高級海苔とそれなりの海苔では、味はどう違うのか?
2010年にフランスの微生物学研究チームが「生海苔を消化できるのは日本人だけ」と、科学雑誌Nature で発表しています。
「生海苔」の成分を分解できるバクテリアが、腸内に存在しているのは日本人だけだったそうです。
全ての日本人が分解できるバクテリアを持っているとは限らないですし、日本人以外は持っていないとも言い切れないですし、そもそも生海苔を食べる機会は少ないですが、日本人は昔から海苔を食べてきた民族であることは間違いないのではないでしょうか。
そんな日本人とは切っても切れない海苔ですが、原料の品種や養殖時に使われる「酸」については、あまり知られていません。
この記事では、
海苔加工品の種類
品種について
養殖時に使われる酸について
また、それによって味はどう変わるのかをお伝えします。
海苔加工品の4種類
(1)生海苔
原料の海苔を収穫後、異物を取り除き、洗浄したものです。
生で食べる他、乾海苔や佃煮などの原料にもなります。
生で食べる場合は、12月頃からのわずかな時期しか出回らない「新芽」を食べることがほとんどです。(冷凍品もあります)
お刺身のようにお醤油やポン酢で食べたり、和え物にするのが一般的です。
(2)乾海苔(ほしのり)・乾燥海苔・板海苔
生海苔を薄く板状に伸ばして乾燥させたものです。
そのままでも召し上がれますが、食べる前に焼くと、食感と香りが増します。
焼き方は、2枚の海苔の裏面同士を合わせて、表面を動かしながら軽く炙るようにして焼くのが一般的です。
巻きずし(特に太巻き)は、焼かずにそのまま使うこともあります。
(3)焼き海苔
乾海苔を焼いたもの。
スーパーなどで売られている海苔のほとんどは「焼海苔」です。
乾海苔と同じ要領で、食べる直前に少し焼くと風味が増します。乾海苔より焼海苔の方が消化しやいのも特徴です。
(4)味付け海苔
焼海苔に味をつけたものです。
海苔の種類
乾海苔や焼海苔に加工される海苔は「アマノリ」の仲間で、主に3種類が使われます。
(1)アサクサノリ
昔、浅草で採取、製造、販売されていたことからこの名前がついた説があります。(諸説あり)
他の品種の海苔に比べて柔らかく、甘味が有り、とろける様な口当たりが印象的です。
以前は日本中で沢山養殖されていましたが、とても手間がかかり、傷みやすく、病気にも弱く、きれいな海でしか育たないため、近年は養殖している人は少なくなり、貴重な品種になっています。
現在は、流通している海苔の1%程度。
天然のアサクサノリは絶滅危惧類に指定されています(2020年現在)
乾海苔の状態では、少し赤みを帯びています。
焼海苔にすると、緑がかった色に変わるのが特徴です。
(2)スサビノリ
日本で一番養殖されています。
現在販売されている海苔のほとんどはスサビノリで作られています。
特徴は、黒っぽいくて光沢が有り、パリパリしています。
(3)ウップルイノリ(十六島海苔)
「岩海苔」と呼ばれる海苔で、その名の通り岩に自生している海苔です。
養殖物は「岩海苔」と表示することが出来ません。
乾海苔を作る時に、アサクサノリやスサビノリは小さく刻んで板状に広げますが、ウップルイノリはそのまま広げて乾燥させるので、所々穴が合いている場合があります。
汁物によく合う印象です。
酸処理
酸処理の効果(1)
海苔は、海に立てた支柱にかけた網に、胞子を植え付けて育てられます。
潮が満ちて網が海水に浸っている間に海苔は成長し、潮が引いて水面から網が出ると海苔が太陽の光を浴びて殺菌されて病気を防ぎます。これを、干出(かんしゅつ)と呼びます。
しかし、干出が出来る遠浅できれいな海が少なくなってきたことや、効率が悪いことから、深い場所でも養殖が出来るように、酸の入った箱に海苔が付いた網を浸して殺菌をし、病気を防ぐ養殖法が多く採用されています。
酸を使って病気予防することを「酸処理」と言います。
国内で製造される90%以上の海苔は酸処理されています。
クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酢酸、その他: 塩化アンモニウム、リン酸ナトリウム、アミノ酸液などの有機酸が許可されてますが、効き目が早い塩酸、硫酸、リン酸などの「無機酸」を使用する生産者があとを絶たないようです。しかし、罰則もないため、実態をつかめていないのが現状のようです。
生態系への影響もありそうですね。
酸処理剤の効果(2)
酸処理した海苔は、黒く、固くなります。
反面、味や香りは損なわれてしまいます。
黒くてパリパリの海苔は、ひょっとしたら酸処理のおかげかも知れません。
味の違い
品種による差
アサクサノリ:柔らかく、甘みがあり、とろけるような食感
スサビノリ:光沢があり、厚手で、パリパリした食感、アサクサノリに比べると甘みや香りは少ない
酸処理による差
酸処理あり:パリパリ、黒くてツヤがある
無酸なし:口の中で香りが広がる、甘みがある
まとめ
酸処理は悪い、スサビノリは美味しくないという内容の記事ではありません。
どちらにもメリットデメリットがあり、現在の状態は、自分たちが選択して来た結果、欲しいものを追求してきた結果だと思います。
自分達が何を食べているか知ることが、未来の食を作るのかもしれませんね。
お店では、海苔をお出しするおまかせコースの時は、アサクサノリの無酸処理の海苔を、炭火で炙ってお出ししています。
ごはんとの相性も抜群ですよ。
11月に収穫した一番最初の海苔を加工した12月頃に出る「初摘み」「新物」と呼ばれる海苔は、香りがよくて味も柔らかく、個人的には新茶や新米のような特別感があります。その時期にしか味わえない海苔です。
参考
Hehemann, JH., Correc, G., Barbeyron, T. et al.海洋細菌由来の炭水化物活性酵素の日本人腸内細菌叢への移行。Nature 464 , 908–912 (2010).
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