経験した武道、武術について9
皆様、新年明けましておめでとうございます。
本年も駄文乱発致しますが、どうか寛大なお心でお許し頂けると幸いです。
前回は六合八法拳について述べた。
最後に別の流派が気になっており、そちらも学びたくなっていたと書いたが、今回はその別の流派の話である。
六合八法拳で、意拳の站樁を学んだが、意拳は王向斉老師という形意拳を修めた達人が後に各地の拳法家と交流したり、比武、すなわち試合を行い、また学び、研究して無駄を省き、エッセンスを抽出した武術だと認識している。
優れた武術のため、現在も様々な武術、格闘技に影響を与えたのだが、意拳成立の過程で実に気になる話があった。
それは王向斉老師より強かった武術家がおり、試合の結果、王向斉老師はその武術を学んだというのだ。
また、同系の別流派の達人も王向斉老師に実力を認めさせたという。
詳しくはこちらのページを参照願う。
↓
その両名の武術の名は鶴拳である。
鶴拳の鶴はあの鳥類の鶴だ。
中国武術には動物を模した象形拳がある。
蛇、虎、鷹、熊、龍・・・etc
あの形意拳も基本の五行拳の後に十二形拳という動物を模した拳を学ぶが、象形拳は中国武術ではポピュラーなものだ。
強そうな動物を模した武術はたくさんあるが、鶴は強そうに感じない動物(鳥類)だと感じる。
しかし、達人の王向斉老師が認める武術がその鶴を模した武術。
イメージが出来ないため、早速調べてみた。
鶴拳については、様々な方がかなり詳細を書かれているが、説明としてはこちらのWikipedia を見ていただきたい。
鶴拳のイメージとして、優雅な鶴の動きを想像させられたが、YouTubeなど見ると全く違う。
かなり荒々しい強烈な武術だ。
広東省、福建省など長江を境に南部の武術は上半身を良く使い、下半身は安定させて力感ある打撃を放つ武術が多いが、鶴拳はまさにそのようなイメージ通りと言って良いだろう。
ただ、力強いだけなら興味はなかったが、鶴拳の特徴は内功、すなわち気功重視である。
創始者が女性ということもあり、力任せでなく、発力、すなわち発勁を使用し、気功で威力を高める。
さらに殺傷力高めるために鉄沙掌といった手の武器化の鍛練や果ては毒手拳まであったとも聞いている。
さすがに毒手拳は現実味がないから嘘であろう。
内功重視のため、中国や台湾の太極拳学習者が推手の力を高めるために白鶴拳を学ぶこともあるそうで、日本に伝わる白鶴拳の内、太極拳を学んだ後に白鶴拳を学ぶ流派もあるそうだ。
上記の話と、独特の身法の地根力、白鶴震身などもミステリアスで興味深く、陰陽、三才や五行、そして八誌(八卦)などの理論も内家拳に共通なところもあり、興味がわいた。
これは体験したいと思った。
ちょうどこの時、六合八法拳を止めたのだ。
ただ、前の形意拳の回と同じく、レアな武術過ぎてなかなか学べる場所がないのだ。
ネットや書物等調べ、幾つか道場はあったが、通うには遠すぎたり、時間的に難しかったりと都合の良い場所がなかなか見つからなかった。
そんな中、武術の知人からの情報で、何人かが中国武術の練習を都会に近い場所の公園で鶴拳の練習しているという情報が入った。
その友人は前の太極拳の関係なのだが、どうやら私が別の友人に鶴拳の話をしたのを聞いて連絡してきたようだ。
そこはネットや書物には出てこない場所だから、まだ知らない武術の一団になる。
正直、中国武術の種類は沢山あり、別の武術や南拳の別流派の可能性もあるため、鶴拳発見の連絡があってもすぐに喜べる訳ではなかった。
しかし、協力の気持ちはありがたく、情報をくれたことに素直に感謝した。
そして、まずは実際に見て、話を聞かないと分からないこともあり、直接何の武術か、休みの日に確認のため見に行くことにした。
(休みの日に練習してるのは幸運であった。)
その情報の公園に行くと、練習をしている一団がいた。
見る限り、鶴拳らしき動きをしている人と、詠春拳らしき動きをしている人がいた。
指導をされている先生らしき人がおり、しばらく見ていたら、休憩をとり始めたので声をかけに行った。
挨拶をし、名乗った後に話を伺うと、どうやらビンゴで、この一団は白鶴拳の内の鳴鶴拳と、詠春拳を練習しているようだった。
この時はその友人に本当に感謝した。
(後日、お礼に食事に誘おうと思ったが、時間が合わず、結局そのまま会ってないままだ。)
そのまま見学し、質問したりとその先生に話を伺ったが、納得できる回答を得られたため、帰りに入門書を頂き、帰宅した。
毎週練習を行っていたので、色々考えた後に、見学の翌週に入門書に記入の上、練習場所に伺った。
先生にお会いし、入門書を提出した。
ついに白鶴拳を学べることになった。
これも武縁というものであろう。
さて、白鶴拳のうち、鳴鶴拳だが、五行手や歩法などは他の鶴拳とだいたい似ている。
違いは呼吸である。
空手の剛柔流にもあるが、動作に呼吸を合わせる。
その際の呼吸は漫画にある空手家のように「コォ~~…」「コッ!!」「ヒュ~~…」などの息吹だ。
吸う時は手を身体に近づけ、吐く時は手を身体から離す。
この呼吸も段階が変われば、鋭い動作には鋭い呼吸を合わせ、呼吸により身体の堅さをあげたりと使い方が変わる。
五行手の練習や套路の練習時はこの呼吸を意識しながらやるため、かなり疲れるが、気功も兼ねるため、内臓含め身体を痛めるというのは少ないだろう。
余談だが、鉄沙掌など鍛練は、下手をすると内臓や身体を痛めてしまうこともあるため、そういう練習の時は気功以外に漢方薬なども使用することもあるそうだ。
ちなみに五行手は定位置、移動とあるが、白鶴拳の練習は両手を同時に出す打ち方なのだ。
これもかなり変わっている。
空手にも諸手突きがあったり、上地流のような白鶴拳に似た打ち方をするのもあるが、基本練習がすべて諸手であるのは興味深い。
練習では他に推手や散手、散打も行う。
これも白鶴拳のカリキュラムでそれぞれに学習の段階がある。
推手は太極拳のような単推手から双推手、そして五行手を使用した推手に変わる。
散手も単純な攻防から、数手の攻防の練習も行う。
散打は要は自由組手のことだが、素手、グローブ、防具付など色々な散打を行った。
この白鶴拳は実戦に強いと言われるだけあって、強くなるためのカリキュラムがふんだんにある。
また、套路は多くないが、実力を深めていく段階練習が揃っており、意拳の王向斉老師が鶴拳を学んだ際にこういうカリキュラムも参考にしたのではないだろうか。
白鶴拳の練習は約2年ほど続く。
白鶴拳はシンプルなスタイルながら、様々な練習方法があり、使えるようにしていけるのが大きな魅力と言っても良いだろう。
この白鶴拳の練習の仕方や考え方は今も色々役立っている。
止めた理由だが、これは家の事情による。
両親が高齢となり、妹は嫁ぎ、何かあった時、親族も高齢者が多いため、若い私が対応できるようにしないといけなくなったのだ。
すぐに対応しなければならない訳ではないが、仕事は異動による転勤もゼロではないため、地元に転職出来る年齢のうちに実家に戻らないと、この先色々大変になると考えたからだ。
今はまだ両親は壮健だが、今の自身の状況を考えると、この時の選択は間違っていなかったと思う。
地元に白鶴拳の道場はないが、もし白鶴拳の道場があったなら続けていただろう。
地元に戻ってからも、五行手や套路は続けていたが、白鶴拳の練習は内容やペースなど合っていたように思う。
さて、2025年になり、もうこの話は終わるかと思いきや、後わずかだが続く。
マニアックな武術を学んできた私だが、この先に学ぶものは、さらに想定外の方向になるのだ。
→10に続く。
※タイトルに使用した鶴の写真:iStock.com/plusphoto