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もしも6億円が当たったら

想像してみてほしい。もしも宝くじで6億円当たったら、あなたは何をするだうか…?

学生の時に、友達との間で一時期流行ったトピックが「もし宝くじで6億円当てて、明日預金通帳にドーンと振り込まれたらどうするか?」だった。
ことのきっかけは、私がインターネットのまとめ記事で宝くじの高額当選者の体験記を読んだことである(どうしてそんな記事を検索したのかは思い出せないが)。その記事には当選金額の振り込みによりゼロがいきなりドカンと増えた通帳の写真がアップされており、その衝撃たるやという感じであった。「私だったらどうするだろう、何に使うだろう?」と考え始めると、他の人はどうするのか気になり、帰りの電車に揺られながら色んな友人と妄想に花を咲かせた。ちなみにこの6億円というのがミソで、10億だと多過ぎていまいちリアリティがなく、1億では何となく使い切ってしまいそうな感がある。多すぎず、かと言って少なすぎもせず、でも夢として語れる金額。それが6億円だったのである。

私および友達の意見でまず挙がったのは、旅行だった。国際系の学部だったから、真っ先に旅行を思いつくのは予想通りではあったが、それもただの旅行ではなく、「ファーストクラスで世界一周」とか、「成田空港に行って行き先を決める」とか、おおよそ学生にはできないようなスケールの大きい旅がしたいという意見が大半だった。ファーストクラスといえば専用チェックインカウンターが設けられ、座席がフルリクライニングし、おまけに個室のように区切られているという、金持ちでなければできないこととして思いつくことの筆頭である。今まではそんなファーストクラスとは無縁の人生だったが、しかし心配ご無用、我々には6億円がある。思いの限り贅を尽くしても、せいぜい何千万くらいだ。痛くも痒くもない。

その次の使い道は、買い物である。ある友人は、「ルミネの上の階から下の階まで、気に入ったものを値札を見ずにどんどん買う」と言っていた。なんとも夢のある買い方である。
私も思い切り買い物がしたいなあとは思ったが、そんなセレブな買い物の方法は思いつかなかった。とりあえず、その時欲しいと思っていたものが手に入ればいいかなくらいに思っていた。そもそも本当のセレブはルミネでは買い物しないかもしれない。だが、授業の合間を縫って一生懸命バイトに励んでいた当時の我々からすれば、値段を気にせず買えるということ自体が本当に夢のようだったのだ。夢を見るのはタダである。

その後の使い道は人によってまちまちだが、とりあえず思い浮かぶ夢は旅行と買い物と見え、次に貯金もしくは不動産への投資を挙げる人が多かった。
通学時間が長く、電車に揺られている時間が長かったので試しに金利を計算してみたが、仮に半分の3億円を年利0.001%で普通預金に預けるとその利息は1年で30万になる。金融関係の知識がゼロ&素人計算なので間違っているかもしれないが、増える分にはまあいいかという感じの金額である。また不動産としていい感じのアパートを一棟建てて経営すれば、うまくいけば家賃収入を得られる。留学中お世話になっていたアパートの管理人のおじいちゃんを見て以来、家賃収入に密かな憧れを抱いていたのでアパートは多分購入すると思う。もちろん管理費等々も考えなければならないが、それを計算し出すと急に現実味が増すので、ここではそういう細かいことは全て置いておく。

と、ここまで来ると「もういっそのこと働かなくてもいいのでは?」という考えに至る。折しも卒業直前にこのトピックが流行った(流行らせた)ので、内定を蹴り、4月からの社会人生活を放棄したいと言い出す友人もいた。私もそう思った。
が、ここで一度冷静になってみよう。20代の我々が80歳まで生きるとすると、あと60年ほどある。60年で6億を均等に使い切ると仮定すると、1年あたりで使える金額は1000万円、月毎にすると83万円になる。感覚が麻痺してきているが、しかしなんか頑張れば使えそうな気もする金額である。6億円当選後にどんな生活を送るのかにもよるが、いずれ家族を持った際の養育費、老後への蓄え(急な医療費etc)を考えると、収入をストップさせるのは少々気が早いのではないかという結論に至った。

すると、ここで「我々はなぜ働くのだろうか?」という新たな議論が浮上する。
6億円を手にした以上、馬車馬のように働く必要はない。が、毎日やることがないというのも張り合いがない。でも生活の基盤は確保できている。そうなった時に、どんな選択をするのだろう?
思えば旅行ひとつとっても、今までLCCのセールを狙って1円でも安く航空券を買い、ドミトリーに泊まっていた人間が、いきなりファーストクラスなんぞで旅ができるのだろうか。物理的には可能かもしれないが、気持ち的には何だか落ち着かないような気もする。生まれてこの方ファーストクラスにしか乗ったことがないという生来のお金持ちには何てことないのだろうが、もし生活の質が急にグレードアップしたら、なんか逆に気疲れしてしまいそうだ。仕事だって、6億円あるからいい加減な仕事をしても良いわけなどなく、やはり目の前のことに真摯に取り組むことが(自分の)精神衛生上にも必要なのだ。お金が潤沢にあるかどうかに関わらず、いかにそれまでの価値観を保つことができるかが大事なのかなあと思う。


…ま、6億円を当ててはいないんだけどね。
最寄駅に電車が滑り込もうという時、そうして話を切り上げるのがオチなのであった。

ちなみにその後、「もしかすると」と思って年末ジャンボを買ってみたが、下一桁賞の300円が当たった。しかし300円のために銀行に出向く気も起きず、結局そのままになってしまっている。私はまだ会社で仕事をしているし、もし次に旅行に行く時はエコノミークラスに乗るだろう。6億円は夢のまた夢なのであった。

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