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49 遅く帰るや明日入学へ揃う靴

 句集「むずかしい平凡」自解その49。

 愚息が小学校へ入学するころの作。

 福島から山形県南部の町に自主避難して、そこで小学校へ入学することになったため、夜仕事を終え、車に乗り込み、そのまま避難地へ。

 そのとき、私自身もそこそこ重い仕事を任されていたため、すぐには帰れない。職場を出たときにはもう暗くなっていた。気を付けて、しかし早く帰らなくては。

 約一時間半かけて山道を抜け、峠を越えてアパートへ到着。玄関をあけると、明日の入学式に履いてゆく靴が揃っている。妻のパンプスと子どもの小さい靴。

 子どもの小さい靴というのは、なにか心をくすぐるものがありますね。私たちは、福島での被曝を恐れ、危険を恐れ、わざわざ生活の拠点を変えてわけだから、とりあえず無事に愚息の入学を迎えるというのは、それなりに感慨深いものがありました。その気持ちが、なんだかこの、揃った二足の靴に象徴されているような気がしたものです。

 まあ、専門俳人からすれば取るに足らない凡句。

 ただ、凡句だからと捨てられないのが、凡人。凡人の、凡句。でも、凡を極めるのもむずかしいことです。

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