スポーツ選手の疲労度合いを観察すると、競技による差異が顕著に表れる。マラソンランナーは2時間以上走り続けられるのに対し、格闘技選手は5分の激闘で極度の疲労を示す。テニスの試合では2時間程度でも選手は激しい疲労を見せ、特にラリーが続いた直後は呼吸が荒くなり、体勢を立て直すまでに約20秒を要する。一方、事務作業では身体的な運動量は少ないにもかかわらず、多くの人が1時間程度で疲労感を訴える。
運動強度と持続時間の関係を観察すると、以下のようなパターンが見えてきた。マラソンでは心拍数は最大心拍数の約75%程度で安定している。一方、格闘技では心拍数が最大心拍数の95%以上に達する場面が1分間に数回発生する。テニスでは心拍数が60%から90%の間を頻繁に上下し、その変動が1分間に数回起こる。
事務作業では心拍数は安静時の約10%増程度だが、脳の活動に関連する指標として、集中を要する判断が1分間に数十回発生している。この判断の頻度は、休憩を取らない場合、2時間後には急激に低下する。
人間の疲労は、主に3つの要因で説明できる。第一に運動強度、第二に強度の変動、第三に判断の頻度である。マラソンが長時間続けられる理由は、一定の運動強度を維持し、判断の頻度が少ないためだ。ペース配分の微調整以外、高度な判断を必要としない。
一方、格闘技やテニスでは、状況判断が数秒ごとに必要で、それに応じて運動強度も激しく変動する。この「判断を伴う急激な強度変化」が、強い疲労の原因となる。脳は瞬時の判断のために大量のエネルギーを消費し、その結果として全身の疲労が急速に蓄積される。
この知見を仕事に応用すると、以下のような実践的示唆が得られる。会議や企画立案など、判断の頻度が高い業務は、約30分で小休憩を入れることで、パフォーマンスの低下を抑制できる。逆に、データ入力のような定型業務は、90分程度の継続作業が可能だ。
疲労の本質は、判断の頻度と強度の変動にある。マラソンのような一定ペースの運動は、判断の頻度が少ないため長時間継続できる。