映直前にチケットを買ったらほぼ満席で、1列目と2列目の端しか空いてませんでした。流行ってますね。
感想を読んで気になった方は、ネタバレを読む前に映画を観てください!本当におすすめです。
あらすじ・紹介
オスカル・ブラックの有名作『デダリュス』の第3巻が発売するにあたり、翻訳した作品の世界同時発売を目論むアングストローム社のエリックは、
情報漏洩を防ぐため、各国から集めた9人の翻訳家を2ヶ月間ネットのない地下空間に閉じ込めて翻訳の仕事をさせます。
しかしそんなネットのない環境にもかかわらず『デダリュス』の冒頭10Pがネット上に流出。果たして犯人は誰なのか。どうやって流出させたのかー。
ダン・ブラウン『インフェルノ』の発売時に、実際に何人かの翻訳家が地下牢に閉じ込められて翻訳を行っていたという事実を下敷きにした作品です。
また未出版作品に対してのサイバー攻撃があったという事実も幾つかの作品で存在するようです。
↑この時はお金を出して対処したようですね。この作品ではどうするんでしょうか。
公式コピーは、「あなたは、この結末を『誤訳』する」。
公式サイトでは「読み返せ。真実は、この中にある」という文句が書かれていますが、『インフェルノ』を読んだことがなくても実際のお話には影響しません。私も読んだことがありませんでした。「読み返せ」というのは「映画を何度も振り返って見返せ」という意味だと思います。
フランスの映画ですが、実際に9人の各国出身の俳優さんを起用しています。例えば中国語翻訳家役の方はぱっと見でアジア人だなとわかるような顔立ちでした。
また音楽に三宅純さんという日本人の方が起用されています。演出として流れてくる音楽にも注目してご覧ください。
それと、これから観る方はスーツケースの鍵の番号にご注意を。
感想
まず、翻訳を底に置いた作品なので、何度も『デダリュス』の引用が出てきて、その文章がとても美しいです。この作品の日本語訳は原田りささんという方が担当しているのですが、字幕で繰り出される日本語がきれいです。
私自身が文学部ということもありますが、冒頭からずっと言葉の美しさが印象に残っています。文学を愛せ。
ストーリー展開もとても秀逸でした。伏線回収が好きな人は大好きな作品だと思います。詳しくは次の段で。
翻訳家を「軟禁」するという事実に大きな問題提起を行う作品でした。文学を愛せ。続きは次の段で。
翻訳家ということもあり、俳優さんたちは何ヶ国語も話せるようです。その会話がかっこいい……。そして美しいです。基本のフランス語の発音も流暢で聞いているだけでも耳に心地よいです。これも続きは次で。
ネタバレを含んでしまいそうな部分が多くてあまり書けませんでした。もしこれで気になる方はネタバレを見る前に映画を観てください!!
ネタバレ含む感想
ここから先は映画を観ていないと何を言っているのかわからない部分も多いし、読むと映画を見る楽しみが大幅に減る可能性があります。絶対に映画を観てから読んでください。
最初は「どうやって流出させたのか」「誰が流出させたのか」のミステリーとして進んでいき、エリックからの犯人探し、さらに翻訳家内での犯人探しも始まるのですが、それがどんどん「なんのために流出させたのか」「そもそも今何の犯人を探しているのか」という方向にストーリーが変わっていきます。このたくさんのどんでん返しにわくわくして、映画に引き込まれました。逐一明らかにされる真実ですら、最後まで本質にはならず、そうきたか!そうだったのか!と始終楽しくてにやにやしていました。
終盤エリックを捕まえるために、エリックにばれないようにいろんな言語で作戦を立て合うシーンがあって、そこが最っ高にかっこよかったです。「1、2、3」とか分かっちゃうんじゃ?と思って言語を変えたのは秀逸でしたが、中国語でも気付かれますよね〜〜〜何語なら気付かれないんだろう。日本語はどうなんだろうか。
エリックは、金に目が眩んで文学への敬意や誇りを捨てた経営者でした。そのエリックがローズマリーに「文学が好きならそれを証明しろ」と言って指示を出すのが良いアイロニーでしたね。そしてそれを証明するために最終的に翻訳家たちの味方をしたところでローズマリーナイス!!と思いました。
わからなかったところとしてスーツケースの番号が違ったじゃないと思ったんですが、アレックスが用意したスーツケースとエリックのスーツケースで番号が違ったんですね。
レベッカの格好をしていた女性アニシノバは命は助かったのかしら。作戦には参加していないのに最後の翻訳は味方をしてくれてかっこよかったです。
ローズマリーもアニシノバも、文学を愛する者としてアレックスの味方をしました。本当に、文学って素晴らしいと思わせてくれる作品でした。「犯罪とは一種の演劇形態である」という言葉も出てきますが、これはミステリーでありながら非常に文学的で演劇的な、ただの娯楽小説以上の作品です。
コピーの「結末を誤訳」の意味がわからなかったです。「誤訳」しないようにめっちゃ注意しながら観てたからなのかな…?結末は誤訳しようがないのではないでしょうか。コピーライターが「興味を引くため」だけに適当に書いたコピーな気がしなくもなくて、そこが唯一の残念ポイントです。もし「こういう意味では?」という意見のある方がいらしたらコメントください。
それと本質ではないんですが『デダリュス』ってどういう意味なんでしょうか?「dedalus」で検索しても出てきません。「daedalus」はギリシャ神話で王のために迷宮を作ったアテネの名工の名前、英語で「巧妙な」という意味のようです。登場人物の名前なのかな?
おすすめ
本当に、面白い作品でした。文学への愛、言葉への愛がますます大きくなる作品であり、ミステリー好き、伏線回収好きとして、一番端の席でめっちゃ見上げて観る肩の痛みを忘れる楽しさでした。
絶対観る価値があります。観てください。
文学を愛せ、クソ野郎