43 吊革の揃って揺れて日脚伸ぶ
句集「むずかしい平凡」自解その43。
がらんとした電車の車内で、電車がゆっくり曲がったり、ちょっと揺れたりすると、そのとき、吊革が一斉に、まったく同じ角度で、おなじ揺れ幅で揺れる、そんなことを目にすることがありますね。うまくいえませんが、ああいう一瞬が好きですね。
吊革なんて、べつに命があるわけじゃないし、人が手を入れている時にこそ役に立つものだけれど、そうじゃないとき、人に使われていないときも、やはりなにか自分たちの命を主張しているような、控えめながら、おれたちだってそれなりに命あるんだぞ、と言っているような、そんな感じを覚えました。
電車ががたんとする、その一瞬の隙間に輝く吊革の言葉。それを聞いたような。
「日脚伸ぶ」は、冬も終わりに近づき、夕方、あれ、なんだか日が長くなってきたね、そんな印象の時に使う季語。電車の中に、春が近づく気配。
電車に乗っている人たちにとって、少しは安らぎを感じる時間かもしれませんね。そうあってほしいです。
この句、2020.1.29毎日新聞、坪内稔典氏に採りあげられましたので、参考までに。
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