『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』藤野千夜『団地のふたり』など(ネタバレあり)241021-1027
阪元裕吾『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』(2024)
面白かった。シリーズ最高傑作です。
白眉は二か所。
序盤の宮崎県庁内でのまひろ(伊澤彩織)vs冬村かえで(池松壮亮)のアクションシーン。高低差のある階段や長廊下の奥行きを使い、素早くポジションを切り替えながら観客に飽きさせることなく見せる。
もう一か所は、駐車場での刺客との闘い。欲を言えばあの刺客と主人公サイド4人が戦っている最中に冬村が来たらさらにワクワクしたのに。
(ここの池松壮亮の現場作業服姿が洋画ぽくてめちゃいかしてる)
のちに冬村とファームが手を組んでいたことがわかるから仕方ないんだけど、強者の三つ巴は見たかったなぁ。
今回はまひろとちさと(高石あかり)のゆるふわ会話すべてがハマっていて、滑っている箇所が一つもなかった。脚本凄い。
ただ最後の一騎打ちは、広い空間で長尺ということもありちょっとアクションの新味に欠けた気も(広い空間だと壁や天井などに頼れない分)。アクション映画あるあるです。
藤野千夜『団地のふたり』
滋味深い。。
こんなにスルスル読めた小説はいつぶり?
一文の短さ、改行の多さ、章立ての細かさ、そして統制きいた全体の文量。
ボリュームは少ないのに満足度は高いという、才能あるベテラン作家の妙。
団地に暮らす50台女性が不用品を売って生計を立てるという設定に魅力がある。出てくる食べ物のおいしそうなことはもちろん。
エレベーターすらない昭和の象徴である団地が現代のユートピアみたいに見えてくるのが面白い。社会的背景も織り込んでいる。
福田星良『ホテル・メッツァペウラへようこそ』1‐2巻
フィンランドの厳しい自然と対照的に、行き場のない謎の刺繍男・ジュンを迎え入れるホテルの老紳士たちの優しさが際立つ。
BL要素を絶妙の塩梅で留めているのが、この作品にとっては好印象。
しげの秀一『MFゴースト』1巻
『頭文字D』の後継作があるとは知らなかった。
このシリーズは恐らく漫画よりもアニメで見たほうが臨場感が伝わっていい。
2017年の作品ということもあり仕方ないが、17歳の女子高生・西園寺恋の描き方がノイズに。
近藤聡乃『一年前の猫』
値段相応の価値がある。
カバーは無いが、文庫サイズの表紙に金の箔押しあり。巻末には蛇腹折りの別丁扉が付いている。
何より収録されたカラーイラストがいい、しかもトレーシングペーパーのような紙に印刷されていて本文と差別化されている。
猫との距離感が絶妙で、近藤さんならではの猫エッセイを味わえる。
石井光太『本を書く技術 取材・構成・表現』
著者の執筆における思考が覗ける面白さはもちろんあるのだが、それ以上に古今東西のノンフィクションを例に挙げて技術論を展開しているのがめちゃ面白い。
対象書籍をいかに解剖するかが肝だけど、その手腕の確かさを感じる。ノンフィクション本のブックガイドとしても秀逸な一冊。
章立てを細かく分けるとか、登場人物に語らせるとか、参考になる技法多々あり。
野原広子『さいごの恋』
黒野原を期待しているとちょっと残念だし、白野原を期待しているとこのラストに涙すると思う。
主人公の西村清美を若干「嫌な人」として描くところが、著者のことを信頼できる所以。
展開が読めてしまう分、中盤までのどす黒さが持続したらいいのになぁと思ったけど、野原作品にはこれまでにない主人公造詣で楽しめた。
TBSテレビ 日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』第1話
端島の半分がCG、半分がセットに見えた。とてつもないリアリティで、日曜劇場の中でも最大級にお金を使っているのではないかと思う(『VIVANT』除く)。
Netflixなど外資配信サービスに対抗する気概を感じた。
脚本も面白い…。
2018年視点の宮本信子が、1955年視点の誰なのか(土屋太鳳、杉咲花、池田エライザ)わからなくしている。何とアクロバットな……。
炭鉱を掘り下げて描く面白さ(海より深く、1時間以上かけて潜り、飯は腐る)、なぜ軍艦島は廃れたのか?結末がわかっているがゆえの歴史もの特有の寂しさもいい。2018年時点で端島の生き残りは宮本信子一人と明言されるラストがまた…うまい…。
あまりに豪華なキャストが織りなす演技合戦がまた素晴らしい。
特に斎藤工と杉咲花は、本当に存在したとしか思えないクオリティ。
2018年視点が今後盛り上がるのか心配になるが、野木さんのことだからこちらの想像を遥に超える展開に期待。