小4 レコードプレーヤーを買いに行ったのに
小学四年生のころ、家にはレコードを聴くためのプレーヤーがなかった。
勿論レコードもなかったと思うが、その頃の音楽を聴く手段はテレビやラジオから流れてくるものだけだった。グループサウンズはテレビで見ることができたが、洋楽は運が良ければラジオで聴くこともあるが、レコードを買わないと自由に音楽を聞くことができなかった。勿論レコードをかけるプレーヤーがなければ聴けない。
カセットテープもない頃の話である。
『卒業』という映画で歌われた『サウンドオブサイレンス』という曲は、静かな大人の曲で、それまで夢中になっていたアメリカのモンキーズの歌とは明らかに違っていた。映画の最後のシーンが有名だが、内容的に幼い私にはよくわからない部分もあり(ほとんどわかっていなかったと思う)、それよりも映画の中で流れる曲にすっかり魅了されてしまった。
本屋で立ち読みした映画雑誌の中に「卒業」の挿入歌をうたっているサイモンとガーファンクルのことが載っていた。アルバムも出しているようだった。レコードプレーヤーもないのに、私はアルバムを買うためにせっせとお小遣いをためた。
当時LPレコードは二千円ほどしたから、今なら二万円ぐらいか、子どもにとっては大金である。お年玉がなければ貯められない金額だ。ちなみにLPレコードとは今で言うアルバムのようなもので、直径約三十センチメートルの硬い合成樹脂の裏表に曲が何曲も入っていた。両面で約一時間ぐらいではなかったかと思う。
好きな時に好きな音楽が聴けたらいいなあ、と思っていた。レコードプレーヤーを買ったらレコードも買って、いつでも歌が聴けるなんて夢のような話だった。
ついに、その願いが叶う日が来た。
クリスマスプレゼントにレコードプレーヤーを買ってくれることになった。みんなで楽しめるし、安いものでいいからということで楽器店に家族全員で行った。そう、電気店ではなく楽器店だった。
そこには様々なレコードプレーヤーが売っていた。音が出ればいいから、と言いながら大きさや値段の違うプレーヤーをいろいろ見ていた。
ふと、別の棚を見ると、クラシックギターが置いてあった。
へえーギターもあるんだ!
そこで、誰が言ったのか思いだせないが、
「プレーヤーがあっても、レコードがないとしょうがないよね」
「レコードも結構高いしね」
「・・・ギターってそんなに高くないんだね」
「・・プレーヤーと同じ値段で、それだけで済む」
「ギターで弾けばいいんじゃない? 歌いながら弾くこともできるし」
「歌の本もいっぱい売ってるしね」
ギターを弾く、弾きながら歌う、姉と私には魅力たっぷりに聞こえてきた。
中1の姉としばしの相談の後、私たちはレコードプレーヤーではなくギターと教則本を買ってもらうことにした。
全くの予定外だったが、なんだかすごくうれしかった。
家に帰ると夢中で練習した。左手が痛い痛いと言いながら、一つコードが押さえられるたびに大喜びした。弦がナイロンなので近所迷惑にもならないだろうと夜遅くまで弾いて、いい加減にしなさいと母に何度も叱られた。
楽しいことは時間を忘れて練習するのだ。流行りの曲の簡単なコード進行を覚え、ジャンジャン弾きながら歌った。私は聴衆のあるカラオケで歌ったことはほとんどないが、あの一人弾き語りはとても楽しかった。。
その後、何年かしてレコードプレーヤーを父が買った。私のお小遣いもたまり念願のサイモンとガーファンクルのLPレコードも買った。
ようやく本物を聴くことができるようになった。
その曲をギターで弾こうとしたが、『サウンドオブサイレンス』は弾き語りをするには難しすぎた。
それに、分からない英語の歌なので歌うこともできない。
ハロ~ト~キ~・・・・ムムム~・・・。
久しぶりにユーチューブで同じ曲を聴いた。やっぱりいい曲だ。
ハロ~ト~キ~・・・・ムムム~・・・。
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