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オーディオの話(17)

『CANTATE DOMINO(カンターテ・ドミノ)』


 この季節になると必ず聴きたくなってくる『CANTATE DOMINO』。クリスマス音楽を集めたアルバムですが、とても40数年前の録音とは思えないクオリティーで、何でも1本のマイクによる一発録りだったとか。広大で立体的な音場感と、ホールエコーの美しさは筆舌に尽くしがたいほどです。なので、LP時代から、マニアにとってオーディオ・チェックのための必須のアイテムだったといいます。しかし、これほどの優秀録音だと、そこそこのシステムであれば、おそらくどれも良いように聴こえるのではありますまいか。とすると、並々ではない、かなりハイレベルなチェック項目が要求されているのでしょうね。

 そのように私が申しますと、ある方が次のような説明をしてくれました。

―― 四角いダイヤフラムを持つPEARL TC4というあまり聞かない(変わった)マイクを1ペアだけ使っての完全ワンポイントステレオ方式で、レコーダーは民生用のルボックスA77を19cmで使ったという、表面的なスペックだけ見ると、どちらかと言うとアマチュアの生録のような録音です。

 良く出来たワンポイントステレオ方式特有の空間情報の豊かさを感じさせながら、同方式が苦手とする個々の音像の鮮明さや解像度、音のエネルギー感もいささかも失われておらず、この辺が奇跡の録音とも評される所以かと思います。上手く再生すると部屋の大きさに関係なく広大な音場が眼前に現れ、まるで録音した空間に居るような錯覚まで覚えます。

 音楽再生としての聴きどころは多々ありますが、私としては超低域のノイズだとか、車の走行音だとか、変な部分にも着耳してチェックしています。音楽には関係ない部分ですが、この辺の再現力で臨場感がハッキリ変わって来ます。

 使用機材だけを見ると、民生用のオープンリールデッキを使うなど如何にもアマチュア的ですが、ふと各機材の性能を細かく見て行くと、無名なPEARL TC4ですが当時主流だったプロの録音用マイクと比べても周波数特性がフラットと優秀であり、またオープンリールデッキについてもプロ用のスチューダーより、民生用のルボックスの方が周波数特性や歪については、優秀であるなど、これは偶然の産物ではなくエンジニアが確信犯的に行った選択とも思えなくもないです。テープスピードも38cmではなく敢えて19cmを使ったのは、パイプオルガンが空間を揺るがすような超低域には、録音ヘッドの効果で早過ぎるテープスピードはかえってマイナスで、その辺を熟知した上でこの選択をしている可能性が高いと私は見ます。

 このカンターテ・ドミノは、私の中では聴くだけでなく、生録の教科書のようなところもあり、ワンポイントステレオのマイクの間隔を何cmにして、マイクの指向性や向けた向きとか、設置した高さとか、色々と知りたいことがあります。あと、PEARL TC4も可能なら何時かは手に入れてみたいマイクになります。――

 いかがですが、大抵のオーディオ・ファンなら持っているというこのディスク、まだお聴きでない方がいらっしゃいましたら、是非ともお聴きになってくださいな。
  

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