十代目ワンフォーオール死柄木弔
本誌最後に残された謎
「僕のヒーローアカデミア」の最後の最後、僕は違和感を覚えた。
敵:ヴィランである死柄木弔の姿があったことだ。
彼は作中、塵となって消失してしまっていたはずだった。
なのに、彼は主人公である緑谷出久を見送っていたのだ。
この謎と、その理由をとりとめもなく考え続けてきた。
そうして、十代目ワンフォーオール死柄木弔という仮説にたどり着いた。
譲渡不可能になっていたはずの巨大な聖火、OFA: ワンフォーオール
OFA: ワンフォーオール。
かつてオールマイトが手にしていた桁外れの力であり、緑谷出久に譲渡された力。「僕のヒーローアカデミア」の象徴的な個性であり、継承と共にその火は烈火のように巨大となっていった。
それは、敵を止める物語を完遂されるために譲渡され続けた聖火だった。
この巨大な聖火、ワンフォーオールの最後の継承者は、九代目緑谷出久。
僕はずっとそう思ってきた。
作中において、生来の何かしらの能力を持たない、つまり「無個性」である人はほとんどいない。オールマイトや緑谷出久くらいだ。
そしてワンフォーオールは、無個性でなければ力を保持し続けることができない、という特性を持ち、寿命を大幅に縮めてしまうほどだった。だからこそ、ワンフォーオールという聖火を誰かに譲渡することは叶わなかった。
緑谷出久の幼馴染であり、ワンフォーオールの秘密を知り、譲渡の機会を得られた爆豪勝己もまた、一瞬だけ力を得ることができても保持はできず、最終的な譲渡は失敗してしまった。
しかし、唯一例外がいる。
死柄木弔《しがらきとむら》だ。
ワンフォーオールを奪うための操り人形、死柄木弔
彼はワンフォーオールという聖火を奪い取れるようにするため、肉体というハードウェアも、精神というソフトウェアも更新された操り人形だった。
だからこそ、作中でもワンフォーオールに宿った個性の一部を奪い取ることに成功した。
しかし死柄木弔は緑谷出久からワンフォーオールが壊れていくほどの譲渡を何度も浴びた。聖火そのものを浴びた弔の肉体と精神は、崩壊の寸前にまで追いやられる。
最後、人類の宿敵、魔王に、自らの出自の全てが仕組まれ支配されるための、操り人形にするためのものでしかなかった事実をぶつけられた。結局、彼は消えてしまったかのように思われた。
十代目ワンフォーオール死柄木弔
緑谷出久が魔王に再び立ち向かい、そしてふたたび拳をぶつけた時、死柄木弔は歴代のワンフォーオール継承者たちと共に応え、魔王を壊した。魔王は、聖火によって燃えていく灰のように散っていった。
彼の憧れのはじまりとなったヒーロー、オールマイトと志村菜奈の願いを、図らずも叶えていた。
そして弔が敵となった動機、「あの家に連なる崩壊」を、魔王の破壊によって完遂させるに至り、「せいぜい 頑張れ」と彼は満足げに消えていく。
そして、オールマイトもまた、「譲渡したんだろう?伝わってきたよ」と緑谷出久に語りかける。
まさしく彼はあの瞬間、十代目ワンフォーオール死柄木弔となったのだ。
物語を終え、ろうそくの灯火となったワンフォーオールと共に
死柄木弔は「僕のヒーローアカデミア」の最後の最後、緑谷出久を見送る。
歴代の継承者たちが、これまで緑谷出久に共鳴し、そうしてきたように。
確かに、ワンフォーオールはもう気づけるほどの大きさの火ではなくなってしまったのかもしれない。その力は解《ほつ》れてしまったのかもしれない。
それでもワンフォーオールは、初代である与一の、形成時の栄養不足によって形にならなかった個性因子のようなものから、すべてが始まった。
ワンフォーオールの火は、いまや烈火とは言えずとも、時折気づける、ろうそくの灯火のように、緑谷出久と共にあり続けるのかもしれない。
ろうそくの灯火もまた、ひとつの聖火のありかたなのだ。