得意淡然、失意泰然
「得意淡然」「失意泰然」――。私の大好きな言葉です。それぞれ、「とくいたんぜん」「しついたいぜん」と読みます。「得意のときに驕(おご)り高ぶることなく、失意の時にはゆったりと構えていなさい」というような意味で、もとは明代の中国の崔後渠(さいこうきょ)という人物による『六然(りくぜん)』にある言葉だそうです。
これで思い出すのが、1996年に放映されたNHK大河ドラマ『秀吉』の、ある場面です。詳しくは覚えていないのですが、何かの理由で秀吉が主君・信長の怒りを買い、干されてしまいます。意気消沈しているところへ、ライバルの明智光秀の居城を信長が訪問する、という情報が入ってきます。それを聞いた秀吉はもう居ても立ってもいられなくなり、すぐさま光秀の城へ出向き、信長の御機嫌伺いをしようとします。
それを見た、沢口靖子さん扮する妻のおねが、「みっともないからやめなさい」と言って秀吉を止めるのです。「こんな時こそ悠然と構えるべき」と秀吉を諭します。立派な妻ですね。まさに「糟糠(そうこう)の妻」、この妻あればこその秀吉だったのでしょうね。
なぜだか、この場面だけがとても強く印象に残っているのですが、実は、私らサラリーマンの世界でも、こういうことはよくあります。仕事で何をやってもうまくいくとき、反対に何をやってもうまくいかないとき、また上下関係や人間関係がうまくいかなくて思い悩むときなど、さまざまに得意と失意の場面がやってきます。得意なときはつい高慢になりやすく、失意のときは何かと焦り慌てるものです。
この、秀吉が焦りまくるシーンと妻おねの言葉は、当時の私にとって、とても身につまされるものでありました。それ以来、「得意淡然」「失意泰然」を、座右の銘に加えております。