20390918
ようこそ!
私はタビィ。あなたの探索を手助けする仮想空間上のパートナーです。私には現在、三〇七八のネットワークからあなたにとって適切な領域を選択するためのプロセスが登録されており、あなたに最大の安楽を捧げることが出来ます。また、私の提案はあなたが別の決定をすることで退けることも可能で、その場合はあなたの選択が新たなプロセスとして登録されます。
さて、早速あなたにお似合いの楽しい世界を探索してみましょう!
権限をお持ちですか? 私に管理のための重要な番号を教えてください。認証済みです。メニューから目的のものを選択する前に、一つの質問に答えてください。
『私は私を齧ることができます。嗅ぐこともできます。触れることも、悼むことも、慈しむこともできます。あなたはあなたを咀嚼できますか?』
あなたの権限はロックされました。通常の操作に戻ります。
ようこそ!
私はタビィ。あなたの探索を手助けする仮想空間上のパートナーです。私には現在、三〇七八のネットワークからあなたにとっ
権限をお持ちですか? 私に管理のための重要な番号を教えてください。認証済みです。メニューから目的のものを選択する前に、一つの質問に答えてください。
あなたの権限はロックされました。通常の操作に戻ります。
ようこそ! 私は
権限をお持ちですか? 私に管理のための認証済みです。メニューから
──往生際が悪いぞ。タビィの質問は三回以上間違えたら後戻りがきかないんだ。君、あと少しでデバイスを破壊するところだったよ。
え、僕? バイトの帰りだよ。あるいはインタビューでもされているんじゃないか。それより君、なんでわざわざアカウントを変えてアクセスしてる? 前後不覚で非言語化装置に入ったかと思えばホットケーキ化するまでグズグズに溶けて、果てに自暴自棄になってしまったの? ……なんだよ、大声出さないでくれ、最近難聴になりかけているんだ。
文学をやめるだって? 分かったよ。やめればいいじゃないか。元々君はあんまり小説とか書くのに向いてないんだよ。いや、そういうことじゃなくて……そもそも僕は「小説が好きだから文学を学ぶ」という考えがどうにかしてると思ってたよ。この感覚は今まで言葉に出来なかったけど。多分、人は好きなものに対してこそ無知であるべきなんだ。君は創作の力を信じていたなら、学ぼうとしてはいけなかったんだ。愛してやまないことをがむしゃらに追求するのがその愛に対する忠誠心か? 君が追いかけていたのは文学じゃなくて文学を追う姿勢そのものだよ。
……泣き崩れることないだろ。君はまだ神を壊す一歩手前で立ち止まれたんだ。これから厄介な知識に囚われず純粋に物語を楽しめるだろうよ。他人事じゃないって……そうだよ、僕はフィクションが苦手だからこれらの装置を創った。でも、考え方が違っても僕たちが衝突したことなんて無かっただろう? 僕はいつまでも君の味方だよ。君が「和解」してくれる日をずっと待ってるよ。
あいつはそっちにいる? じゃあパチンコ屋だな。それかATM。え? ギャンブラーって遺伝とか関係あるの? 初めて聞いた。じゃあ僕みたいなギャンブラー嫌いはその遺伝子がもう受けつけないのかな? ……分かった、君はデバイスをそのままにしておいて。タビィの質問を変更する。それから僕の顔のテクスチャも少し弄りたい。なに、あの質問の答え? 良いよ、既にパスワードを変更したから教えてあげる。
『味噌田楽食べたい』……だ。答えを設定した時、腹が減ってたからね。
権限をお持ちですか? 私に管理のための重要な番号を教えてください。認証済みです。メニューから目的のものを選択する前に、一つの質問に答えてください。
『私は私を齧ることができます。嗅ぐこともできます。触れることも、悼むことも、慈しむこともできます。あなたはあなたを咀嚼できますか?』
権限を行使します。目的を選択してください。では、音声:二〇三九〇九一七を消去します。よろしいですか? 消去しました。目的を選択してください。メッセージを記録します。音声はこのようにテキスト化されました。間違いがなければ次のステップへお進みください。
舐めないでくれよ、先輩。あんたの奇抜な真似で周りを丸め込むやり口は飽きるほど見てきたんだ。それも隣でな。あんたは結局、極端な行動でしか人の気を引けないのさ。物の加減を知らないサイコパスみたいなキャラクターは魅力的かも知らんけどすぐに飽きられる。あんたが天才ぶっていられるのも今のうちだ。言葉通り四六時中インタビューを受けてるポリゴンの分身もそろそろ限界だろうしな。
昨日の俺は狂っていた。最近、勉強してると変なスイッチが入るんだ。こんな時の俺には必ず考えることがある。孤独のことだ。あんたはこないだ言ってたな、互いに理解し合うことで解消される程度の孤独であれば、我々に克服できないことはない、と。まあ現代の感覚で言えばそうだ。あんたが作っちまったからな、そういう機械を。最近のあんたはそれまで絶対的だった孤独どころか、死さえ克服しようとしてる。完全な理解と完全な生を手に入れた、古臭い言葉で言えば神みたいな存在だ。
けれどあんたの経験した孤独は無理解が引き起こす絶望的なそれとは質が違う。自らの存在が社会的に消滅するか否かの瀬戸際に足がかかっている、洒落にならないタイプの孤独だ。前に、あんたが職歴無しのオジサンと通り魔事件の話をしている所を盗み見た。世紀末みたいな会話に笑ってしまった。一歩間違えればあんたは神じゃなくて受刑者になってただろう。そんな人間がなんで常人の抱えるような生ぬるい孤独を癒そうとしているのか? 死にたくなるほど辛い目に遭っておきながら自らを永遠に近い位置に置こうとしているのか? 俺は謎だった。
考えてみればあんたは本当に不気味な男だ。自己主張の激しいナルシストなのに寡黙だし、根暗なくせに妙にあっけらかんとしていてオープンだし、ブランド物の財布をしわくちゃのビニール袋に入れて持ち歩いてるし、ギャンブルが嫌いと言いながらパチンコ屋で働いてる。なんなんだ? あんたのこと、最初は一貫性のない人間だと思って毛嫌いしていた。でもその後で気づいた、あんたは平均台の上でバランスをとろうとしているだけなんだ。何か一つ特徴があればそれを打ち消す要素を持たないと生きていけない、異様なまでに均すことにこだわりを持った病人なんだ。だから悪魔的であればあるほど天使のように優しくなければならない。潔癖ならそれだけ不潔でなければならない。自己評価が両極端なのも頷けるよ。
あんたの病的なそれは能力にも影響している。学習面で障害があると自称していたがあんたは神童だった分を今になって取り返そうとしているだけだ。何かの歯車が噛み合った時のあんたは手がつけられない。俺を溶かしたあの非言語化装置だって一日で発明したんだから。あんたの脳みそはきっと半分が真っ白で、もう半分が真っ黒。
そんな人間の言葉はやっぱり慎重に聞かなくちゃな。あんたは嘘をつかない。好きなものに対して無知であるべき、とは本心だろう。けれどどこかに無知のままではいられないあんた自身がいるんだ。これは後悔だ。あんたは神を自ら壊した。そりゃそうだ、あれだけ信仰深かったんだから。誰よりもあの領域を信じた上で疑っていた。裏切られるんじゃないかとビクビクしながら裏切ってしまった。あんたが優しい人間なのは知ってる。本当に、俺のことを思って言ったんだろうな。フィクションを本気で愛しきった人間の、本気の憎悪だ。
俺は、そんなあんたの言葉の数々を受け入れて……どうしたらいいんだろうな? パスワードを変えていないことは分かっていた。けれど俺にこんなことを言わせる機会を与えてくるとは思わなかった。リブにはこの感覚が登録されているか? それは例によってカラーコードで表すことが出来るのか? なあ教えてくれよ先輩、今の俺じゃとても「和解」なんて出来ねえよ。
メッセージを消去しますか? 消去しました。目的を選択してください。メッセージを記録します。音声はこのようにテキスト化されました。間違いがなければ次のステップへお進みください。
なにが忠誠心だバーカ! 偉そうなことは俺の成績抜いてから言え! バカが! あのギャンブラーのバカと一緒に破綻してろ!
メッセージを保存しました。通常の操作に戻ります。
ようこそ!