自分の為にピアノを弾く

先日娘のピアノの発表会がありました。娘にとっては生まれて初めての発表会でした。小ホールとはいえ会場は広く、グランドピアノと花だけだ置かれた舞台で、静寂の中一人ピアノまでの道のりを歩き、観客にお辞儀をし、ピアノを演奏するという流れ。私には経験のないことですが、かなり緊張していたことでしょう。娘を始め、子どもたちは皆そんな空気の中、自分が一生懸命練習してきた曲を弾き上げたというのは、それだけで素晴らしく価値のあることだと思うのです。曲の完成度などは個々人で色々感じるところはあるかもしれませんが、まずこんな舞台で、子どもたちがたった一人舞台に立ち、演奏したこと、それは称賛に値することだと思うのです。

私はピアノを大人から始めました。それは遅いスタートだったかもしれません。そして私のお稽古では発表会といったものはありません。発表会があれば練習のモチベーションにはなると思います。しかし大人になって、ゼロから初めて私にとっては、日常の子育てや家事など色々なことをしながらの中での練習なので、もし発表会があると、プレッシャーになりそうです。出たくないと思うかもしれません。もちろん発表会に出るにはお金もかかります。

そういう意味でも、私にとっては発表会というピアノ教室で公式のイベントがなかったのは幸いで、のんびり構えて自分のペースで練習ができるのです。大人から始めた私にとっては、特に生涯の趣味という側面も大きく、楽しみながらずっと続けていきたいと思っているのです。それに大人から始めたがゆえに、誰かと比較する場面に直面することもなく、自分のペースで楽しめるのかなと思います。

ですが、最近は大人の方がYOUTUBEなどで「ゼロから初めて〇〇年でここまでなりました」というような動画を上げていらっしゃる方も見かけます。私も興味があり何個か拝見しました。皆さん練習時間をもしっかり確保されていて練習に向かっています。すごいです!

時々一曲にすごく躓いている状態の時だと、そういうチャンネルを見ると、「私はまだまだ練習時間足りないかな・・」なんてネガティブに思うこともありますが、触発されることの方が多いです。私も色々したいこと、しなくてはならないことの中でピアノに継続的に時間を割り当てて練習していることが嬉しいですし、自分を少し褒めたい。

比較の中では幸せな感情は生まれにくいです。「比較するのは過去の自分だけ」と割り切れるようになったのも、大人学習者の利点かもしれません。

子どもだったら、どんな習得状況の子でも、例えば才能があってコンクールなど出るような子でも次から次へと更に上の人を感じずにはいられないかもしれません。もちろん周りの大人の心構えで、子どもがそんな気持ちにならないように気を付けなくてはと日々私も思っていますが。

でも、大人ゼロからだとピアニストになるとか、コンクールで優勝とか、周りにピアノ上手な人と見られるとか、そういうことを鼻から期待せずに、ただ弾けるようになりたいという情熱だけで動けます。それもまた幸せな学習者と言えるかもしれません。情熱だけでどこまで練習のモチベーションを維持できるかは課題ですが。

とはいえ私は駅や空港にあるピアノを見ると、「いつかはあの曲を弾いてみたい」と心にギラギラした野望を抱いてしまうのですが。実は実際に何度か演奏してみたこともあります。その時練習していた曲で、先生に合格をもらったばかりの曲です。初心者の曲です。

こういう場所で演奏している方は、やはりすごい人が多い!誰もが知るようなクラシックの名曲だったり、有名な曲でしかも演奏も簡単なアレンジものではない、誰もが「おお!」と耳を傾けてしまいそうな人も多いです。中には撮影している人もいます。YOUTUBEに上げるのでしょうか。こんな素晴らしい演奏を聴くと、自分の曲ではまだまだ人前で演奏できないなあなんて思ってしまうのです。

ですが以前演奏している人の中で、本当に小さな音で誰に聞かせようとしている訳でもなく小さくゆっくりと演奏している人がいました。その曲は私も子どもの頃見ていたドラマの主題歌でした。私の大好きな俳優の「金城武さん」が主演を務めたドラマで、私自身よく聞いていた曲でした。演奏していた女性は私よりお若く見えましたが、もしかしたら近い年代であり、そのドラマが大好きだったのかもしれません。私は勝手に親近感を覚え、その曲に聞き入っていました。

いつのまにか私は「人に見せられるくらいの曲ではないと・・」と、公共のピアノを弾くのをためらうようになってしまっていました。

自分の好きな曲をひっそりと演奏したいと思ったのです。小さな音でゆっくりとした演奏で。誰かに聞いてもらう為でもなく、自分のためにひっそりとその場所にあるピアノを弾く。もしかしたら、通りすがりの誰かがほんの少し耳を傾けてくれるかもしれない。それだけでいいのだと。

そんな場所が街のどこかにあるって、良い街だと思うのです。

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