![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/133325291/rectangle_large_type_2_eae519e4b0845556be3e66c3f98b9ee0.png?width=1200)
つくって選ぼ!
生きることを選ぶ、ね。
『選べ、生きることを』っていうのは、ポジティブなスローガンだった。
おれたちはよくそこに言葉を付け足して遊んでた。
例えば、そうだな。
選べ、ブランド下着を。
冷め切った関係がまた燃え上がってくれるようにという虚しい希望を抱いて。
選べ、バッグを。選べハイヒールを、カシミアを、シルクを。
誰かに認められてるって優越感に浸ることを。
選べ、パロディを。
ユーモラスなキャラクターがこれ見よがしに言い放った名言を。
過重労働で人が死にがちな医療や福祉の現場なんか無視して、アイフォンのメモに綴っとけ。
選べ、SNSを。
Xを、インスタを。
ありったけの持論を吐き散らかして、会ったこともない人間に自分が優秀だと思わせろ。
選べ、ただの言葉を世界に公開し、だれかがどこかで気にかけてくれるようにと祈ることを。
選べ、比較することを。
あいつらと比べれば自分はまだマジだって信じるために必死になることを。選べ、上を見ないことを。
そうすりゃあのイカロスだって「いいね」してくれる。
あの世で拡散してくれるかもな。
選べ、意味の分からない言葉に期待することを。
理屈が崇拝されるこの素晴らしい現代を。
人がどうして生まれたのか解明されていなくても、論理武装しておくことを。そうしてエゴを一網打尽に完封することを。
選べ、実は不倫していた芸能人のニュースを。
選べ、有名人の訃報を。
選べ、ブラックジョークを、枕の高さを、登録するチャンネルを。
5秒でスキップされる広告以下の人生を。終わりなき冷笑の風潮を。
選べ、0時間契約と2時間通勤を。
選べ、職業を、車を、
選べ、この天国に、あるいはこの地獄に子供を産み落とし、産まなきゃよかったと内心呟くことを。
へたりこんで、誰かん家で作られたよくわからない音楽とストゼロとショート動画をよくわからないままキメて、苦痛を紛らわすことを。
選べ、果たされない約束を。
どこにもない居場所を、目的を。
過去の過ちから何一つ学ばないことを。歴史が繰り返すそのさまを。
選べ、時間のかかる受け入れを。
ずっと望んできた何かではなく今あるもので満足することを。
妥協し、そんなもんだと平静を装おうことを。
選べ、失望を。
選べ、愛する人の喪失を。
彼らが目の前から消えて、それと同時に心のどこかが死んで、いつかある日それに気づく頃には少しずつ誰も彼も消え去って、自分が生きてるのか死んでるのかすら分からなくなることを。
自分の未来を選ぶんだ。選べ、生きることを。