「デモリール」(映像資料)について
昨今、俳優の皆さんの周りでよく話題になっているであろう「デモリール」(映像資料)について、今の所の自分の所感をまとめてみました。少し長くなるかと思いますが、興味のある方はぜひお読み頂くと、発見があるかもしれません。
・デモリールとは
一般的に「デモリール」「アクティングリール」「ショーリール」「リール」と呼ばれるものは、基本同じものを指していると思います。簡単に言えば映像資料です。
Googleで検索すると以下のように説明されています。
デモリール(演技リール、またはショーリールとも呼ばれます)は、俳優がカメラ上で最高の演技を約1~2分間のビデオにまとめたもので、その俳優の演技の幅を示すものになります。2024/02/12
「デモリール」という名称は主にアメリカ発祥です。ハリウッドなどはメジャー映画のメイン級配役でも結構オーディションが行われたりしていて、そのオーディションの事前資料として俳優が演じているところを撮影した映像をつけるものとして誕生しました。
ここ十数年の間に機材の向上で映像はどんどん簡単に(安く)撮れるようになってきました。
それに伴って、映像資料を撮って送ると言うことがどんどん当たり前になってきました。
コロナ禍になると、アメリカでも直接会って行うオーディションが控えられるようになり、そこ代わりにデモリールだけでオーディションを行ったりすることも増え、それがコロナ禍以後も定着しつつあるようです。
このサイトはデモリール制作会社のもので、割とわかりやすくまとめられています。
ただこのサイトはかなり海外を意識しているので、日本ではこの限りでないような気もします。(主観ですが)
また、あくまで現状の、大方の定義というだけで、決定的に決まったルールがあるわけではありません。
また上記のサイトの会社のことを、僕は今の所詳しく知らないので、僕がこの会社のサービスを推奨しているわけではありません。
・デモリールの目的
さて、デモリールは何のための物でしょうか?
それは当然、その俳優の演技のレベル、個性を知るためのものです。
本気でキャスティングする俳優を探そうと思った時、プロフィールでわかることは多分必要な情報の10〜20%ぐらいかと僕は思います。
そこで実際に演技している映像があると、キャスティングで選ぶ際かなり参考になるわけです。
・デモリールの内容
1)シナリオ
ではデモリールで使用するシナリオはどんなものが良いのでしょうか?
目的から考えれば、俳優の演技がよりわかりやすく見れる物である必要があります。
ただ、ここで一つの疑問が浮かぶと思います。
ドラマや映画のシーンでは、多くの場合で二人以上の人物で作られているということです。
一人の場面もありますが、多くの場合セリフのない表情芝居だったり、会話があっても電話をしているなど限られた場面が多いです。
僕としては二人以上の登場人物が出てくるシーンを選んだ方がいいと思います。
なぜなら、人は誰かと話したり、何かをしていると、影響を与え合うものです。
登場人物たちが影響を与え、あるいは与えられることで様々な反応が起きる。そこに演技力を見せる部分が生じると思っているからです。
では、話の内容としてはどのようなものが良いのでしょうか。
まず避けた方が良い思うものは、演じる役の感情がとても強い、または弱いものです。
感情が強いとは、ざっくり言えば激怒、号泣、大笑い、大喜びのような瞬間です。
こうなるとほとんどの場合、皆同じような反応になることが多く、演技のレベル、個性を見るのには分かりづらい可能性があります。
または感情があまり動いていない、平常心の状態である瞬間も、やはり演技のレベル、個性がわかりづらいことが多いです。
ではどんな瞬間が良いか。多くの場合で演技力が試されるのは、人物が複雑な心境になっている時が多いです。
例えば、怒りたいけど怒れない、とか、怖いけど前に進む、とか、好きだけど気持ちをうまく表現できない、とか、二つ以上の感情がぶつかっている瞬間というのは、演技で表現するのが難しく、その分演技のレベルや個性がよく見えることが多いです。
もしくは例外的に、「このキャラクターの演技が得意で、そのまま使ってもらえば確実に面白い」というものを持っていれば、そういう面を演じて見せるという手はあると思います。
では、デモリールに使うシナリオを、すでに映画やドラマといった作品になっているものから引っ張ってきたらどうか、と思う方もいらっしゃると思います。
これについて、自分の答えはグレーです。
すでに作品として発表されているものは、当然著作権を誰かが持っています。なので、そのシナリオを使用して映像を作ることは、本来著作権者の許可が必要です。
ただ、デモリールとして限られた人にしか見せない場合、許可がなくても実質訴えられるようなことはないとは思いますが、いずれにせよ法律的にグレーであることには変わりありません。
ましてそのデモリールを何かのコンクールに出したり、多くの人に公開するような場合は、避けた方がいいと思います。
あるいは、頑張って著作権者にアクセスを取り、正式に使用許可を取るべきです。実際に許可を取って簡易的に撮影したものをyoutubeで発表していた方々も過去にいらっしゃいました。
2)尺(映像の時間)
まずデモリールの尺としてよく推奨されているのは、全体で1〜3分です。中には1分、2分までというように厳然と決まっているとする人もいます。
なぜ短い尺がいいかというと、見る方が楽だからというのが主な理由です。キャスティングするプロデューサーやディレクターはたくさんのデモリールを見ることになるので、確かにこれは理解できます。
ただ、これについて僕としては一つ異論があります。
たとえば1分の尺だとすると、演技的に見せれることを本当に限られてしまいます。シナリオ的にもとても断片的な内容にせざるをおえません。これでは正しく演技のレベル、個性を見ることは難しいのではないかと思っています。
動画であれば、たとえ多少の長さがあったとしても、気になったところを飛ばしながら見ることは可能です。
とは言え、例えば10分以上の内容だとすると、流石に飛ばすにしてもどこに見所があるのか分かりづらい可能性があります。
となると、だいたい3〜5分程度の尺が、演技を見るのに適切なのではないかというのが自分の意見です。
ただ、今年行われるというシネマプランナーズ主催のデモリールのコンクールでは、3分までの作品を募集しているそうなので、その応募を目指してデモリールを作ろうと思っている方は注意が必要です。
3)演出
映像の演出的にはどんなものが良いでしょうか?
基本的には、一人の俳優の演技をとにかくわかりやすく見せることがメインテーマになる必要があると思います。
会話が起こったとしても、ほとんどの部分をメインの俳優のワンショットのカットを使用したり、俳優の体の動きを見せたいのでなければ、なるべくメインの俳優に寄ったショットを使ったりするべきだと思います。
4)撮影
撮影についてはどういったものが良いでしょうか?
現状、簡単に映像を撮るだけなら、皆さんお持ちのスマホでいくらでも撮れてしまいます。
一方で、テレビや映画などで使用する撮影する高価で高品質なカメラや機材もあります。
一体どんなカメラ、機材で撮影するのが良いのでしょうか?
一つ言えるとすれば、撮影のクオリティは良ければ良いほど良い。ということです。
しかし、クオリティの高い映像は当然ながら簡単には撮れません。
良いカメラなど機材を用意するのにはそれなりにお金がかかるし、良いカメラは知識や技術がなければちゃんと扱えません。それが自分になければ、それを持っている人、いわゆるプロを連れてこなければいけません。またクオリティの高い映像を撮るには照明機材も欠かせません。この照明についても、ただライトを俳優に当てるだけといったものから、作品に合った良い雰囲気を作るようなテクニカルな照明まで、色んな方法がありますが、これもプロでないとクオリティの高い照明は作れません。俳優のセリフなどを録音することも、高いクオリティを求めるとプロの技術が必要になります。
これらはお金と技術者のツテがあれば解決できますが、それを持っている、使える俳優がどれだけいるでしょうか。
前述の通り、デモリールの目的は俳優の演技のレベル、個性を見ると言うことです。
逆を返せば、それが分かる映像のクオリティがあれば、ある意味問題ないと言えるのではないかと自分は思っています。
ただ、メインの俳優の表情が見えにくかったり(カメラから遠い、ピンボケしている、照度が暗いなど)、セリフが聞こえにくかったり(雑音が多い、音量が低すぎる)みたいなことになると、資料として問題があるのは当然です。
また自分のスマホを据え置きで撮影した自撮り動画は、やはり画角(撮影できる場の広さ)が狭く、どうしても不自然な芝居になりかねないので、あまり推奨出来るものではないかなと思います。ただ、募集の条項として自撮りで撮って送ってほしいという指定がある場合もあるので、その場合は気にすることなく撮影して送ると良いと思います。
いずれにせよ、自分の今用意できるレベルの撮影のクオリティで撮影するしかないですし、ないよりはあった方が良いのは間違いないです。
ただ、撮影のクオリティは決して必要ないというわけではなく、撮影のクオリティに乗じて俳優の演技を実力以上に見せてくれる効果はあると思います。
5)撮影地・衣装・小道具
撮影する場所も、できればシナリオに合う場所でやれば、その分映像の雰囲気も上がるし、俳優も気分的に上がるので、良い演技をしやすいかもしれません。
衣装・小道具も一緒です。役に合った衣装や小道具を持っていれば、見ている人にはよりその役をイメージして俳優の演技を見ることができるし、俳優も演技がしやすいと思います。
ただ撮影場所は、やはり場所によっては当然コストがかかりますし、衣装・小道具も同様です。
・その他のリール
自分の演技を撮影したオリジナルのリール以外にも、自分の出演した作品のシーンを切り取った物、またはそれらを集めた物をリールとしている人もいると思います。
ただこれには一つ問題があって、それは著作権の問題です。
基本的には映像を使用する際は、それが自分の出演しているシーンであっても、その映像の著作権者の許可が必要です。中には許可を取らずにこっそり映像資料にしている方もいらっしゃいますが、当然法律的にはグレーなので、推奨するものではありません。
特に日本の映像業界はかなり狭いので、良くない噂は回ってしまう可能性があります。皆様ぜひお気をつけ下さい。
また募集内容によっては、指定のシナリオを使って、指定の方法で撮影し、それをデモリールとして添付することを求める募集もあると思います。
その場合はその指示に従って撮影し、送付する必要があります。
・デモリールの数
キャスティングは多くの場合、役により合うイメージを持っているのはどの俳優か、ということで決まります。
逆を返すと、募集している役のイメージに合う印象を与えれば合格できる可能性が上がります。
その考えで言えば、デモリールも募集する役に合ったものを提出するのが理想です。
例えば、サスペンス作品の役の募集なのに、コメディ要素の強いデモリールを送っても、募集する役に合うイメージに合うかと言えば、難しい所があるかもしれません。
また、デモリールを撮った時期についても、あまりにも前に撮られた物だと参考にしづらいと感じさせる可能性があります。
そういったことを踏まえると、自分がキャスティングされそうなジャンル、役のデモリールを、1〜2年おきに撮影しておくと非常に効果的だと思われます。
ちなみにプロフィールの写真も、上記のように応募する役に合わせて、その役をイメージしやすそうな写真に変えて応募すると、書類審査が通る可能性が上がると思います。
とにかく役に合うイメージをどれだけ感じさせることができるかが肝心なので、それを踏まえた上で合格を勝ち取る作戦を練ることが大切になると思います。
・さいごに
ここまで長々と書いてみましたが、大事なのは「とにかくデモリールはあった方が良い」ということと、「とりあえず今作れる方法で作れるだけ作っておいた方がいい」ということです。
ちなみに、僕のワークショップではデモリール制作をかなり意識して行なっています。
ワークショップで扱うシナリオも、なるべく色々なジャンルを扱うようにしていますし、ストーリーの尺もだいたい3〜5分前後。内容も毎回キャラクターが複雑な瞬間を迎える話にしていますし、最後の撮影も俳優一人を最初から最後まで撮影するスタイルを取っています。コスト的に撮影は最低限の規模になっていますが、映像資料として必要な情報は撮られていると思います。
なので、とりあえずデモリールが欲しいという方は、僕のワークショップをうまく利用して頂けると良いかと思います。
ただ、基本的にデモリールは俳優の演技のレベル、個性を見るものなので、演技の練習をして演技力の向上を目指さなければ、現状より上のレベルの作品に出演することは難しいです。
また、ここに書いたデモリールについての内容は自分の主観的な意見によるものです。
前述もしましたが、デモリールに関しては現状色んな意見があり、応募する上で必要があれば上記の内容から逸脱する必要もあるかと思います。
その辺は柔軟に対応する必要があると思いますので、その点ご理解いただければと思います。