はじめに
こんにちは、boltwatts です。今回は、沿ヴォルガ地域で民族・言語の違いを超えて歌われている「初恋の歌」をご紹介したいと思います(ちなみにカバー画像は、筆者がタタールスタン南部の世界遺産ボルガルで撮影したヴォルガ川です)。
その前にまず背景知識として、沿ヴォルガ地域について簡単に説明しておきましょう。ロシア中部のヴォルガ川中流域(沿ヴォルガ地域)には、ロシア人以外にテュルク系のタタール人、バシキール人、チュヴァシ人と、ウラル系のマリ人、ウドムルト人、モルドヴィン人が住んでおり、それぞれの言語が公用語となっている民族共和国があります。
系統は違えど、長年同じ地域で暮らしてきたため、彼らの言語や文化には様々な共通の特徴が見られます。例えば、「愛する」を意味する動詞の語幹は、モルドヴィン諸語以外はよく似た形をしています。
タタール語、バシキール語、ウドムルト語では jarat-(ヤラット)、チュヴァシ語では jurat-(ユラット)、マリ語では jörate-(ヨェラテ)となっています。言語の系統を超えて「愛する」という語彙が似ているのは、なんだか素敵ですね。
そして、似ているのは「愛する」という語彙だけではありません。なんと、ほとんど同じ旋律の「初恋の歌」が、それぞれの言語で歌われているのです。以下、タタール語、マリ語、チュヴァシ語の歌をご紹介します。
タタール語:Беренче мәхәббәт「初恋」
まずはタタール語です。動画は、タタールスタン国営放送で2009年に収録されたものです。
歌詞に出てくる「白ヴォルガ」とは、ウラル山脈に端を発するヴォルガ川の支流ベラヤ川のことです。タタールスタンのお隣バシコルトスタンを流れますが、あのあたりはバシキール人だけでなくタタール人も多く住んでいます。なお、バシキール語でも同じ歌がありますが、曲名も歌詞もタタール語とほぼ同じです。以下に動画だけ載せておきます。
マリ語:Икымше йӧратымаш「初恋」
マリ語は、曲名がタタール語と同じく「初恋」となっており、歌詞もよく似ています。
タタール語と比べると、言語は全く違うのに、歌詞の意味も旋律もほとんど同じなのは驚きですね。
チュヴァシ語:Вӑрмана кӗнӗ чух「森に入る時」
チュヴァシ語は、曲名も歌詞もタタール語やマリ語とは異なりますが、歌詞をみると、初恋の歌であることが分かります。なお、いくつかバージョンがあるのか、歌手によって歌詞がやや異なるのも特徴です。以下では、動画で歌われている歌詞を掲載しています。
タタール語やマリ語とは異なり、川ではなく森や木の実が登場しています。また、初恋への未練と別れの悲しさがより強く感じられる歌詞になっていますね。
おわりに
「愛する」という語彙が似ていることと、旋律がほとんど同じ「初恋の歌」があることは、沿ヴォルガ地域で様々な民族が長く一緒に暮らしてきた歴史を感じさせますね。どこが発祥なのかはよく分からないので、調べてみようと思います。