42 雪のち雪東北の田の深眠り
句集「むずかしい平凡」自解その42。
夏は青田が広がる東北の地。
けれども冬は見渡す限りの雪原。
豪雪地帯というのは、ほんとうに一日中晴れることがない。というか、ひどいときには一週間青空を見ないこともある。「雪のち雪」とは、妻子が福島から豪雪地帯へ自主避難し、初めての冬を体験したときの実感。
そして、東北という地が、この間に深く眠って、いずれ訪れる春を、じっと耐えながら待っている、そんな場所だいう思いが生まれてきた。
雪の下で深々眠りながら、何かを待つ田。
東北人の粘りというのは、こういうところから来るのかもしれません。
ちなみに、モデルとなった場所は、作家井上ひさしさんが生まれた町。この町のことを井上さんは「下駄の上の卵」という小説の中で、だいたい、冬の吹雪の日にうっかり学校へ行ってしまう子どもは、帰りに道に迷ってしまうぐらい雪が降ってどうしようもないところ、といった表現をしています。誇張しているようにも見えますが、いやいや、この言葉は嘘ではない、思いますね。
そういえば「やまびこ学校」(無着成恭編)の冒頭紹介される「雪」という詩。これも山形県の山村の姿を活写しています。
雪 石井敏雄
雪がこんこん降る。
人間は
その下で暮らしているのです。
「深眠り」なんていう言葉はこんな詩の影響もどこかであったかも、と今気づいたところ。