好き？好き？大好き？
僕の隣で寝転がる彼女はこう言った。
「私のこと好き？どこが好き？」
僕はこう思った。
「めんどくさいなぁ」
だから、めんどくささを丸出しでこう言った。
「好きだよ。全部好きだ」
□
最近 R・D・レインの「好き？好き？大好き？」という詩集を読んだからその感想をまとめようと思う。これは精神科医のR・D・レインが精神病患者との対話などをもとに編集した詩集だ。詩集だから特に内容とかあらすじがあった訳じゃないから、言えることは少ないかもしれない。だけど僕は言葉を尽くして僕の思いを近似しようと思う。僕の言葉が僕の気持ちに収束する保証はない。
□
「好き？好き？大好き？」という詩集の中にはいくつかの詩が出てくるが、その最後に表題作の「好き？好き？大好き？」が収録されている。内容としては彼女がひたすら「好き？好き？大好き？」と彼に問いかけるものだ。最初に「好き？好き？大好き？」と聞いて、そのあと「世界全体よりもっと？」とか「私の眉毛すき？」とかひたすら問い詰めていく。彼はその全ての問いに対し肯定的に答える。そして最後に彼がいう。
いつまでだって決して君を置きざりにしないって誓うよ、胸の上に十字を切るよ、そして嘘をつくくらいなら死ねたらと思うよ
それに対し彼女はこういう。
ほんとうに、好き？好き？大好き？
そしてここで「好き？好き？大好き？」は終わる。
この詩に対する感想は色々あった、例えば「この彼女ってめんどくさいな」とか、「なんか幼稚な子だな」とか、「なんかよくわかんないな」とか。でも、一番感じたのは寂しさだ。彼女の承認欲求は果てしない、満ちることを知らない。何度彼が好きだと、大好きだと言っても、決して満足しない。そして僕はこの感覚を覚えている。
なぜか僕の周りには沢山の綺麗な女の子がいて、みんな可愛くて、僕はそれをみんなに伝えたいと思っている。でも僕が「可愛いね」って言ってもこう返ってくる。
私？可愛くないよ、全然。でもありがとう。
僕の言葉は無力だ。一大学生の僕の言葉には説得力がないのかもしれない、イケメンじゃない僕の言葉には力がないのかもしれない、彼女が自信を得るには到底足りないかもしれない。でも彼女はこうもいう。
もっと、可愛くなりたい。可愛いって言われたい、好きって言われたい。彼女ができたら、彼女に可愛いって言ってあげなよ。
最近の女の子はすごく美に執着している。恐ろしいほどに可愛いを求めている。ネット上のインフルエンサー達はことあるごとに、自撮りとかを上げて可愛いと言われるのを待っている。彼女たちは本当はこう言いたかったのかもしれない。
ほんとうに、好き？好き？大好き？
本当はみんな言わないだけで、心の中ではそう叫んでいるのかもしれない。そう思うとさっきまで幼稚で異常に見えていた彼女はとても純粋で正直な女の子に見えてくる。最初は異常だと思っていた彼女達が実は自分のなかにもいることに気づいたとき、そこら中に溢れていると気づいたとき、僕はこの詩をただの詩だとは思えなくなってしまっていた。
□
日本にこの詩集の存在を大きく知らしめたのはおそらく戸川純だろう。彼女は「好き好き大好き」という楽曲のサビでレインの詩を以下のように訳した。
愛してるって言わなきゃ殺す
この曲を聴いた多くの人はやっぱり彼女を異常な人間だと思っただろう。実際彼女は当時イロモノ扱いされていたと聞く。でもやはり僕は彼女を異常とは思えなかった。
□
他にもアニメ版エヴァンゲリオンの第２６話のサブタイトルが「「好き？好き？大好き？」の英題である「Do you love me ?」であった。シンジくんは親の愛を知らずに育った。身近な人間に愛されることを知らなかった、そんなシンジくんはきっと心の中でこう叫んでいたに違いない。
ほんとうに、好き？好き？大好き？
□
多くの人間は大人になると、「私のこと好き？」なんて聞けないし、聞いたらヤバい奴だって思われてしまう。だからみんな、形を変えて、言葉を変えて、媒体を変えて、叫び続ける。
ほんとうに、好き？好き？大好き？
僕もこんなところで、性懲りもなくnoteなんか書いてないで、もっと素直に言えればよかったのに。
言ったところで意味はないかもしれない、伝わらないかもしれない、伝わっても満たされないかもしれない。だけどそう言えてたら、僕は彼女ともっと上手くやれていたかもしれない。彼女の心の叫びに気づけていたら、僕は彼女をめんどくさく思わなかったかもしれない。だからもし今度そう叫んでいる人を見つけたら、次は言ってあげようと思う。
ほんとうに、好き。好き。大好き。愛してる。
たとえそう言えなくても、心の声に耳を傾けるくらいはしてあげたいな。
□
あと誰か俺にも言って！好き好き大好きって、言わなくても殺さないけど、愛してるって言ってー！！！！