まず、トイレを流すと、水は約8秒間で便器から姿を消す。この水は直径10センチほどの排水管を通り、建物の外壁に沿って設置された太さ15センチの縦樋へと合流する。この縦樋を下る水の音は、静かな夜には耳をすませば聞こえる程度の、およそ30デシベルほどの音量だ。
浴室の観察に移る。浴槽の排水口は直径7センチほど。500リットルの水が抜けるのに約3分かかる計算になる。この水も専用の配管を通り、先ほどの縦樋に合流する。排水時には空気を巻き込む特徴的な音が発生し、約45デシベルを記録する。
キッチンシンクの下を覗くと、直径4センチほどの排水管が蛇のようにカーブを描いている。このS字の部分は「トラップ」と呼ばれ、常に水が溜まった状態を保つことで、下水からの臭気を防いでいる。水はここを通過するのに約2秒を要する。
これら3つの排水管は、家の外で1本の太い管、直径20センチほどの本管に集められる。本管は約2度の傾斜を保ちながら、道路の下に埋設された公共下水道へとつながっている。実際に、マンホールの蓋を観察すると、約30メートルごとに設置されており、これが下水道の点検口となっている。
下水道に入った水は、地下2メートルから5メートルの深さを、時速約3キロメートルで流れていく。都市部では、1キロメートルほど進むと下水処理場に到達する。処理場では、まず直径20メートルほどの沈殿池で、水は約2時間かけて浄化される。
興味深いのは、これらの水の行方が季節によって変化することだ。雨の多い時期は、下水道の水量が通常の3倍ほどに増加する。逆に、渇水期には流れが遅くなり、所要時間が2割ほど長くなる。
一般家庭の1日の排水量を計測してみると、トイレからが約200リットル、お風呂からが300リットル、キッチンからが150リットルほど。つまり、1日に650リットル程度の水が、この複雑な配管システムを通って流れていっているのだ。
水は最終的に川や海に戻っていくが、その過程で約95%の汚れが除去される。処理された水は、透明度が80%以上まで回復し、新たな水循環の一部となっていく。
私たちの日常生活を支える水の流れが、重力と緻密な計算によって設計された配管システムによって、絶え間なく維持されていることがわかる。目に見えない部分で、毎日数百リットルの水が、決められた経路を通って流れ続けているのだ。