kanako
わたしの生き方。
短いお話。 #ショートショート
日々溢れ出てきた思考や言葉、気持ちを綴ります。
見たもの・聞いたもの・読んだもの
ハム太郎の飼い主・ロコちゃんは、毎晩日記をつけてから、ハム太郎にこう話しかける。 今日はとっても楽しかったね、明日はもーっと楽しくなるよね、ハム太郎! 小さい頃に何気なく見ていたアニメの台詞には、大切なものが隠されていたようで。 私は定期的に、この台詞を真似して、自分に語りかけている。 --------- 中学生の頃、階段の窓から、校外の道を歩く大人の姿をよく眺めていた。 平日の昼間に、学校の外に居られるなんて、羨ましいなあ。 そう思いながら、階段で上履きを飛ば
不幸は安全。 永遠に続く幸せなんてないでしょう。 幸せを手に入れた瞬間、 それが消えてしまったらって思うと、 怖くてたまらないから、 自ら掴んだそれを、自ら手を開いて、 そのまま落としてしまうのです。 落としてしまえば、崩れて溶けて、 生卵みたいにさ、 元には戻らないって知ってるよ。 高い位置であればあるほど、 ぺシャリと潰れてしまうことも知ってる。 だから私は永遠に不幸でいたいの。 不幸の中では、不幸でいればいいんだもの。 プカプカと浮かぶ生卵は、落ちることを
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。 私たちはさまざまな感覚を持ち合わせていて、それを自由に用いることができる。 なんだか忙しない日々を過ごしていると、いかに多くの感覚を同時に使いこなせるか、なんてことばかり考えてしまう。 視覚を使ってパソコンを見つめながら、 聴覚を使って音楽を取り入れる。 聴覚でラジオを楽しみながら、 嗅覚を使ってお香を楽しむ。 それらの中には、ほとんど無意識のうちに触覚も含まれている。 同時並行で感覚を使えることは、確かに効率化をもたらしてくれる。
「この世界から、きみが望むものを何かひとつだけ、消してあげよう。」 もしも神様がいて、そんなことを言われたら、わたしは何を望むだろうか。 *** 気に食わないこと。 納得がいかないこと。 理不尽なこと。 苦手なこと。 恐ろしいこと。 生きていると、さまざまなものやひとに出会う。 その殆どは、わたしにとってはどうでもいいことで、好きも嫌いもなく、ただわたしの中から、静かに緩やかに消えていく。 無関心なものは、自ら消すことができる。 神様にお願いするまでもない。
どのように自分がその嘘をついていたのか、もう覚えていない。 私はすぐに泣く。 涙は簡単に流れるし、共感性が非常に高い部類だろうと感じる部分はとても多い。 しかし私は、嘘を貫いてきた。 私には、涙がないと。 ーー 何かを見て、感動すること。 それらを全て抑え込んでいたのは、心の奥底で、溢れ出すそれを恐れていたのだろう。 とは言っても、全てに感動するわけではない。当たり前だ。 たとえば、部活動で一年間のスローガンを掲げる、とか。 たとえば、みんなで一緒に頑張ろう
ある日視力が2.0まで回復してしまったら、 私はもう生きていられないかもしれない。 *** 目が悪いから、いつも眼鏡をかけている。 あるいはコンタクトをつけている。 視力は0.1あるかないか、それくらいだ。 眼鏡を外すと、視界は霞んで、うっすらと、ぼんやり、何がどこに行ったのか、手探りでしか物事は見えなくなる。 外の世界では困ることだらけだ。 信号は見えない。 看板も見えない。 待ち合わせで人を探すことができない。 景色を全体で見渡すこともできない。 スマホもパソコ
言わなければ、丸く収まる。 私に目を向けられることはない。 他人と話をしていると、「それは違うでしょう」と言いたくなる自分が頻繁に現れる。 別に相手を貶めたいわけではないし、マウントを取りたいわけでもない。 SNS上で知らない相手にぶつかることはない。 どちらが正しいとか、間違っているとか、そういう話がしたいわけでもない。 ただ、私はこう思う、と伝えたい。 あなたの意見と私の意見、ここが一致しないね。 親密な友人と議論をすることの一体何がいけないのだろう。 私には
彼女のキーケースには、いくつもの鍵がぶら下がっている。 一つ目は彼女が住む家の鍵で、二つ目は彼女の実家の鍵で、三つ目は彼女の自転車の鍵で、それ以降を、僕は知らない。 「君はなぜそんなに沢山、鍵を持っているの」 さりげないふりをした僕に、彼女は困ったような、笑ったような顔を見せる。 「使ってみるといいわ」 「どこで使えるのさ」 「教えてあげる」 --- 「これはね、幼い頃に、わたしと、わたしの両親が暮らした家の鍵。最初で最後だった、三人の家。 これはね、中学校
物心がついたのはいつだったか。 正確には分からないが、「私」がスタートしたのは幼稚園生の頃だった。 大人になった今でさえ、日々たくさんのことを経験しては忘れる。 古い記憶になればなるほど、忘れてしまったことも増えていく。 ところが、まだ小さかった私の身に、あの日起きたこと、言われたこと、言ったこと、感じたこと、いつまでも鮮明に残りつづけている「あの日」も、ある。 当時は言葉も知らないし、自分の気持ちを上手に表現することはできなかった。 まして、それらが一体どんな意味を持
人間は忘れる生き物だ。 たとえば昨日の夜ご飯はなにを食べたか。 今朝、起きて最初に笑ったのはなぜだったか。 近いはずのことでも、簡単に忘れる。 一方で、人間は忘れたいことほど忘れられない生き物だ。 見えていたものを失って、手元に残るのは見たくないものばかり。 見れば見るほど傷は抉られる。 要らないのに。消したいのに。見たくない。 消えない。消せない。 消えて。消えろ。消えてください。 一度負った傷は、幾度となく私たちを抉りつづける。 そして、醜い私を、まざまざと
「あなたのことが好きで、私、夜も眠れません。」 「あなたのことを考えて、胸が苦しくなるんです。あなたは今、どこで何をしているのかなって。あなたは今、誰といるのかなって。」 君が好きなのは、私ではないよ。 君は、君が大好きなんだね。 その、君が大好きな君を、輝かせる方法を、君だけの時をもって、見つけていけばいいじゃないか。 そこに僕は必要ないはずだ。 僕は、僕が大好きだ。 だから孤独で構わないんだ。 はっきりと言えば、僕にとって君は必要ない。要らない存在だ。 そ
私は、さまざまな成分でできている。 住所。名前。職業。 全部私だけれど、どれも私の全てではない。 私を形作るものはいくつもあって、ひとつひとつの要素と出会い、時間を重ね、共に経験をすることで、私が作られてきた。 何か一つでも違う成分が混ざっていたら、今の私は居ない。 勇気を出して手を挙げたあの瞬間も、挙げようとした手を引っ込めたあの瞬間も。 大切な人に出会ったあの日も、大切な人を失ったあの日も。 どこを切り取っても、今の私に繋がっている。 でも、私が知っている
夏は苦手だ。 暑さで汗が止まらない。 セミの鳴き声で耳が痛い。 蚊に刺されたら痒さで平静を保てない。 満員電車のねっとりとした空気は苦痛。 どこに出かけるのも億劫。 わたしは冬が大好きなのに。 なぜ今年もこんな暑さに晒されなければならんのだ。 四季は要らない。三季が良い。 でもわたし、夏と同じくらい、もしかしたらそれ以上に、夜が苦手だ。 夜には魔物がすんでいて、わたしがわたしでなくなってしまう。 知っているはずの物も人も、その様相を変える。 夜は苦しい。険しい。
分かる、とはなんだ。 だれかにじぶんの気持ちを伝えたときに、分かる、と言われると違和感を覚える。 「わたしの気持ちはだれにも分からない。 わたしでさえ分からないもの、他のひとに分かるものか。」 わたしは、わたしの心を神聖なものだと思いたくて、何処にあるのかすら分からないその心とやらを、自分の心を、だれにも見つけてほしくないのだ。 一方でわたしは、甚だしく情けないことに、だれかからの「分かる」を求める瞬間も持ち合わせている。 「なぜ分からない? こんなにも明らかで、正
涙は弱さの証だと思っていた。 -------------- 弱いから泣くんだ 弱いから我慢できないんだ 弱いから人に泣きつくんだ 私は絶対に泣かない。 -------------- 子どもの頃の私は、簡単に泣いてはいけないと思っていた。 悔し涙だけは我慢できなくて、何度か流したけれど。 嬉しい時。 悲しい時。 苦しい時。 誰かの前で泣いたことはほとんど記憶にない。 ------- 今の私は、弱い。 とても弱い。 たくさん泣く。すぐに泣く。 誰かの「悲しい
ずっと幸せになりたかった。 幸せが欲しかった。 幸せな人生を望んだ。 幸せそうに見られたいと願った。 幸せを望めば望むほど、私の元から幸せは遠ざかっていくようで。 「私は世界で一番の不幸者だ。」 無色無笑「悲劇のヒロイン気取られても。」 そんな言葉を投げられたのはいつだったか。 確かに私は悲劇のヒロインで、当時の状態を今振り返ってもさながら悲劇だったと思う。 なりたくてなったわけではなかった。 抜け出す方法が分からなかった。 自分を笑わせる術を失っていた。 全て