なぜ西武ホールディングスは「回転型ビジネス」にシフトしたのか?
最近、西武ホールディングス(HD)が従来の長期保有型の不動産事業から、いわゆる「回転型ビジネス」へと方針転換したことが話題になっています。この転換は、資産効率を高め、成長力を強化する狙いがあるようです。
今回は、その背景に何があるのか、そしてなぜ西武HDがこの戦略を選んだのかを掘り下げてみたいと思います。
「回転型ビジネス」って何?
まず「回転型ビジネス」とは、保有する不動産を長期間維持するのではなく、一定のタイミングで売却し、得た資金を新しい不動産開発に再投資するビジネスモデルのことです。
これにより、資産を高回転させて資本効率を上げることを目指します。
要するに、含み益を早く現金化し、そのお金を次の成長に向けた投資に活用するという戦略です。
西武HDは、かつては「アセットライト」という、資産を売却することで軽量化を図る方針を掲げていましたが、これを「キャピタルリサイクル(資本の再利用)」という新しい表現に変えました。この変更には、「資産売却にとどまらず、資本を効率よく循環させて成長し続ける」という意志が込められています。
なぜ「回転型ビジネス」への転換が必要だったのか?
西武HDがこの方針を打ち出したのには、いくつかの理由があります。
1. 資本効率の低迷
まずは資本効率の問題です。新型コロナウイルスの影響で、自己資本利益率(ROE)は大きく低下しました。
たとえば、2024年3月期のROEは6.8%で、関東の他の鉄道会社(京急電鉄や京成電鉄など)と比べてもかなり低い水準です。
これに対し、西武HDは株主資本コストを7.2%と設定しており、それを下回る現状では企業価値が下がってしまっていることになります。
このため、ROEを高めるために不動産を売却し、効率よく資本を再投資して利益を上げる必要が出てきたのです。回転型ビジネスは、この資本効率を改善するための手段といえるでしょう。
2. コロナ禍による財務の悪化
次に、コロナ禍による財務状況の悪化です。
西武HDは、2022年3月期まで2年連続で営業赤字を計上しました。
この結果、銀行融資の条件に違反し、傘下企業が優先株を発行するなど、厳しい状況に直面しました。
財務制約は解消されたものの、EBITDA(利払い前利益)が依然として回復しきっておらず、これも資金調達のための物件売却が急務となった理由の一つです。
東京ガーデンテラス紀尾井町の売却と再投資
今回、話題になっているのが「東京ガーデンテラス紀尾井町」の売却です。西武HDの旗艦ビルであり、約1040億円を投じて2016年に開業しましたが、今では4000億円規模での売却が見込まれています。
この売却資金を、東京や神奈川の再開発に再投資する計画です。
これにより、成長を加速させ、不動産事業で大きな利益を生み出すシナリオが描かれています。
回転型ビジネスの成功は不確実だが…
一方で、専門家の間では慎重な見方もあります。たとえ4000億円で売却が成功しても、それが株主還元に大きく回る可能性は低いと言われています。
都心の再開発が本当に高いリターンを生むかどうかも未知数です。
また、西武HDの持つ不動産の多くは東京以外に位置しており、資産価値の面でも課題があります。
とはいえ、今回の回転型ビジネスへの転換は、西武HDが今後成長を続けるために必要な選択です。
厳しい環境の中で、どれだけ効率よく資本を運用できるかがカギとなるでしょう。
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