45 ヒアシンスゆっくりひらく術後の手
句集「むずかしい平凡」自解その45。
この句も、前回と同じく手術のあとの体験を題材にしたもの。とはいえ、体験とも呼べないほどの一瞬の景に過ぎませんが。
麻酔から覚めて、意識がゆっくりゆっくり戻ってくるわけですが、そのとき、どうも現実感がないんですね。さっきまで手術を受けていたということが、頭では理解できるんですが、ただベッドに横たわっているだけだと、どうも現実味が欠けてしまう。自分の体が現実の世界とちゃんとつながっているかどうか、意識と体がつながっているかどうか、確かめたい。手をひらく、というのはそんな行為だったかもしれませんね。そのときは、そんなことは意識しなかったけれど。
自分で自分の手を動かしてみる、動く、ああ、ちゃんと動いているようだ。とりあえず、現実の世界にいるようだ、と。
自分で自分の手を開いてゆくとき、ふっとヒアシンスの花をイメージしたんですね。なんだか、ヒアシンスが花を咲かせていくみたいだなあ、と。もちろん、私の手は、そんなきれいな手をしてはいません。
まだ、管につながって身動きが取れない状態だけれど、これからしっかりゆっくり回復してゆこうという、そんな思いの芽生え。
この句には、入院した時期のいろんなことがぎゅっと凝縮されているような気がします。