お願い上手

発達障害児(ASD/ADHD)次男は、お願いが下手だ。

素のスタンスでいると、自分の負の感情や困った出来事に飲み込まれてしまっているので、お願いどころの騒ぎではないのだと思う。

パニックになったり、大騒ぎをしたりする事は彼のような子どもにとって、藁をもすがるような一大事と言うこと。けれど、それを単なるクセにしてしまうか否かは、周りの対応にかかっている。

子どもだけではなく大人でも同じことが言えると思う。子どものようなパニックやかんしゃくではないにしろ、似たような事をする大人も大勢いる。発達障害かどうかもあまり関係が無いと私は常々思っている。

パニックや泣き叫びをやればやるほどに、人は居なくなる。そう。助けは来ない。周りに人が居ないのなら、大声で助けを求めなくてはならないだろうけれど、近くに人が居て、その中の誰かに助けを求めているパニックや泣き叫び、大騒ぎは逆効果だと教えなくてはならない。

それを教え始めたのは、彼がパニックやかんしゃくを起こすようになった４歳の頃からだ。あれから５年。彼は９歳になった。

今では、パニックもかんしゃくも、泣き叫びも大騒ぎも、ほとんどしない。それらをしても自分は助からないと分かったから。

自分を落ち着け、他の方法を考えたり
自分を落ち着け、誰かに助けを求めたり
自分を落ち着け、良い方法は無いかと聞いたり

そうして前進する事に時間を使うようになっていった。

前進する事に時間を使えたその時に、素晴らしい行動をしたのだと認められ、それでいいのだと背中を押されれば、確実に歩みを進められるようになる。結果は後からついてくるのだから結果など求めても仕方がない。それよりも、素の状態からは遠い事に向き合い、変えようとした事に意味がある。

早く早くと焦らせてはいけない。その時どれほど時間がかかっても、わずかな前進であったとしても、共にその前進を分かち合う余裕があるのか。人を育てる事に向き合えるのか。子育ては忍耐力を磨くと言われる意味がよくわかる。

パニックやかんしゃくはパワー勝負をしているに過ぎない。それを起こしてしまいやすい特性を持っていたとしても、スイッチを押さないでいる事はできるようになる。

パニックを起こして跳ね返ってくる強力な力や、大騒ぎをして音を立てて去っていく人々を見なくても済む。そして何よりも自分が本当に欲しかった支援にたどり着くことができ、自分の持ち味や得意を使ってお返しすることができるようになるのだ。

パニックのスイッチを
押さなくても良い状況をたくさん知っていて
押さなくても良い方法を分かっていて
押さなくても良い機会と経験を積んでいれば
パニックのスイッチを使うことは激減する

生き物はみな生き残るためにもっとも合理的だと判断した方を選択する。

かんしゃくをなだめてはいけない
パニックをかわいそう扱いしてはいけない
それらを楽な生き方だと教えている事になってしまう。行き着く先は共倒れ。未来は輝かない。

お願い上手になることはパニックやかんしゃくを使うよりも遥かに省エネ。

しかし、パニックを使わなくなることと、お願い上手かどうかは、また遠い距離にある。

そもそも、助けを求めるということは、誰かに何かをお願いすると言うこと。そのお願いする事に変なプライドを持ったり、恥ずかしく思ったり、自己嫌悪したりしていると、お願いする立場である事そのものを、悪いことだと思ってしまう。

SOSが出せなかったり
横柄な態度をとったり
何でも自分でやろうとしたり

上手く行かないスパイラルを自ら作り出してしまう。

失敗を責めたり
何事も結果を求められたり
SOSを出した事を辱めたり
そんな状況下では、助けを求める事もお願いする事も悪いことになってしまう。お願いする事が屈辱になってしまうと生きづらさは増すばかりだろう。

集団生活を送るようになると、失敗を責められる事が増える。失敗を責めることが後の未来を歪めている事に早く気が付いたほうがいい。

終わったことをとやかく言っても意味は無いし、心理的な負荷をかけたいと指導者が思うのであれば、相手に期待しすぎている。他人を思い通りにできると思ってはいけない。負荷をかけても、相手は指導者の思い通りになどならないのだから。

失敗から学ぶそれしか道はない。そう言って共に考え共に歩むより他ないのだから。

お願いすることはとても大切なこと
自分にとっても相手にとっても

上手く組み合わさる事ができれば人生は格段に楽になり、輝きを増し、幸せである実感を得られる。

お願いすることは、幸せに繋がっている事を長い時間をかけて教えていこう。最近なかなかいい感じだからね。お願いも以前よりずっと上手になった。誰かの役に立つ経験が、お願いする事へのハードルを下げてくれているのかもしれない。