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オーディオの話(15)

オーディオ機器の暖機運転


 昔のクルマは、寒い冬になると必ず「暖機運転」を必要としていましたね。今の若い人は知らないだろうけれど、チョーク弁を操作してガソリンの濃い混合気をエンジンに送っていたもんです。しかし、今のクルマでは暖機運転は必要とされていないそうですね。電子制御により、エンジンの性能をどんな状態でも引き出せるようになっているので、わざわざエンジン温度を上げなくても十分な走行が可能なんだそうです。無用な暖機運転は、燃費を悪化させ環境汚染につながるだけだって。

 一方、オーディオ機器の場合は、残念ながら今もなお暖機運転が不可欠のようです。いきなり電源を入れて音楽を聴くと、音に伸びがない上に、何だか刺々しくささくれた感じにしか聴こえてきません。なぜそんなふうになるのか。この理由についてはいろいろ言われていますが、一説には、機器に搭載されている「3端子レギュレーター」という電源安定化用のICが、電源を入れてから十数分は正常動作しないので、このせいではないかといいます。

 3端子レギュレーターはオーディオ機器に限らずほとんどの電子機器に使用されているそうです。極めて汎用的なデバイスで、多くの半導体メーカーが作っているのに、どのメーカーのものも同じような現象を示すといいます。ただ、十分温まった後だと、電源を入れなおしても直ぐに正常動作するんだとか。とにもかくにも温もりを必要とするICのようです。

 実は以前、メーカーのラックスマンの人に、買ったばかりのアンプについて「暖機運転にはどれくらいの時間が必要ですか?」と尋ねたことがあります。その回答が「15分くらい」というものでしたから、3端子レギュレーターの動作と符合する話です。ほかにも理由があるのかもしれませんが、いずれにしても人間の体であれ機械であれ、それなりの準備運動、ウォーミングアップが必要というのは大いに実感できるところです。

 しかしながら、中にはオーディオ機器の暖機運転には15分どころか、少なくとも1時間、さらには3時間くらい必要という人もいます。このあたりは機器によって違うのかもしれません。また、いつでもいい音で音楽を聴きたいからと、ずっと電源を入れっぱなしにしているという強者の話を聞いたことがあります。これほどのレベルの話になると、もはや私の論の及ぶところではございません。しかし、長く聴き続けていて、最初の30分くらいはともかく、1、2時間をこえてなおどんどん音が良くなっていくという実感はないですけどね。このあたり、どうなんでしょう。
 

ダイナミックレンジ
 機器が処理可能な音(信号)の大小の幅を示したもの。単位はデシベル(dB)。この数値が大きいほど小音量と大音量の幅が広くなり、音楽の表現力も豊かになる。
 通常、音量を下げていくとやがて音源ソースは機器が持つノイズに埋もれていくので、これが信号の最小値になる。また、音量を上げていくとだんだん歪みが大きくなり、正しく信号が再生できなくなるので、これが最大信号の限界となる。
 人間の聴覚が持つダイナミックレンジ、すなわち知覚できる最小の音圧と、苦痛を感じる最大音圧の比率は、およそ120dBといわれる。聴感上の音量変化の幅が広い音を、「ダイナミックレンジが広い」などと表現する。一般のCDは96dB、 レコードはおよそ65dBといわれる。
 

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