丁寧な暮らしとかではなくて
イヤホンを耳につなぐ。
ランニングシューズに足をつっこんで夜の公園に向かった。
人には恵まれていたけれど、うまく馴染めていない会社員生活に疲れが出はじめて、別の道がないものか調べたり考えたりしていた時期だった。
働き始めてからすっかり運動習慣がなくなっていたので、走ったのは久しぶりだった。春の夜風が気持ちよかった記憶がある。
ラジオを聴いたのも久しぶりだった。
その日たまたま耳にしていた番組は、その夜の雰囲気や気分にぴったりで、ブランクの割りに地面を蹴る足は軽快に進んでいた。
少しかすれたラジオ番組から、初めて耳にするバンドの生演奏が流れてきた。
ちょっと気だるい温度感とギターサウンドにグイグイ引き込まれていった。
数曲演奏があったところで、「朝ごはん」の演奏がはじまった。
ゆるやかな曲調で、うたわれていたのはごく普通の日常のこと。
でも、ずっとひっかかっていた何かがすごく腑に落ちた感覚があって、とり肌が立ったのをよく覚えている。
丁寧な暮らしとかそういうものではなくて、もっと地味でスケールは小さいけれど、なんというか確かな生活感だ。自分が欲しいものは、自分が好きなものは、そこにある。曲を聴きながら、そう思った。
会社員生活と距離を置くことになったのはもう数年先になったけれど、この時感じた感覚は今も変わらない。
いつ聴いてもすごく良くて、大好きな曲です。