まず、開発・学習段階における制度設計では、EUが研究目的と一般目的で異なる権利制限を設けている点が特徴的である。DSM著作権指令の第3条では研究組織による学術研究目的のテキストマイニングを認め、第4条では一般目的での利用を許容している。この二段階の制度設計により、研究目的の場合は権利者のオプトアウトを認めないなど、より強い保護を与えている。
一方、英国では非商業的研究目的に限定した権利制限を設けており、より限定的なアプローチを取っている。対照的にシンガポールは目的を限定しない包括的な権利制限規定を導入し、営利・非営利を問わずコンピュータ情報解析を認めている。米国ではフェアユース規定によりケースバイケースでの判断となるが、Google Books訴訟では検索目的でのデータベース化がフェアユースと認められるなど、技術革新に柔軟に対応している。
生成・利用段階では、AI生成物の著作物性について各国で異なるアプローチが見られる。英国は「必要な手筈を整えた者」にコンピュータ生成物の著作権を認める独自の制度を持つ。一方、米国では人間の創造性を要件とし、AI生成物の著作権登録を認めていない。他の国々も基本的に人間の創造性を要件としており、AI生成物の保護には慎重な姿勢を示している。
透明性確保の面では、中国が「インターネット情報サービスディープラーニングによる合成管理規定」でAI生成物へのマーク付与を義務付けるなど、具体的な制度を整備している。EUもAI規則で同様の透明性要件を導入する予定である。
これらの制度設計から、AIの開発・利用促進と権利者保護のバランスをとることの重要性が浮かび上がる。特に、学習データの取り扱いに関する権利制限の範囲設定や、AI生成物の透明性確保は、今後の重要な検討課題となっている。各国の異なるアプローチは、制度設計における選択肢を広げると同時に、国際的な調和の必要性も示唆している。