『チャレンジャーズ』『アンナチュラル』など(ネタバレあり)240909-0922
ルカ・グァダニーノ『チャレンジャーズ』(2024)
テニス好きの私が観ても楽しめた、今年ベスト級の一本。
「ATPチャレンジャー」を題材にする……というのが渋い。しかし奇をてらっているわけではなく、素材の使い方が巧い。
プロテニス界では底辺のパトリックと、四大大会戴冠経験がありケガ明けのアート、この親友同士の対決の場としてチャレンジャーという規模はあまりにもしっくりくる。
高揚感のある不思議なラスト。解釈とかどうでもいい、すべてに矢印が向き合っている三角関係を描いた、斬新な一作だった。
トッド・ストラウス=シュルソン『ロマンティックじゃない?』(2019)
ラスト10分まではなんともな出来だが、結婚式を止めに入るが結局……のくだりから、がぜん面白くなる。とはいえ前半はもっとロマコメを揶揄してもいい気がした。でないと後半のロマコメ賛歌が効いてこない。
フランシス・ローレンス『コンスタンティン』
続編の噂があるため再鑑賞。
「役者がかっこいいだけの映画」とはあまり言いたくないが、
キアヌ・リーヴスのかっこよさが天元突破している作品ではある。
+中二病ガジェットで魅せてくる。
マーティン・スコセッシ『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』(2023)
真綿で首を締めつけてくる、御大衰え知らずの一作。
本当の巨悪(デニーロ演じるビル・ヘイル)は存在するが、そうでない一般人でも簡単に悪に染まってしまうということ。
オセージ族や原住民を物語の中心に据え、キャスティングし、映画製作のあり方をアップデートをした上で、こんなに面白い作品を作れるぞという希望の作品でもある。
ロバート・ゼメキス『フォレスト・ガンプ』
今見ると知的障害者を聖人に扱いすぎているところはもちろん気になる。
テレビドラマ『アンナチュラル』(2018)
めちゃくちゃ面白かった。死体から真相を解明するといえば、昔のアメリカテレビドラマ『BONES -骨は語る-』を一時期ハマってよく観ていたが(作中でも一瞬言及される)、それを遥かに上回るクオリティだった。
◎1話「名前のない毒」
無駄をそぎ落とした名脚本。全話観て「こんなに面白いドラマだったの!?」という衝撃度は1話が最も高い。
主人公を超優秀法医解剖医にして、それを上回る天才的法医解剖医を配置する。井浦新演じる中堂のキャラクターがあまりに良くて目立つが、それに対する石原さとみ演じる三澄ミコトの拮抗感もいい。新人の育成モノになりそうなところを避け、強者バディの存在が作中で描かれる法医学に信頼感を与えている。また中堂がミコトに与えるヒントもさりげなく自然でよい。
途中で明かされる死の原因がMERS(Middle East Respiratory Syndrome)コロナウイルスで、その大風呂敷の広げ方にワクワクする。さらに誰が誰に感染させたのか、二転三転するドラマも見ごたえがあった。
松重豊演じる神倉は、自身が所長を務める研究所UDIと、MERSを隠蔽する大病院とが取引関係にあり、ここは普通のドラマなら松倉が心底悩み、どうすればUDIに火の粉がかからないか考え行動するーーーはずだが、神倉はあっさりと大病院を切り捨てる。この展開、あまり見たことがないし、神倉のUDIにかける信念が自然と表現されていてすごぃ。
1話から最終話まで、死因を追求+中堂やミコトの過去
という二軸で物語進む。普通、本筋にあたる前者がいまいち、キャラクター勝負の後者で盛り上げる(盛り返す)というのが定番だが、本作は本筋の事件解決がべらぼうに面白く、さらに登場人物の過去と事件や死体の深層が少しずつリンクしている感があり、脚本がすばらしすぎて狼狽えた。
◎2話「死にたがりの手紙」
池の中に沈む車内で、ミコトが池の水質を調査し、成分を伝えられた中堂がそこから池の場所を特定するという、ケレン味溢れる展開もできちゃうのかよーーという衝撃。
◎3話「予定外の証人」
このドラマはたびたび倫理と感情の狭間で揺れていて、そこが魅力的。
中堂は違法な解剖しているしパワハラしているし、ミコトは警察がすべき捜査をしてしまう。そのどれもがリアリティラインぎりぎりに設定されている。
吹越満演じる検事がまぁうまく、最終話に出てきて嬉しかった。
中堂「まあまあそう感情的になるな」「人なんてどいつもこいつも切り開いて皮を剥げばただの肉のかたまりだ。死ねばわかる」
法医学的見地が、女性蔑視に対する痛烈なカウンターに繋がっている。こんなセリフ、どうやったら思いつくのか。
ミコトが直接仕返ししない展開もよく練られている。
◎4話「誰がために働く」
米津玄師「lemon」が流れる終盤からの見せかたが素晴らしい…。
坪倉由幸演じる佐野はなぜ亡くなったのか。その原因となる一夜を描くが、家族が見る花火と、佐野が見る花火の対比に泣かされた。
◎5話「死の報復」
ちょっと野木さん、脚本うますぎません?
泉澤祐希演じる鈴木は、最終的に復讐をほぼ果たす。城戸愛莉演じるまゆの腹を刺す。普通ならまず絶対刺さない。刺す前に物語上止める。出ないと取り返しがつかないから。でも刺す。
しかし腹部を刺した後、まゆのセリフを聞いた鈴木は、さらに追い打ちをかけようとする。
ここは絶対に、その場にいるミコトか窪田正孝演じる久保が止める。しかし止められない。そう、リアリティを尊重するなら、包丁で人を刺し殺しているその場を見ている人間は、一歩も動けないはずなのだ。足がすくむはずだ。
そして鈴木は、まゆの背中を包丁で一刺しする。致命傷を与える一撃を。
止めない。刺す。
中堂が犯した罪を決定的なものにした瞬間。
この後戻りのできない展開、そしてミコトが復讐を誘導した中堂のことを「許して」しまう経緯がこれもまたリアリティラインぎりぎりなのだ。
◎6話「友達じゃない」
うますぎる…。4話、5話と米津玄師の「lemon」が流れると濃密な人間ドラマが披露され泣かさせてきた。このパターンが続くのかな?泣けるけど安易だなと思っていた矢先の6話。
友達か、同僚か。
「友達じゃありません」
「ただの同僚です」
そこでlemonが流れ出す。
泣ける。。事件の真相とかでないのに、ライトな展開なのに、胸が熱くなる。
◎7話「殺人遊戯」
一面的な描写になっていない。
動画配信者にいじめられっ子が殺された→実は動画配信者は殺していない
いじめっ子男子3人が殺した→実はいじめられっ子の自殺
女子学級委員が助けようとした→実は白井が助けを求めても無視した
動画配信者はミコトとの勝負に勝ったらもう一人殺すと宣言していた→実は自分を殺そうとしていた
暴力に頼らないいじめっ子の断罪の仕方が秀逸。
いじめをスルーしてきたクラスメイト、ひいては学校側まで射程に捉えている。
「許されるように生きろ」という東堂のセリフは、東堂が変わってきているようでもあり、自分に向けなくてはならないセリフでもあり、その多面性に痺れた。
◎8話「遥かなる我が家」
8話から10話まで大きくつながっている。それを8話の時点で露骨に出さない感じが巧い。
10人の焼死体、久部の父との確執、ミコトのホーム、ゴミ屋敷の主人と、題材が多い。その分、事件自体は全編通して普通に感じられ、物足りなくもあった。
しかし各キャラクターに深みを与えており、それが9話以降に繋がっている。
◎9話「敵の姿」
そもそもホルマリン投与という真相がわかりやすくて面白い。。
真犯人が前話と繋がっていたこと、真犯人と北村有起哉演じるフリージャーナリストの宍戸が何らかの形でつながっていること、そして真犯人があっさりと自首したことーー。どれも予想外!
AからZまでコンプリートしたからと言って自首しなければ勝ち確じゃない?その後の母親との確執も自首には繋がって無くない?(ただのサイコパス感)と若干のご都合主義は感じた。もちろん犯人には自己顕示欲があり……なのはわかるが、その割に減刑を求めているが間違いなく有罪判決は出るわけで、そのあたりは気になったが、そんなことはどうでもよくて、とにかく展開が面白い。。
◎10話「旅の終わり」
東堂は直接復讐せずいいんかいっっ!!とツッコミをいれたくなるが、そんなことはお見通して、きちんと宍戸にはやり返す。しかもここで東堂は宍戸にサプライズを仕掛ける。
元恋人が土葬されていたというのは驚愕、そこから現代の技術で解剖してDNA採取というのは良く考えられているなと思った。
中堂と元恋人の仲の真相をそこまで描かなかったのも良い。宍戸が言っていること、義父が言っていること、そのどれもがある意味真相なのではないかと思えてくる(もちろん二匹のカバの旅立ちによりポジティブにもっていく)。
大団円のラストも鮮やか!
服部小雪『はっとりさんちの野性な毎日』
思わぬ掘り出し物。夫を冒険家に持つ妻の日常エッセイ。日常と自然が極度に近く、現代人が忘れている…なんていうのかな、おおらかさ?を感じさせた。
特に子育てについては参考になる描写が多々ありメモした。
子供たちには、魂の輝く時間が必ずやってくる。無理し押しつけるなーー。
桜井のりお『僕の心のヤバイやつ』1-10巻
三周目。
相手を大切に想うことで、自分を大事にできる。
全編通してそれを伝えている漫画だと思った。
数多ある日常系とは異なり、日常風ではあるが着実に物語は進展はしている。これを読むと『アオのハコ』の引き延ばし感たるや。