![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/151935275/rectangle_large_type_2_535084bfa03ceff3c4474745695cdf9f.png?width=1200)
四月の瞳 (前編)
その瞳に
吸い込まれたのは、
桜の季節で4月・・・
そう・・20日を過ぎた、
今にも、雨が降りそうな
くもり空の日でした・・・
その日、自宅からは、
結構、距離のある、
大きなショッピングモールで、
あるイベントが、開かれるので、
珍しく出かけました。
前に少し書いたのですが、
ヘルニアなものですから、
背中と腰が悪く、
前よりは、良くなってきてますが、
坐骨神経痛でもありまして、
あまり長い時間座れなかったりで、
悪くなってから、
あまりこういう所は、
遠慮してたのですが、
どれくらいまで持つか
わからんけど、
行ってみるか・・・
みたいな感じで、
車を飛ばしました。
午後3:00から、
という事でした。
屋根のない駐車場に、
早めに到着して、
中へと入りました。
好きな席に座っていいと
言う事でしたので、
左が通路の席を選び
すぐ離席できるように、
と思いまして、座りました。
(中年男性の悲哀。
トイレにすぐに行けるように・・)
座った頃には、
空席も目立ちましたが、
始まる頃には、だいたい埋まっていました。
私の隣にも、どなたかが座り、
さあ、いよいよ開始です。
会場は、盛り上がる中、
イベントは、進行していきます。
少し経つと、隣の方が、
突然、話かけてきました。
周囲に誰がいるとか、
気にしない方なので、
となりに誰か座ったくらいで、
目もくれなかったものですから、
呼ばれて右側を向くと・・・
「!?」
何とそこには、
若くてキレイな
お嬢さんが、
いるではありませんか!
透き通るような瞳で、
私を見つめています。
私の頭の中には、
小田和正の
「ラブ・ストーリーは突然に」
が、流れました。
私はこの日・・・
「遅れてきた
トレンディドラマの
主人公になったのであります。」
トレンディドラマって、世代じゃない方は、
わからないと思いますので、少し解説。
時代は、バブル経済の頃。
80年代後半~90年代にかけて
若者の間で、大流行したTVドラマ。
都会のおしゃれな男女の、
恋愛、仕事、友情。
ファッションもね。
若者がみんな、憧れたわけです。
先ほど、私の頭の中で、
流れた曲は、
『東京ラブストーリー』という
トレンディドラマの主題歌で、
当時大ヒットしました。
さて、話を戻しますよw
彼女「いいですよねえ。」
その透き通るような瞳で、
じっと私を見ながら
目の前で繰り広げられてる
イベントの事を、言ってるようでした。
私「そ・・そうですよね。」
”こっち”のイベントが開催
されてしまった私は、
しどろもどろでやっと答えた。
彼女は、顔をそらさない。
私も、向いた顔を戻せない。
長い事、こんな若くてキレイな、
いや、女性にといっても過言ではない、
見つめられたのは、初めて。
私は、”顔が怖い”、
コワモテって、いうやつです。
女性には、深い中になれば別ですが、
顔をそらされる事が多いので、
こんな風に、しかも初対面で
見つめられてしまうと・・・。
彼女「楽しいですよね。」
ボーッと、してきたので、
私は、うなずくだけしか
できませんでした。
まだ、彼女は顔を戻さない。
私も、まだ戻せない。
”吸い込まれるような瞳”
この表現が、読者に伝わるか
わからないのですが、
こういう瞳を持つ女性が
世の中には、いるんです。
見つめられてるだけで、
なんか魂ごと持ってかれちゃう
というか、自分ごと全部、
吸い込まれちゃうような。
(怖い意味じゃないですよ。)
これは、感覚なのでねえ。
みなさまに、伝わるかどうか。
若い頃、お付き合いした人で、
そういう人がいましてねえ。
この彼女にも、似た感じを受けました。
でも、若い頃にお付き合いしてた彼女とは違う、
何か”懐かしい”感じもしましたが、
決して、”昔の彼女に似ている”とか
そういうのでは、ないです。
この間、何度か見つめられたまま、
何か話かけられてたのですが、
ボーっとしてしまって、
反射的に、何か答えた覚えしか
ありません・・・。
(ヤバイなあ・・・・)
見つめられて、話しかけられながら、
私の心のベクトルが、
彼女に向いて行ってるなって
自分でも、わかりました。
彼女「そう思いますよね?」
私「も・・もちろん
そう思いますよ!」
何を聞かれたか、
わからないけど、
同じように答える私。
まだ私の方を向いて、
話を続ける彼女、
私は、首も悪いので、
痛くなってきたから、
体ごと、彼女の方を向いた。
(ヤバイなあ・・・
ヤバイなあ・・・・
好きになっちゃうなあ・・・)
40年以上”自分”と付き合っております。
女の人を好きになってしまう時の自分。
もちろん、そういう”瞬間”も、
分かっています・・・。
彼女「好きなんですよねぇ~。」
私「私も好きです!(あなたが・・)」
(あなたが・・・)って、
かぎかっこで、囲ってありますが・・・
彼女が「はい?」
ってすぐ言ったの覚えてるので、
もしかしたら、口に出して
いってたのかもと思うと・・・。
ボーってなってて、もうねえw
何が好きなのか、分からないで、
反射的に、また言ってたけど、
どうやらイベントの事らしくて、
私の事じゃなかったみたいで・・
(当たり前かしら?)
彼女が、すっと正面を向きました。
私も、やっと体勢を戻せました。
正面を向いても、向こうのイベントは、
もう頭に入ってきません・・・
胸の鼓動は、高まるばかりでございます。
(動悸では、ございません。)
坂本猫馬
48歳 独身
初めて会った、
この女性に、
”フォーリンラブ”しました!
春の終わりに・・・
”人生の春が”、
ようやく、やって参りました!
その後は、こちらを向かなかったので、
本来のイベントに、集中する事が出来て、
少し落ち着いて来たので、
時々、目の前のイベントの事で、
話しかけて来る彼女に、
普通に、対応できました。
自然と、同じような所で、
会話が始まり、
同じような所で笑ったり、
丁寧語だったのが、
知り合いみたいな会話も、
混じるようになって、
こんな事は、我が人生で、
滅多にないのですが、
初対面のキレイな女性と、
自然に話せました。
大抵、キレイな人だと、
喜んでもらおう意識が強すぎて、
ちょっと暴走しちゃう傾向が・・
モテない男の性(さが)ですな。
私「いいよね~」
彼女「ね~」
時々、顔を見合わせると、
こんな感じで、
これが逆だったり。
今、書きながら思い出してみても、
昔からの知り合いや、彼女とか、
そんな感じで、初めて会った女性(ひと)
なのに・・・不思議な時間でした。
”パチパチパチパチパチ”(拍手)
観客の会場を包む、
大拍手が、
イベントの終わりを告げます。
彼女「ハァ~!
面白かったあ~!
帰りましょうか?」
立ち上がり、伸びをしながら、
彼女は、私に言いました。
私「面白かったですよね。
そうですね。
帰りましょうか・・・」
”ズキッ!”
どうして、こんな大事な時に、
我が体よ、悲鳴を上げるかな・・・
トイレは、大丈夫だったのですが、
背中が・・腰が・・・お尻が・・
悲鳴を上げまして、
珍しく、長く座っていたせいか
わかんないですが、時々あるのです。
こんなキレイな人と、
せっかく出会えたのに・・・
彼女「どうしたんですか?」
私「実は・・・・・・」
彼女が、ヘルニアという言葉を
ご存知か、わからなかったので、
実は、重たい荷物を運ぶ仕事を
していて・・・・
そういう事で、そうなってしまって、
今、激痛と戦っている所です。
と、短めに状況説明しました。
彼女「まあ、大丈夫ですか!」
彼女が、驚いた顔で、
心配そうに聞いてくれました。
私「いやあ・・ビックリさせて
ごめんなさいね。
よくあるんですよ。
しばらくしていれば
治りますから。
お姉さん、お忙しいでしょ?
先に、帰って下さい。
今日はね、お姉さんのお陰で、
楽しかった。来てよかったよ。
本当に、ありがとう!
帰り、気をつけて帰ってね。
心配しないで、大丈夫だから・・。」
名前を知らない女の人は、
私は、”お姉さん”と、
年齢関係なく、呼びます。
”昭和の男”というのは、
カッコつけたがりです。
本当は、帰って欲しくない。
でも、迷惑はかけたくない。
気持ちとは、反対の言葉を発します。
彼女「大丈夫です!
良くなるまでいます。」
私「え?
いやあ、悪いよ~。」
本当は、無茶苦茶うれしい私。
でも、顔に出さない・・
つもりでいるが、
たぶん、出てたと思う・・・。
彼女が、先ほど座っていた席に、
再び戻ります。
彼女「どこが、痛いんですか?」
私「背中と腰とね、お尻。
特にね、背骨の真ん中あたり
骨が出てるような所があるんだけど、
そこが、痛くてね。イテテテテ・・。」
ヘルニアの前なのか後なのか、
姿勢が悪いのもあるのか、
背骨の真ん中あたりのところで、
少しでっぱってる所が、いつも痛みます。
彼女「どこですか?」
そういうと、
手を伸ばして、私の背中の
真ん中あたりを、さわるのでした。
私「そんな。初めて会った人に、
そんな事させられないよ・・
悪いよ~、お姉さん。」
本当は、うれしい私・・・
彼女「あ!本当だ。
ここですか?
痛いですか?」
みんな出てるのかもしれないけど、
自分では、出てるようだと
思っている所に、
彼女の手が、優しくふれて、
ゆっくりと、なでてくれました。
私「そこだけど・・・
悪いよぉ・・
初対面の人にさあ・・・」
本当は、うれしい!
でも、必死で隠している私。
なにしろ、病院で
女性看護師さん
以外で、もう何年も、
こうやって、若くて・・
しかもキレイな女性に、
優しくさわられた事など
ないものだから・・・。
彼女「いいから、いいから。」
私「そうかい・・悪いね。」
心の中で、大きくガッツポーズ!
彼女の優しい手のぬくもりで、
だんだんと、痛みがなくなって来る
感じがしました。
私「あっ!
自己紹介がまだ
だったね。
オレ、
坂本猫馬っていいます。
48歳 独身です。
改めてよろしくね。」
何気に、独身をアピールする私。
彼女「えっ?
48歳なんですか?
お若く見えます。」
優しく手をさすりながら、
彼女がいいました。
私「そうかい?
若く見える?
そ~んな風に
言われた事ないな~。」
うれしくて、デレデレしてる私。
たぶん、笑ってたから、
なんとなく、バレていたと思う。
私「お姉さんこそ、
ずいぶん、
若そうなお嬢さんだけど。
20代前半って所?」
今、思うと
初対面の女性に、
年齢を聞いた私も、
どうかと思う。
彼女「”23”です。」
背中をなでてくれながら、
普通に答える彼女。
私「若いなー!」
私のリアクションが、
おかしかったのか、
クスクスと、笑っている彼女。
少し前に、トレンディドラマの
話をしましたが、
1991年放送の、
『101回目のプロポーズ』
という、ドラマがございまして、
みなさま、ご存知ですか?
武田鉄矢と、浅野温子が、
主演してたのですが、
当時、大変話題になりました。
役の年齢差が、「12歳」
役じゃなくても、年齢差が、
結構あるのは、見た目でねえw
当時、私は、中学生でございましてね、
ドラマをみて、友人たちと、
良く言っていたものです。
「武田鉄矢、みっともねえよなー。
いい年こいたオッサンがよー。
ダッセェ~~よな~~!
あはははは!」
こうやって、当時の武田鉄矢を、
友人たちと、笑っていたものです。
目の前にいる彼女との年齢差は、
”12歳どころじゃありません、”
”その倍以上です・・・・”
今、目の前にいる、
年の差が、2回り以上する天使に、
私は、デレデレしているのです。
あの頃の、武田鉄矢さんに、
私は、深々と土下座をして、
心の奥底から、謝罪したい心境です。
”本当にすいませんでした!”
こっちは、ドラマじゃなくて
現実なので、もう何も言えません。
天使の魔法で、私の背中や
腰などの痛みも、やわらいで来ました。
私「ありがとう。
お姉さんのお陰で、
だいぶ、楽になったよ。」
彼女「立ち上がれますか?」
私「ゆっくりとだけどね。
大丈夫、大丈夫っぽい。」
彼女「せーの。」
彼女が、やさしく補助してくれて、
楽に立ち上がる事が、出来ました。
私「ごめんね。迷惑かけて、
すっかりお世話に
なっちゃった。」
立ち上がると、
ショッピングモール内なので、
幾つもお店があって、
「喫茶店」っぽい店が、
目に入りました。
私「あのさ、良かったら
あそこのお店でお礼させてよ。
好きな物、頼んでいいからさ。」
もう何年も、こうして女性を
誘うなんて事しなかった私。
途切れ、途切れですが、
不器用ながら、やましい気持ちじゃなく、
ただ、お礼がしたい一心で誘いました。
彼女「そんな、とんでもない。
いいですよ。坂本さん。」
彼女が、初めて私の
名前を口にしてくれました。
もう何年も、病院や整体以外で、
こんな若い女性に、
名前を呼ばれる事なんかありませんでした。
私は、うれしくて。
命一杯、キザな男を演じます。
私「お姉さん。
ここは、
”カッコつけさせてよ”
ね、お礼させてよ。」
彼女「プッ・・・」
どうも、カッコつけさせてよって、
言葉が、おかしかったらしく、
吹かれてしまった。
私「そんなおかしかった?
お姉さんのまわりで、
こんな事、言う男はいないの?」
彼女「いませんよー。
言ってる時の、
顔も面白かったw」
最近の男は、そんな事いわんのか。
どうも、私の顔が面白いと、
感じてるらしい・・・。
とにかく、もう少しだけ
彼女といたい・・・。
私「ん~~~
お願い!」
結局、何十年経っても、
私は、キレイな女性に、
両手を合わせて、
お願いする事しかできません。
私には・・
”大人の余裕”は、
無理のようです・・・。
彼女「わかりました。
坂本さん、
”面白そう”だから、
一緒に行きます。」
彼女は、笑いながら
了解してくれました。
私「本当に!
ありがと~。」
(”やったぜ!”)
心の中で、またガッツポーズ!
とにかく、
一緒に行ける事に、
なりました。
歩きながら・・
私「ごめんね。
早く歩けなくて、
誰かと出かけると、
迷惑かけちゃうので、
普段から一人で
いる事にしてるんだけど。」
背中が痛かったり、腰が痛かったり、
するもんですから、早く歩けずに、
老人みたいな動きになります。
(すいません。大先輩方、
他の言い方が、無かったので。
また出るかと、思いますがお許しを。)
前を歩いていた彼女が、
くるっと振り向きます。
彼女「全然、そんな事ないよ。
大丈夫ですから。
ゆっくり行きましょう。」
周りを見ると、
幸せそうな、
若いカップルばかり。
腕を組んでいたり、
若い女の子の、
肩に手を回して
もたれ掛かってる男がいたり。
若い男が、女の子の手を、
引っ張って、駆けて行ったり。
”キャッキャッ”する若者たちの声が、
幸せそうに、響いています・・・
それに比べて・・・・
”何だ!このオレのザマは、
情けない!!”
目の前に、こんな素敵な女性がいるのに、
手を引いて、目の前にある、
あの店にすら、行くことが出来ない。
”何なんだ!
オレは!”
わが身の情けなさと、
悔しさ、怒りで、
くやし涙が、あふれそうになるのを、
必死で、こらえていました。
彼女「ゆっくりで大丈夫だから
行きましょ?ねっ?」
よっぽど悲しそうな顔を、
していたのか、わかりませんが、
何か変だな?と感じたのかもしれません。
いつの間にか、
私の隣に来て、
腕と背中に、
軽く手を、
あてるかあてないか
くらいの感じで、
私が歩くのを、
サポートしてくれたのでした。
”クラッ”と来る女性の香り
男性読者には、わかってもらえるかなぁ・・・
香水なのか、わかりませんが、
この香り弱いな~。
クラってきちゃうような、
私だけかもしれませんが、
あるんですよ。そういう香りが。
彼女が、そばに来てくれた事で、
座ってる時も、少し香りがして、
あっ、このいい香りは・・・!
みたいになってたものですから、
クラッと来る香りと、
彼女がそばに来てくれた事で、
また私は、幸せな気分に
戻る事が出来ました。
”満面の笑み”で・・・
私「行きましょうか!」
先ほどまでの、情けなさ、
怒りは、どこへやら・・
男という生き物が、単純なのか、
私が単純なのか?
落差がおかしかったのか、
隣で、クスクス笑いながら、
一緒に歩き出す彼女。
もはや、周囲のカップルなんか、
視界に入ってきません。
こんな、清楚で清潔感あふれる、
彼女と、こうやって一緒に、
歩ける幸せを、かみしめないと。
そりゃ、周りから見たら、
この光景は、
”娘に快方されながら、
歩いてる父親”
にしか見えないかもしれない。
でも、どう思われようと、
もはや、どうでもいいのです。
だって、今の私は・・・
”恋してるんだもの!”
はい、今これを読まれている、
あなた様が、プッって、
ふかれたのを、見逃しませんでしたよw
私だって、散々、若い頃に、
武田鉄矢さんを、笑ってきたのです。
少しくらい、笑われないと。
いいんですよ、遠慮なさらずに。
そうこうしている間に、
喫茶店みたいなお店に着きました。
2人並んで、自動ドアの前に立ちます。
自動ドアが開くと、
”いらっしゃいませ~♪”
若いお嬢さんたちが、迎えてくれます。
入った瞬間・・・・
”しまった!”
そう、心の中で思いました。
なんとそこは・・・
”お客さん全部
若い娘さんばっかり!”
どうも、若い女の子向けの
喫茶店?だったらしくて、
結構、混雑してました。
アウェイ感が、凄い!ハンパない!
店内にいる若い女の子が、
私を見ているのが、わかります・・・
(やだ・・・中年男よ・・・)
(どんな関係かしら?)
(お父さんかしら?)
そんな彼女たちの心の声が、
手に取るように、わかります。
明らかに場違いな中年男は、
お嬢さんたちの、
敵視のレーザービームを
浴びながら、席へと案内されます。
小さいテーブルを囲んで、
会い向かいに座る席。
ついたてがあって、
座ると外からは、
見えなくなるので、
とりあえず安心しました。
私「こんな、おしゃれな所
だなんて思わなかったよ。
お姉さんは、似合うけど。
オレなんか場違いでさ、
ジロジロみられてたよ。」
彼女が、笑いながら。
彼女「そんなことないですよぉ。
気にし過ぎですよ。」
私「そうかい?
あ、そうそう。
何でも好きなの頼んでよ。
お礼だから、遠慮しないで。
若い子が、好きそうなの
あるでしょ。」
彼女「すいません。
ありがとうございます。」
メニューを見る彼女。
私は、そんな彼女を見ている。
彼女「坂本さんも、
一緒に食べましょうよ。
一人じゃ、つまんないです。
コーヒーがいいですか?」
私「いやあ、昔は好きだったんだけど、
胃を悪くしてから、
飲まなくなって。」
彼女「私も、コーヒー苦手です。
じゃあ、紅茶なら?」
私「紅茶なら、飲める。
じゃあ、それで。」
彼女「あ!私、
このチーズケーキ食べたい!」
こういう時の無邪気な表情は、
手放しでかわいいなと、感じる私。
彼女「坂本さんも、
チーズケーキでいい?」
私「チーズケーキなら、
食べられるかなあ。
お姉さんが、それでいいなら、
じゃあ、オレもそれで。」
彼女「すいませーん!」
彼女が、手際よく
お店の人に、
注文してくれた。
よく考えると、
女の人と、
こんな2人きりで、
デートみたいな事するの、
10年以上ぶりかなあ。
本人は、デートだと
思っております。
お許し下さい。
珍しく普通に
しゃべれてる・・。
”恋愛ブランク”が、
あるのに・・・
彼女だからかな?
ちょっと気になってたので、
待つ間に、聞いてみた。
私「ねえ、お姉さん」
彼女「ん?」
私「どうして、
隣に座ったオレに、
話かけたの?
オレさあ、
顔がコワイって
言われて
こんなキレイな人から、
話しかけられるなんて、
まず無いワケよ。」
お調子者気質なので、
昔から、キレイな人には、
キレイだって、
ストレートに言っちゃうのです。
おかしな事いってるなと、
思ったのか、笑みを浮かべながら
彼女「え~!
そうなんですか?
話しかけやすい人
って思ったから。
顔コワイですかね?」
そう言うと、
彼女は、両手を前で組むと、
その上に、あごをのせて、
正面から私を見るのです。
また、あの吸い込まれる
ような瞳でみられて、
私は、また顔をそらせず、
ドキドキしているのでした。
彼女「コワイですかね~・・・
う~ん・・・」
ほんの少しだけど、
身を乗り出して
顔を近づけてくる彼女
私は、もう
どうしたらいいか・・・
彼女「面白いかなぁ・・」
私「え?」
彼女「面白いかな?」
どうも、彼女の中では、
私の顔は、コワイじゃなく、
面白いらしいです・・・
私「もういいよw」
23歳に翻弄(ほんろう)される、
48歳独身男。
彼女「あ~!
コワクないって、
事ですよ。
ごめんなさい。
ごめんなさい。」
”お待たせしました~。”
少し話が、聞こえたのか、
こちらも、お若いお嬢さんが、
少し笑いながら、頼んだものを、
運んで来てくれました。
私「どうも、ありがとう。」
私は、モテないけど紳士だ。
こういう、お店のお姉さんにも、
きっちりと、お礼を言う。
彼女「いただきまーす。」
私「いただきます。」
彼女が、上品にチーズケーキを、
食べている。育ちのいいお嬢さん
なのが、うかがえる。
私も、彼女のマネをして、
少し上品に食べてみる。
私「うまいね!」
実は、甘いものが好きで、
主に和菓子系だが、
こういうのも、好きだ。
思わず、彼女より先に、
声に出してしまった。
笑みを浮かべながら、
食べ続ける彼女。
おいしい物を、
食べていると、
会話が弾む。
たわいない会話を
している中で、彼女が、
「銀行にお勤めの人」
だと、いうのがわかった。
私「スゴイな~。
オレなんて、銀行なんか
縁ないもんなー。」
本当だから、仕方ない。
大変なんだろうなと思う。
若い人と話すというのは、
”異文化交流” だ。
ここで、だらだらと
書いても、皆さんが
退屈なされるだけなので、
話した内容は、
割愛させてもらいますが、
彼女との会話で、
分からなかった言葉がある。
私と同じくらいの、40・50代の方、
「エモい」
って、ご存知でしたか?
聞いた事があったが、
何だろうなと思った。
彼女の会話中に、
この言葉が、何回か出てきた。
「?」
私は、わからぬまま、
会話を聞き続ける。
どうも、気になってしょうがない。
恥ずかしい事ではあるが、
彼女になら、素直に教えを
乞えると、思ったので・・・
私「お姉さん。」
楽しそうに、会話を続ける
彼女に声をかけた。
彼女「ん?」
私「教えて欲しいんだけど。
”エモい”
って、何のこと?」
彼女「え?」
キョトンとした顔をしていた。
そりゃそうですよね。
こんな事、聞く奴は恐らく
彼女の周りには、おらんでしょう。
私「いやー。考えたんだけどね。
わかんなくて、
”ナウい”
なら知ってるんだけどね~・・・」
”エモやん”もあったけど、
彼女を混乱させるだけの、
昭和知識なので、これは控えた。
彼女「ナウいって何ですか?
初めて聞きました!
教えて下さい。」
そりゃそうだ。
23の娘さんが、”ナウい”を
知ってたら、逆にスゴイ。
互いに笑って、
まずは、”エモい”を、
私が、教わる事に。
小学校の先生みたいに、
優しい教え方で、
私は、一つ”おりこうさん”
になる事が出来ました。
なんだか、ただキレイとか
美しいじゃなくて、
言葉に出来ない感情まで
含んだキレイとか、
えもいわれぬとか、
そんな所から、
来てるのかしら?
解釈が、もし違っていたら、
私が悪いので、彼女のせいじゃないですw
「彼女、エモいね!」
これは・・・使い方、
合ってますか?
コメントで、教えて下さいw
私「へぇ~!
そういう事だったのか。
面白いね。ありがとう。
すっきりしたw
じゃあ、”ナウい”ってのは・・」
恐らく彼女が、この先、
使う事のない”ナウい”。
でも、彼女は、
まっすぐな瞳で、
興味深く、
私の説明を、聞いてくれました。
彼女「そういう意味が
あるんですかぁ。
知らなかったです。」
いえ、知らなくていいんですよw
真面目な子なんだなと、感心。
彼女から、
「好きな映画は、何ですか?」
と聞かれました。
待ってましたとばかりに、
私の好きな
喜劇王”チャップリン”
の話をしました。
彼女は、名前を知ってるけど、
観た事はない、と言うので、
何も見なくても
スラスラと話せる
一番好きな
「街の灯」(1931年)
という映画を、
彼女に、語って聞かせました。
夢中になって話しているのを、
彼女は、楽しそうに聞いてくれて、
終わった後に、
彼女「スゴイ、面白かった!
観たことないけれど、
坂本さんの説明が、
面白くて、
こんなに映画の事を、
面白くしゃべれる人を、
初めて見ました!
今度、観てみます!」
こう、お褒めの言葉を頂戴しました。
そりゃ、そうですよ。
目の前に、天使がいるのですから、
”好きな人に喜んでもらいたい!”
”好きな人の笑顔がみたい!”
このスタンスは、
10代の頃から変わらず、
必死になってしまうのです。
何だって、やりますよw
さて、そのチャップリンの言葉に、
次のようなものが、あります。
人生はクローズアップで見れば『悲劇』
ロングショットで見れば『喜劇』
チャールズ・チャップリン(Charles Chaplin)
有名な言葉で、広く知られています。
ご存知の方も、おられるかと思いますが、
少しだけ、説明したいと思います。
チャップリンの、子ども時代の出来事です。
食肉工場が、チャップリンの
住んでる所の、通りにありました。
ヒツジがいつも、その通りで連れて行かれるのを、
チャップリン少年は、日常の光景として見ています。
ある日、ヒツジが一頭、
お肉になるのが嫌で、
逃げ出すワケですね。
通りですから、肉業者だけじゃなくて、
街の人も、捕まえようと沢山、
やって来て、大騒ぎになります。
もう少しで捕まえられようとする所で、
スルッと、ヒツジが抜けたり、
跳んだりして、いわいる”ドタバタ”に、
なっていくわけですな。
チャップリン少年は、
この光景を見て、”ゲラゲラ”と、
大笑いしながら見ていたのですが、
とうとうヒツジが、捕まってしまいます。
その時、チャップリン少年は、
連れて行かれる、
ヒツジの悲しそうな顔を見て、
初めて、それが、
『悲劇』
だったと気づきます。
チャップリン少年は、
すぐに、家にいる母親のもとへ、
全力で走って帰ります。
家につくと、泣きながら、
母親に、”こう”言うのでした・・・・
「お母さん!ヒツジが殺されちゃう!
ヒツジが殺されちゃうんだ~!」
この1件が、チャップリン自身の
映画作りの原点になったのかも、
と、自伝の中で語っています。
つまり、どういう事かと言いますと、
他の同時代の、コメディ映画は、
”喜劇のみ”
笑わせるだけですね。
それに比べてチャップリンの映画は、
『喜劇』の中に、『悲劇』がある。
喜劇と悲劇が、混在しているのです。
だから、他の同じような映画と違うなと、
感じるのは、そういう所です。
出来事には・・・
一方から見れば 『喜劇』
違う一方から見れば 『悲劇』
もっと分かりやすくすれば、
自分にとっては、『悲劇』でも、
他人にとっては、 『喜劇』である。
と、言う事になります。
私は、生来の”喜劇役者”です。
今まで自分の身に起きた、『悲劇』を、
さすがに、全てとは言いませんが。
『喜劇』に変えて、
聞く人を、喜ばせて来ました。
人に喜んでもらったり、
笑わせたりするのが、大好きです!
この日もそうでした。
彼女を、飽きさせてはいけないと、
今までの、自分に起きた沢山の『悲劇』を、
『喜劇』にして、語りました。
彼女は、こんな男は、
今まで、見た事ないと思いますからw
楽しく笑ってくれました。
ただ・・・・・
そんな私でも・・・・
ここ何年かに、わが身に起きた『悲劇』を、
『喜劇』に変える事は、出来ないでいました。
変えるどころか、誰にも話す事すらしていません。
出来ないし、この時まで・・・
”その考え”すら浮かばないのです。
何でこの時に、
そういう行動に出たのか、
あれから、数か月経ちますが、
未だに、言葉で説明出来ません・・・。
”目の前にいる彼女に、
ここ数年間の事を、聞いてもらいたい!”
初対面の、しかも自分より半分以上も、
年下の彼女に、大変迷惑な話だと
ご覧になられている方は、
きっと思われるでしょう。
でも、この想いは、止まらずに、
既に、口から言葉が出ていました。
私「あのさ・・・・
お姉さん・・・」
彼女「はい?」
私「1つ・・
出来たらでいいんだけど・・・
聞いて欲しい話が、あるんだ・・。」
彼女「何の話ですか?」
私「聞いてて、あんまり
いい話じゃないんだけど、
ここ何年かの・・・
オレの事をね、
お姉さんに、聞いて・・
・・・もらいたいんだけどさ・・
・・・・ダメかな?」
先ほどまでと違う私に、
彼女も何か感じたのか。
彼女「大事なお話?」
私「・・・うん。」
彼女「えー・・でも・・
私なんかで、いいんですか?
うーん・・・でもなあ・・・」
断られそうな雰囲気。
困らせてしまっているのは、
わかっているけれど・・・
彼女に、聞いてもらえれば、
何か、変わりそうな・・・
自分が、前に進めそうな気がして・・
私「初めて会った人に、
こんな事、頼んで、
迷惑なのは、わかってる。
本当に、ごめん。」
私は、真っすぐに正面を見て、
今度は、自分から、
”吸い込まれる瞳”に、
飛び込んでみた。
私「何年か前に、
仕事で体を悪くして、
それで、
仕事も失って・・・
ここ何年かは、
体を良くする事
ばっかりで、
他の事は、
考えないように
してたんだけど・・・・
ようやく、
ここ最近良くなって、
次を考えなくちゃと
思い始めてるんだけど・・
考えたくない自分もいて・・
いつまでも、このままじゃ
いけないのは、わかってるんだけど
きちんとお勤めなさってる
”あなた”からすれば、
だらしなく、ダメな男に、
映ってるのは、
よく、わかってるんだ。」
彼女は、視線をそらさずに、
首を、左右に振っている。
私「オレの人生ってさ、
ほとんどこれの繰り返し。
ただ、迷惑かけて、
ムダに、長く生きてるだけなんだ。
やっと立ち直れるかと
思ったら、いつもコケル。
だからね、だいぶ年上でも、
あなたの方が、
きちんと生きているんだ。
どーしょーもなくて、
なーんにも無い、
無いだらけの男なんだ。」
少し濡れた瞳で、彼女は、
私を見つめている。
私「でもね。今日、
初めて会ったあなたと、
こうして楽しい時間を過ごして、
不思議だけど・・・
だんだん元気になってきて、
なんだか、うまくいえないけどさ、
”オレって生きてるな~!”
って感じたわけ。
なんか、あなたといると、
”ちゃんと生きなくちゃ!”
”もう一度だけ、何かやってみたい!”
と、思ったわけなんだ。」
私が、オーバーリアクションで
会話を進めるので、
彼女の表情に、再び笑みが戻る。
私「今まで、誰にも・・
話せなかった・・・
ここ何年かの苦しみを、
あなたに聞いてもらえれば
理由は、わからないけど、
なぜかね、なぜか・・
”前に進めるような気が
そんな気がしてきたんだ!”
上手く説明できなくて
・・・・・ごめんね。」
彼女は、小さく、
首を左右に振る。
彼女「私が聞いても・・・
何も出来ないですけど・・
それでもいいんですか?」
私「お姉さんにね、
話を聞いてもらえる
だけでさ、
”何か変わる気がするんだ”
いやだったら
途中でやめるからさ、
お願い・・・
出来るかな?」
彼女は、少し考えると・・・
彼女「・・・はい」
「ライムライト」(1952年)
という、チャップリンの映画があります。
内容はというと・・
チャップリン扮(ふん)する、
かつては、一世を風靡(ふうび)して、
今は、酒浸(びた)りの日々を
過ごしていた
老道化師
「カルヴェロ」
そんな彼の前に現れた、
クレアブルーム扮する
若く美しいバレリーナ
「テリー」
彼女は、人生に絶望し
自殺を図る。
そんな彼女を、
自身の生活が楽ではないのに、
ヴァイオリンまで、
質に入れて、彼女の回復を
祈り助ける。
足が動かなくなった彼女を
勇気づけて、再び舞台に上げて
テリーは、大スターに・・・
やがて、カルヴェロは、
熱心なテリーに励まされ、
もう一度、再起をかけて
舞台に挑戦する・・・
年の離れた若いテリーと、
接している
カルヴェロの気持ち、
戸惑いが、今は分かる。
そして、今、
私は、目の前にいる
テリーに励まされ、
再び、舞台に挑む、
老道化師
カルヴェロなのだ!
私は、毎日のように、
重たい荷物ばかり運んでいた
倉庫での日々を、彼女に語り始めた・・・
note作家デビュー 3か月記念作品
「四月の瞳 <前編> 終わり 」
<後編につづく・・・>
素敵な見出し画像 minto先生様
(初めて、この素敵な画像を拝見した時、
あまりにも、彼女に雰囲気が似ているので、
しばらく泣いてしまいました。
後編で終わりに、しっかりとお礼を致します。
noteを始めて、何度もこの作品を書き始めても、
上手くいかず、この素敵な画像のお陰で、
ようやく前編が、完成しました。
minto先生は、いつも女性の事を
書こうと思うと、それに合わせた画像を、
描かれていて、本当にスゴイです。
後編も、お借り致します。 )
(少しだけあとがき)
果たして、最後までお読み頂けた方が、
おられたのか、どうか・・・
最初の投稿時みたいな
不安にかられていますw
長い作品を、最後までお読み頂きまして、
本当に、ありががとうございました。
みなさまの愛に支えられまして、
noteで3か月続けることが、
出来ました。
本当にありがとうございます。
その記念作品という事に、
”需要のない”坂本猫馬
「恋愛シリーズ」を、
ぶつけるというのも、
何なんですが。
しかし、「ラムネ色のキミ」は、
トロフィーまで頂いたので、
需要は、あるのかしら?
猫馬先生は、お話を作るのが、
お上手だから、これも創作なんでしょ?
と、お思いかもしれませんが、
これは、みなさまとお会いする前の
4月にあった、実体験で、
”エピソード0”
という位置づけになります。
実はこれ、彼女への
”ラブレター”のような
つもりで書いていますので、
私の心理描写があるので、
おかしな芝居みたいになってますが、
基本的には、あの日を
再現しております。
彼女に読んでもらいたいなーと、
思っておりますので、
創作でないため、
少しテンポが悪い印象を、
お読み頂ける方に、与えると思います。
創作だったら、
もっと私を、格好よくしていますw
こんなの書かないで、
「オレと相棒」の続きを
楽しみにしているのにと、
お怒りの方もおられると思います。
おかしな話に聞こえますが、
私は、2つの違う作品を、
同時に書いていた方が、
筆が進む方なので、
片方を書いてる時に、
違う片方のアイディアが
生まれたりするので、
1つだけ書いてるより、
こっちの方がいいのです。
だから、第5回とこれを一緒に
書いてて、第6回も始めてます。
お時間は、頂きますが、
本人、彼女以外の女性には、
目もくれておりませんのでw
真面目にやっております。
少しお時間は頂きますが、
第6回も、早めに、
みなさまに、ご覧頂ければなと
思っております。
後編でまた、しっかり書きますので、
今回は、この辺りで。
いつもより、長い作品で申し訳ありません。
後編、待っていてくれる方が
おられるか、わかりませんがw
楽しみに、後編もお待ち下さい。
次は、「オレの相棒 第6回」で、
お会いしましょう!
さようなら!
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![坂本猫馬](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/142817318/profile_865a9f594e9c3209d8bd00483d5051c7.jpg?width=600&crop=1:1,smart)