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無くてよかった選択肢

染色作家の甲斐凡子です。

私は、女子美術大学の工芸学科"織"専攻を卒業後、フォリアの常駐スタッフとして活動をして参りました。(実際には、大学4年の頃から弟子入りしておりましたが...)7年の修行後、工房内独立し、現在は作家として作品制作に勤しんでおります。

私が通っていた女子美ではカリキュラムの変更が色々あったようで、数年前から染の分野に友禅の授業もあるようです。卒業したのは約10年前ですから、色々変わるのは当然ですね。

正直に申し上げますと「自分が通っている時に友禅の授業がなくて良かったなぁ...」と思います。友禅の授業があったら、きっと私は染を専攻していたと思います。

当時のカリキュラムでは、染専攻では、絞り染・型染・シルクスクリーンが主な授業内容だったように思います(他にも細かくあったのかもしれませんが、如何せん外から見ていただけなので、詳細は分かりません)私は、もう少し布と直接関われると申しますか...筆を使った表現が好みでしたので、大学では織を専攻しました。

なぜ、私が「大学で友禅を学ぶという選択肢がなくて良かった」と感じるかと言うと、大学で中途半端に友禅の知識や経験を積んでいたら、プロの工房...フォリアに入った時に、その経験が邪魔になっていたからです。「邪魔になっていたかもしれない」ではなく、確実に邪魔になっていたと思います。

一度定着した癖は、かなりの努力をしなければ抜けません。大学で学ぶ事の全てが悪癖...というわけではありませんが、自負が生まれていたら...と考えると怖いです。「私は染めが出来る。友禅が出来る。」と思い込んだまま、プロの工房に入る...そうしますと「自分は何も知らない。何も出来ない。」という自覚を持つまでに時間が必要になってしまいます。自覚を持てずに終わることも少なくありません。そういう方々を、今まで沢山見てきました。

そんな無駄な時間を過ごすのであれば、初めから悪癖をつけない方が良いのです。しかし、学生の頃の私に、「自負や悪癖を持たないために、友禅を選択しない」という判断は難しかったと思います。やはり興味のある分野を選択してしまうでしょう。ですので、選択肢になくて良かったなぁ...と思うのでした。


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